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幕間1−3 はじめての友達

「ミツキ、折り入って相談したいことがあるんだが・・・・」

「な、何だよ、改まって・・・・」


 薄暗い教室の中、デスクトップの画面から放たれる淡い光がミツキを照らす。

 辛うじて表情は見える程度で、一筋の汗が彼の頬を伝っているのが確認できる。

 余程警戒しているのだろう。

 まあ、彼にとっては然程重要な話題ではないので、そこまで緊張感を持たなくてもいいと思うが____。

 正直、余計に話しづらくなってくる。

マキナはフーと息を吐き、早速本題を切り出すことにした。


「ボクは先日、クラスメイトの一人と友人関係になっていることは覚えているよね?」

「ああ、・・・・ってか、俺その場にいたしな」


 ミツキは僅かに警戒心を抱いているようで、どこかぎこちない口調だ。


「そう、ボクは彼女、結城コハナと出会い、友好的な関係を築き上げている」


 「そこでだ!」と声を張り、今日ここに呼び出した目的を告げることにした。


「その親睦を深めるイベントの一つとして、パーティーを開催したいと考えている!」


 手に持っているスマホを操作して、天井に収納されているプロジェクターを出す。

 ウィーンという音が鳴り止んだところで、映写機で投影させた。


「題して、『友人十日記念!黒鉄マキナと結城コハナによる親睦パーティー』!!!!」


 周囲からステレオスピーカーからどんどんパフパフという音が鳴った。



「・・・・・・」


 ミツキは表情が固まったまま微動だにしない。

 疑問に思ったが、時間が惜しいので話を説明することにした。


「このパーティーの概要だが、主役はもちろんボクとコハナだ。そして、パーティーの出席者には彼女の親族と友人たちを招待したいと考えている。そこでボクたちは正式に友達であることを認めてもらうんだ。そして、場所は『みらい星空ヒルズ』の三十九階、つまり最上階の予定だ。日程に関しては予約を取る時に考えるとしよう。因みに催し物ではプロのミュージシャンやオペラ歌手を呼ぼうと考えているが、これも未定だ」


 マキナは親睦パーティーについて、只管熱弁した。


「他にもいろいろ考えているが、まず問題なことが一つあるんだ。それはコハナをどう誘うかだ。こういうパーティーを開催したいと考えたことがなかったからね、どうも勝手が分からないんだ。そこで君のアドバイスを聞きたいと考えている」


 棒立ちになっている彼の瞳を真っ直ぐ見据え、改めて要件を伝えた。


「何かいい方法があるかな?」



 正直、すぐに案が出るとは考えていない。

 寧ろそれなりに時間が掛かると想定している。

 ところが、すぐにミツキはすぐに挙手をし、発言を求めたのだ。


「ん?もう案が出たのかい?」


 意外にも早く意見が出そうなことに驚きだが、すぐに納得した。

 ミツキはよくクラス内の人間関係はよく見ており、客観的に物事を分析している。

 主観ではなく客観であるため、情などの邪念が反映されることなく純粋な意見が導き出される。

 この場合、これ程信頼できる意見はない。

 マキナは胸の内に期待を抱きながら、耳を傾けた。



「その・・・・ツッコミたい気持ちはあるが、いろいろと一生懸命考えているようだから敢えて言わないでおくけど、これだけは言わせてもらう」


 勿体ぶった言い回しをすると、ミツキはマキナの両肩に手を置いて言葉を続けた。


「止めとけ」


 その瞳には哀れむようなものを感じた。

 ミツキは手を肩から退かすと、背を向けて扉の方に歩き出す。


「良かったな、パーティー開く前に俺に相談しておいて。下手したらお前折角できた友達なくすところだったぞ。そうなる前で本当に良かったな」


 そんなことを言いながら、「それじゃ俺はこれで」と教室から出ようとした。



「ちょっと待ってくれ!」


 だが、マキナはそれを阻止し、ミツキの制服の襟を引っ張った。

「ぐえっ!?」と苦しむような奇声を上げる。


「げほっ、テメ、何すんだ!」


 首を押さえ、咳き込むミツキ。

 しかし、そんなこともお構いなしにマキナは両肩を掴んで問い詰めた。


「ど、どうしてだ?どうして親睦を深めるパーティーを開くだけで、友人関係に亀裂が入るんだ?何が、何が問題なんだ?パーティーの概要か?何か不備があるのか?教えてくれ。いったいどこに嫌われる要素があったというんだ?」


 思わず早口になり、ミツキの両肩を激しく揺らした。

 それくらい何に問題があるのか分からなかったから。


「お、お、落ち着けマキナ。死ぬ・・・・それ以上やったら死ぬから・・・・・・脳みそがミンチになりそうだから・・・・・・・・」


 そう言われたので揺するのを止めて、両肩から手を離した。

 取り乱してしまったことを自重し、一旦冷静になろうとする。



 ミツキは顰めた顔で頭を押さえながら言葉を発した。


「まあ、パーティーのどこが悪いというか・・・・そもそもパーティーを開くこと自体おかしいんだよな・・・・」

「どうしてだい?」

「えーっと、友人十日記念だっけ?はっきり言って発想が面倒臭いバカップルかって思ったわ。友達同士じゃ、普通そんなことやらねぇよ」

「そういうものなのかい?」

「そういうものだよ」


 一括されてしまった。

 しかし、対人関係においての一般常識が欠けている以上、彼の言うことは間違いないのだろう。



「なら、どういう時にパーティーを開けばいいのかい?」

「お前どんだけパーティーがしたいんだよ。・・・・まあ、誕生日とかクリスマスとかそういうのかな?」

「なるほど!」

「一応言っておくが、仮にするにしてもビルを貸し切ってやったりしねぇよ。はっきり言ってやり過ぎだ。そういうのはプレゼントを贈るだけにするとか一言おめでとうとか、質素な感じでやるのが良いんだよ」

「・・・・そ、そうか。参考にしよう」


 正直、その程度でいいのかと疑問に思ってしまうところもある。

 完全には納得している訳ではない。



「ってかさ、お前エリ以上に金持ちアピールするよな。あいつ基本そういう振る舞いしてないし、どっちかというと普通なんだよな」

「そうなのかい?」

「ああ、だからお前もそれを見習って悪目立ちし過ぎないことだ、な」


 ミツキはマキナの額に人差し指を押し当てた。


「まあ、そういう訳だ。一応相談には乗るけど、あまり突拍子もないことするなよ」


 そう言って、今度こそミツキは教室を出て行った。



「・・・・・・」


 マキナはしばらく茫然と立ち尽くしていた。


『どうされましたか?マスター』


 ステレオスピーカーを介してサポートAIのアテナが話し掛けてきた。

 その声によってはっと我に返り返事をした。


「あ、いや・・・・何でもない」


 これにより全身の力が一気に抜け、近くの椅子に野垂れるように座った。


「ただ、慣れないことをすると疲労が加速するものなんだなと思ってね」


 そう言って、マキナは深い溜息を吐いた。



 それから少し休憩をした後、自分のクラスの教室に戻った。


「あ、マキナちゃん」


 入り口に入って、すぐ声を掛けられた。

 声の主は窓際の席にいて、こちらに小さく手を振っている。

 眼鏡を掛けた三つ編みの少女、結城コハナだ。


「コハナ」


 マキナは彼女のいる席の方に向かった。



「もう用事は済んだの?」

「・・・・ああ、一応」


 早速交わした会話で覚束ない返事をしてしまった。


「ん?何かあった?」

「いや、何でもないよ。本当に大したことではなかったし・・・・」


 言えない。

 先程まで友達になってから十日記念パーティーを開こうと考えており、それを止められた直後だとは言えない。

 マキナは苦笑いを浮かべて誤魔化した。


「・・・・・・まあそれならいいけど」


 口ではそう言っているが、表情からはまだ気になっている様子が伺える。

 これは話題を変えた方がいいな。



「ところでさっきまで本を読んでいたのかい?」


 マキナは机の上に置いてある一冊の本を持って訊ねた。

 茶色い無地のブックカバーに覆われていて、手触りがいい。


「うん、先の内容が気になっていたからずっと読んでいたよ」


 本の側面を見ると、重なったページの丁度真ん中あたりに栞が挟んであった。


「そうか」


 一言呟いて、手に持っている本を机に置いた。



「・・・・なあ、コハナ、一つ聞いてもいいか?」

「ん?」

「その・・・・・・ボクと一緒にいて迷惑に感じることはあるかい?」

「え、どうして?」

「だってボクと君は趣味が合わないし、語り合える程の話題はないだろ?それにボクは非常識な面があると思うんだ。それで君に迷惑を掛けているのではないかと思って・・・・・・」


 自分で言っていて情けない気分になった。

 柄にもなく弱気なことを言っている。

 普段ならもう少し自信のある発言ができるのに。

 いや、もしかするとそういう弱気な部分を隠すために、敢えて尊大な態度を取っていたのかもしれない。

 自分の本心を悟られないようにするために。



 今思えば、そんな態度を取っていたからミツキに自分の意図を気付いてもらえなかったのだろう。

 それで逆恨みをしたのだから、自分がどれほど質の悪い人間だったか。

 なんだか腹立たしくなってきた。

 本当は気が弱く、自分を大きく見せないと不安に押しつぶされるような小さな人間なのに。



 だが、いざ本心を曝け出すと、惨めに感じてくる。

 自分が恥ずかしい。

 だから、今発言したことを取り消したいと思った。



「そんなことないよ」

「え?」


 自負心に苛まれていたが、コハナの一言によって否定された。


「確かにわたしたちは趣味が合わないよ。わたしは本が好きで、マキナちゃんは機械とか報道とかが好き。正直、話聞いていてもチンプンカンプンになることが多いかな」

「・・・・なんだか、すまない」

「謝らなくてもいいよ。マキナちゃんだって、わたしが本の話しても全然理解してなかったでしょ?」

「・・・・・・」


 否定できなかった。

 彼女の言う通り本の話題を振られても、何一つ理解していない。

 一応努力しようと書店で購入して読んでみたが、やっぱり分からなかった。

 この時、読書はあまり得意ではないのかもしれないと悟った。



「そんなに思い詰めた顔しなくていいよ。正直、いつも親身に話を聞いてくれて嬉しいと思ってるから。だから、わたしもマキナちゃんの話を親身に聞いてるの」

「分からなくてもかい?」

「分かる分からないの問題じゃなくて、一緒に好きなように話すことが大切なんじゃないのかな?」

「そういうものなのかい?」

「そういうものよ。それに非常識とか言っていたけど、全然そんなこと思ってないから。寧ろ非常識な行動をしている人なんて珍しくないし結構いる方よ。マキナちゃんの言っていることなんて、それと比べたら些細なことよ」


 そういうもの・・・・・・なのだろうか?


 本当は気を遣っているだけなのかもしれない。

 それでも____。


「・・・・・・ありがとう。なんか辛気臭い話になってごめん」


 そう言うと、コハナはニコリと笑みを浮かべた。

 少しだけ気が楽になった気がする。

 真に受ける訳ではないが、張り詰めていた感情は少しだけ解れた気分だ。

 気にしていてもしょうがない。

 趣味が合わなくても友人でいられる。

 常識がないと思うなら、これから身に付けていけばいい。

 今はそういうことにしておこう。



「一つ聞いていいかい?」

「何?」

「コハナの誕生日っていつなんだい?」

「四月だよ。だから、もう過ぎているかな」

「・・・・そうか、おめでとう。今更だけど」


 ここでミツキの言っていたことを見習ってみた。

次回は満を持して主人公ミツキ視点の物語!

いつも通りですが、幕間としては初です。

湿っぽい話が続きましたが、コミカルに寄せて書いてみたいと思います。

出来る限り____。

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