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第七十四話 少女の行方

 俺にとってのゴールデンウィークは、部屋に引き籠るだけの連休に過ぎなかった。

 ネトゲをし、漫画や小説を読み、アニメや映画を視聴する。

 たまに外出することもあるが、基本は滅多にない。

 それでも割と充実した時間であることには変わりない。

 今年もそうなるはずだった。



 五日間あったゴールデンウィーク最終日。

 例年通り部屋に引き籠っている。

 ただいつもと違うとすれば、午前中ずっとベッドで横になっていることだ。

 ゲームをせず、アニメや映画も観ず、それどころかPCすら起動していない。

 本も一切触っていなかった。



 正直、そういう気分になれなかった。

 どうしても気掛かりなことがあり、何に対しても無気力に感じてしまう。

 だからずっと悩んでいた。

 マキナのことを____。

 彼女の行方を____。



 ガルーダ及びグリフォンとの戦闘後、協会の魔術師が派遣された。

 もちろん、事態の後始末のため。

 討伐時に問題に関わった町の住民たちの記憶操作と証拠隠滅を行った。



 この時、ユイの瞬間転移能力で住民全員の避難を行い、その後の戦闘で多くの魔力を消費していた。

 そのため、全員を元の場所に戻す力は残っておらず、協会が手配した車で移動することなったそうだ。

 当然、住民たちは状況を理解することができず混乱していたそうだ。

 まあ、記憶操作で一連の出来事は忘れさせられるため、然程問題にはならなかったらしい。

 全く問題がないという訳ではないが。



 エリは現場の指揮を執ることになり、俺たち二人は送迎の車で未来市に戻ることになった。

 因みに、車に乗る直前、気を失っていた俺の意識は回復した。

 直後、周囲にマキナがいないことに気付き、先にその場から立ち去ったことを聞かされる。

 ユイを狙っていた理由が、自分たちに対する嫉妬だったということも。



 車に乗り込み、やるせない気分になっていた俺は、ユイとの間で若干気まずい空気になっていた。

 どうにもいろいろなことが起り過ぎて、自分の中で整理が追い付いていない。

 恐らくユイも同じなのだろう。

 それから車が発進し、森を抜けて景色が見えるようになったところで、ユイが話し掛けてきた。



「守ったんだね、わたしたち」


 車窓から外の景色を眺めている。


「ん?・・・・・・ああ、そうだな」


 口角を上げながら答える。

 俺も外にある山と田んぼを眺めていた。



 確かに今回は守りきれたと思う。

 今までは死傷者が多く出ていたが、今回は誰一人怪我人が出ていない。

 俺が魔物を引き付けている間に、ユイが避難誘導してくれたことが良かったのだろう。

 今後もそれができればいいが、相手は神出鬼没な未確認生物。

 被害を未然に防ぐことは難しいかもしれない。

 だから、今回は運が良かった。



 俺たちは多くの人を守り切った。

 そう解釈していたが、この後のユイの発言でそれだけではないことを思い知らされることになる。


「この場所に住んでいる人たちとその人たちが帰る場所、その両方をわたしたちは守ったんだね」


 俺はユイに視線を向けた。


「だって、生きていても帰る家がなかったら辛いでしょ?」

「・・・・・・」


 ああ、そういう捉え方もあるか。



 最初来た時、人も少なくて殺風景な場所だと思っていた。

 でも、そんな場所でもそこに住む人たちにとっては帰る場所であることに変わりはない。

 仮にその人が生きていても、帰るべき家がなくなってしまったら、悲しむことは避けられないだろう。

 だから、ある意味人だけでなく、その人たちが大切にしているものも守ったことになる。

 正直、戦う時そこまでは意図していなかった。

 単に無駄な建物の損壊を避けたいという考えがあってそうしてきたからだ。



「そうだな」


 俺は再び、外の景色に視線を戻した。


 帰る場所、か・・・・・・。


 あまり深く考えたことがなかった。

 あって当たり前と思っていた訳ではない。

 寧ろ、もうないと思っていた時期があった。

 ユイの家に住んでいるのも一時的で、いつかは出ていく。

 今もそう考えているし、そうするつもりだ。



 だけど、長い間住んでいるためか、自然と自分と家だと思うようになっていた。

 苗字が違っていても、血の繋がりのない他人の家だとしても。

 俺にとって、帰るべき場所になっていた。

 失った家族の優しさ。

 自身を否定した三年間も、無意識ではあるが確かに感じていたと思う。



「マキナももう帰ったのかな?」


 だから、不意に発したユイの発言が気になった。

 それが今日に至るまで、ずっと____。



 帰宅した頃夕方になっており、ツバサの問い詰めになんとか答えながら、ゴールデンウィーク初日は終わった。



 二日目、俺とユイはマキナのラボの跡地に向かった。

 どうやらこの場所でマキナとエリが交戦していたらしく、それによって建物が大破してしまったらしい。

 アテナから聞いたユイの情報だ。

 そして、ニュースや新聞で取り上げられたコンテナの爆発事故から関連性を見出し、場所を特定した。

 一応、現場処理の手伝いという名目で現場に立ち寄っている。



 俺たちは瓦礫の中からデスクトップPCやサーバといった電子機器を掘り出していった。

 もしかすると、マキナの動向や彼女に関する情報の手掛かりがあるかもしれない。

 案の定壊れていたが、錬成によって修復し起動することに成功した。

 ここまでは良かったが、生憎データはもの家の殻で大した情報は入っていなかった。



 三日目、嘗ての母校である中学校を訪れた。

 過去のこともあるので、ユイには声を掛けず、俺一人で行くことにした。

 正直、自分でもあまり気が進まなかった。

 それでも来た理由は、ここにマキナのラボがあったからだ。



 例の騒動の解決にあたりマキナと協力関係になった日に、彼女が秘かに作ったラボに案内されたことがある。

 一見ただの空き教室にしか見えない場所。

 しかし、特殊な結界が張っており、マキナが許可した人間しか入ることができない仕組みになっている。

 中に入れば、怪しく光るディスプレイと野太いケーブルの配線が床に散らかった小汚い部屋か広がっている。

 嘗てはそうだった。



 だが、結界が張られていた痕跡も綺麗になくなっていた。

 微弱な魔力は一切感じられなかった。

 まあ、当然なのかもしれない。

 高校進学を機に撤収したのだろう。

 拠点として置くには都合が悪いとか、そういう理由で。



 取り敢えず、校内にいた教員にマキナのことを尋ねたが、望ましい結果は得られなかった。

 そして、当てがなくなってしまった。



 四日目、この日は家で家事をすることにした。

 昨日、ユイに「明日は俺がやるから今日は頼む」と約束したからだ。

 まあ、気分転換で額に汗を流せば、少しは気持ちが楽になるかもしれない。

 そう思っていた。



 しかし、マキナのことが未だに気掛かりになり、作業が捗らなくなってしまう。

 それを見兼ねたのか、途中からユイが手伝いに入るようになった。

 手伝ってもらうことはありがたいが、今の自分が頼りなさのせいで申し訳ない気分になってしまう。

 さらには「明日はわたしがやるから」と言われたのだから、尚更落ち込む。



 そして、五日目である今日、俺はベッドの上で項垂れていた。

 どうすることもできない現実に苛まれ、仮に実現したとしてもその後どうすればいいかも分からない状況。

 覚悟を決め向き合うことを選んだのに関わらず、それから全く結果を出せていない。

 苛立ちを通り越して、最早怠惰になってしまっていた。

 ただ一つの方法に頼らなければ____。



 俺は徐にスマホに手を伸ばした。

 画面を操作し、通話アプリを起動する。

 一覧にはユイとツバサ、二人の母親の連絡先が並んでいた。

 そして、その一番上の欄にはエリの電話番号が登録されている。

 俺はそれをタップしようとしていた。


「・・・・・・」


 だが止めた。

 画面を消し、スマホを放り投げる。

 しかし、すぐにスマホを取り、暗くなった画面を覗き込んだ。


「・・・・はぁ」


 呆れて溜め息を吐いた。

 何に?と聞かれたら、この場合は自分自身にだ。

 まさか、ここまで自分が優柔不断だったとは思いもしなかった。



 確かにエリに頼めば、マキナの居場所が分かるかもしれない。

 そうでなくても、何かしら有力な情報を得られる可能性が高い。

 最初からこの方法に頼っていれば、二日間無駄足にならずに済んだだろう。



 だが、あまり頼りたくないし、自分の力でどうにかしたかった。

 これ以上借りを作りたくないというのもある。

 ユイに関してもいろいろフォローしてもらっているエリだから、尚更頼るのも気が引ける。

 ただ一番の理由は、俺自身がちゃんとけじめをつけたいと思ったからだ。



 マキナと関わっているというのなら、ユイもエリも無関係という訳ではない。

 ただ、過去の因縁の有無をいえば、どうしても俺の方が関わっていることになる。

 ユイはカオルやマルコ同様協力者に近い立場だが、共犯者ではない。

 その立場は俺とマキナの二人にある。

 俺は共犯者という立場から、過去の因縁と決着を付けたいのだ。



 だがどう決着を付けたいのか、まだ決まっていない。

 そのためにはマキナを知る必要があることも理解している。

 直接会って聞くことも考えたが、もし何も答えることができなくなってしまったら____。



「・・・・・・」


 俺は再度画面を開いて、通話アプリを開こうとした。

 が、突然画面が切り替わり、着信音が鳴る。

 発信者の名前には、『エリ』と表記されていた。



 何で?と思いながら、画面に触れようとした。

 途中、通話に出ることを一瞬躊躇ってしまう。

 相手は何かしら要件があって連絡してきたと思うが、話したい気分にはなれない。

 だが、無視する気にもなれなかった。


「・・・・・・・・くそっ」


 俺は画面を操作し、スマホを耳に近付けた。

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