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幕間1−2 選んだ先の「  」

 何かを得るためには何かを捨てなければならない。

 よく聞く言葉だ。

 自分もそういう思想を持っている。

 希望の対価は希望であり、選択肢があれば一つを選ぶよう迫られる。

 そうやって世の中は成り立っている。

 だが、選んだ希望の先でそれに勝る絶望が待ち受けていたとしたら____。



 早乙女家は日本有数の資産家一族であり、その歴史は明治時代から続いている。

 国家とも繋がりがあり、現代において日本が発展してきたのもその恩恵があったからと言っても過言ではないだろう。

 ただし、それは表の顔だ。



 もう一つの顔は、最高位の魔術師の家系であるということだ。

 元々はヨーロッパ貴族令嬢である魔術師が日本に訪れた際に、日本の大手企業の御曹司と結ばれたことがきっかけで、今日まで発展したと言われている。

 これだけ聞けばロマンチックな話に聞こえるが、実際は政略結婚である。

 互いの家を反映させるための____。



 そこに愛があったかどうかは今となっては定かではないが、今の早乙女家の家庭事情を考えれば、そんなものなかったのかもしれない。

 なぜなら、エリの両親も政略結婚で結ばれているからだ。

 だから、この二人の関係はビジネスパートナーに近く、どこか冷めた関係に見える。

 それは今でも変わらない。



 娘であるエリに対してもそうだった。

 両親と『親子』らしいことはしたことないし、そもそも顔を合わせたことなんて二年に一回くらいだ。

 もちろん、忙しいのも十分承知だし理解しているつもりだ。

 だから、言いつけ通り勉学も稽古も文句を言わずに熟してきた。

 全ては我が儘を聞き入れてもらうために____。

 それが高校受験の進路を決める時だった。



 本当は大学受験の時に使いたかった手だが、状況が変わってしまった。

 理由は、お嬢様学校での生活にストレスを感じたからだ。

 通っていた小中学校では、企業の令嬢が多く在籍している。

 常に高貴な振る舞いで他者と接さなければならず、どことなく距離感を感じた。

 だから、とても親しみやすい関係になれなかった。



 小学校の頃はあまり深く考えておらず、特に気にしていなかった。

 まあこの時は、幼さゆえに言われたことを言われた通りにやっていることが当たり前だと、無意識に考えていたのかもしれない。

 だから、中学に進学して物事を自分なりに考えるようになり、今の生活に疑問を持ったのだ。

 その後はただ苦痛にしか感じなくなっていた。

 高校は普通の学校に通いたい。

 窮屈な生活を送る中で、いつも思っていたことだ。



 三年になると、受験に向けて準備が始まり、早速そのための手を打つことにした。

 進路希望調査を提出した時には、担任に呼び出されて苦い顔をされた。

 早乙女さんならもっと偏差値の高い高校に進学した方がいいと、何度も説得された。

 それでも自分の意思は曲げなかった。

 最後まで自分の希望を押し通した。



 そして家に帰ると、両親に呼び出された。

 ただでさえ、会う機会がない二人が揃って家にいるのは珍しく、一度や二度程度くらいの回数しかない。

 そんなことを考えながら、二人と面と向かって話した内容は、案の定進路のことについてだった。

 担任同様、偏差値の高いエリート校に通うべきだと言っていた。

 それも今自分が通っているようなお嬢様学校を薦めている。

 つまり、窮屈な学校生活を強いられているということだ。

 正直、もううんざりした。



 流石に本音を言う訳にもいかず、言葉を取り繕ってこう発言することにした。


「人の上に立つには、まず下の者を知らなければならない。理解がないのに上から指示を出しても、誰も付いて行かないとわたくしは考えています」


 我ながら上出来なことを言ったと思う。

 尤もらしく、説得力のある発言。

 これなら両親も許してくれるだろう____そう思っていた。



「そんなものは必要ない。お前は俗世に入り浸り、人生を無駄にする気か?」

「理解があろうがなかろうが、上の者の命令に従うのが下の者の責務です。従わない者など無能同然です」


 一蹴されてしまった。

 それも傲慢な価値観を示し、理解するどころか全否定している。

 今まで面と向かって話したことが殆どなかったため、この反応には少し驚いてしまった。



「そ、それでも一定の信頼がなければ意味がないではないですか・・・・」

「そのために、お前には完璧な経歴を踏ませているんだろ?わざわざこの程度の偏差値の学校に通う必要はない。寧ろ、お前の人生にとって最大の汚点になり兼ねない」

「よく考えてください。貴方は早乙女を継ぐ者ですよ?わざわざ協会の市部主任に就任させたのは何のためですか?」


 両親の言うことは、全て間違っているとは思えない。

 完璧な経歴とやらを踏んでいけば、自分の人生は安泰なのかもしれない。

 何不自由なく、死ぬまで裕福な生活ができる。

 それを手放せと言われれば躊躇うだろう。

 それでも____。



「黙って早乙女家の方針に従っていればいい。お前のその身勝手な行動でその血統が途絶えたら、どう責任を取るつもりだ?」

「っ!」


 しかし、優先しているのは自分の人生ではなく早乙女家の繁栄だ。

 今も昔も、この両親が考えていることは変わらない。

 自分のことなど見ていないのだ。

 ロクに連絡もせず、帰ってきても娘である自分と顔を合わせてくれない。

 終始仕事のことばかりだ。

 だから、この二人の言葉には虫唾が走った。


「・・・・・・何よ・・・・何なのよ、さっきから好き放題言って・・・・ロクに話したことない癖に今更父親面も母親面もすんじゃねぇよ!しけるんだよ!あたしの人生に一々口出しすんじゃねぇよっ!」


 それが両親に初めて言った暴言だった。



 その日以降両親とは会っていない。

 まあ、今まで会う機会なんて殆どなかったから、特に大きな変化があった訳ではない。

 でも、壁が出来たことは間違いなかった。



 その後はというと、自身が望んだ進路の通り市内の高校に通うことになった。

 しこりが残る形になったが、念願の高校デビューを果たすことができた。

 服装も着崩してギャルコーデにし、素の自分を曝け出した。

 入学した当初、多少トラブルみたいなことは起きていた。

 正直、このままギスギスした空気のまま過ごすのが嫌だったが、すぐに問題は終息した。

 最近では二人の友達と世間話をしながら、楽しく過ごしている。



「最近駅前にできたスイーツ店なんだけどさ」


 金髪ツインテールでカーディガンを着ている少女、サヤカが話し出す。

 彼女はテニス部に所属しており、中学から続けている。


「ああ、あそこね。タピオカがメッチャ美味しいところの」


 相槌を打っているのが、三つ編み御団子ヘアの少女、ソナタだ。

 新体操部所属で、賞を取った経験がある。


「確かいろんな種類のフルーツがトッピングされているやつね。まだあたし飲んだことないけど」


 そして、追加で情報を言っているのが、早乙女エリ。

 制服を見事に着崩し、お嬢様としての面影を一切感じさせないような見た目に仕上がっている。

 要するに見た目はギャルだ。



「うん、そうそう。実は部活の帰りに友達と寄り道したんだけど、それが美味しくてさ。特にマスカットのやつがわたしのおススメ!」


 得意げに語るサヤカ。

 見た目通り明るく活発な性格で、一見不良ぽく見える(人のことは言えないが)が、部員から慕われているらしい。

 まあ、普段の彼女のウザいくらいハイテンションなところを見ると、嫌われていることはないだろう。


「あ、マルちゃん!おはよ~ッス!」


 サヤカが丸眼鏡に少女に手を振ると、同じく手を振っていた。



「へーそうなんだ。わたしも部活の帰りに行ってみようかな」


 ソナタはサヤカよりも落ち着いた性格をしている。

 自分たちと違って奇抜な見た目はしていないので、傍から見たら少し浮いているのかもしれない。

 でも、意外にお調子者な性格をしているので、思い切った発言をした時はいつも驚かされる。


「このドリアンとザクロのミックスとか気になる」

「いやどんなミックスよ!?」


 今みたいにソナタがボケるとサヤカがツッコミを入れる。

 そんな二人の掛け合い(コント)は毎回笑わせられる。



「あんたたちさ、コンビ組んでお笑い芸人とか目指した方がいいんじゃないの?」


 笑いで零れた涙を拭いながら、突拍子もない提案をしてみた。

 もちろん悪ノリである。


「あーそれ?正直わたしもありかなって考えてた。サヤちゃんツッコミのキレ良いし、今年の文化祭出てみる?」


 冗談で言ったつもりが、ソナタは結構ノリノリの様子だ。

 しかし、サヤカもといサヤちゃんは首を傾げている。


「いやいや遠慮しとく。ウケなかったら辛いし、自信ないし・・・・・・」


 こっちもこっちでエリの提案を真に受けている様子だった。

 それにしても、ムードメーカーの彼女が弱気になることもあるものなんだな。


「ウソウソ冗談だって、二人のやり取り見てたらなんとなくそう思っただけだから」


 エリが宥めると、サヤカは元気を取り戻したようで、またいつもの調子に戻った。


「ところで何の話してたっけ?」

「タピオカの話でしょ」

「あ、そうだった」


 サヤカは舌を出しててへぺろと可愛く見せようとした。

 可愛いというより、アホっぽい。



「それじゃあさ、今度三人で行ってみない?」

「おおっ!」

「えっ・・・・・・」


 思わずそんな反応をしてしまった。


「ん?どした、エリ?もしかして予定でも入ってるの?」


 すぐに気付いてサヤカが問い掛けてきた。


「あ、いや、予定がある訳じゃないけど・・・・・・」


 すると、ソナタは察してくれたようで口を開いた。


「分からないってことだよね?家の都合とかで急に予定が入っちゃうとかさ。ほら、この前のゴールデンウィークの時も」


 サヤカも納得したようで何度も頷いてみせた。



 確かにゴールデンウィークの連休中、三人で遊ぶ約束をしていた。

 事前に予定まで立てて、どこに行くかも決まっていた。

 しかし、マキナの一件があり、急遽キャンセルをせざるを得なかった。

 本人たちは気にしていない様子だったが、今後も同じことが起こることを考えると、無闇に約束をすることができない。

 以前にミツキに忠告したことを、まさか自分が体現する形になってしまうとは思いもしなかった。



「まあ、そういうことだから約束しても守れる保証はないのよね。もしかすると、今急用が入るかもしれないし・・・・」


 そう言うと、タイミングを狙ったようにスマホの着信音が鳴った。


「ちょっと席外すわ」


 席を立ち上がり、廊下に出た。



 画面を見て着信相手を確認すると、通話をオンにし、耳に当てる。


「わたくしです。何か御用ですか?」


 電話に出ると、すぐさまお嬢様モードに切り替えた。


『先日の件に関する報告書はどうなっているのかね?まだ出していないようだが』

「それは今朝提出したはずですが?」

『む?・・・・・・おお、あったあった、すまん。報告書はちゃんと手元にあるぞ』

「・・・・そうですか。不明な点がありましたら連絡ください」


 相手が電話を切るのを待ってから通話を切ると、フーと溜息を吐いた。


「気を許せる人とは会えたけど、相変わらずストレスはたまるなぁー」



 なんとなく通話アプリの電話帳を開いてみる。

 大半は仕事の関係者の連絡先で占めていた。

 その中に両親の連絡先を見掛けると、無意識にアプリを閉じた。

 そして、教室に戻って世間話の続きを再開することにした。

次回はマキナ視点の物語です!

お楽しみに!

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