第七十一話 戦士連携
乱立する木々をスイスイと避けながら駆け抜ける。
途中、俺は上空の様子を確認した。
見たところ、魔物らしきシルエットは確認できない。
もしかすると、他の二人に狙いを定めたのだろうか。
『現在、時島ユイと早乙女エリはそれぞれ二体の魔物と交戦中です』
「やっぱり・・・・・・・・って、うおっ!?」
気付くと、真横にマキナのドローンが飛んでいた。
『マスターにあなた方のサポートを行うよう命令されています。他二人にもドローンを介してサポートに当たっています』
「・・・・・・そうか」
俺は大木を軽く飛び蹴りをして、方向転換をした。
ユイとエリの援護に向かうためだ。
俺はドローンから流れるアテナの声に従いながら先を進んでいく。
「なあ、一つ聞いていいか?」
道中、俺はアテナに話し掛けた。
『何でしょうか?』
「お前って、マキナに作られたAIなんだよな?」
『はい。わたしはマスター、黒鉄マキナによって魔術的概念を組み込まれて作られたサポートAIです』
「魔術的概念、か・・・・」
分かっていたことだが、マキナが使用している武装は近代兵器に見えるが、魔力を感じるため魔術的要素が組み込まれていることは確かだ。
今会話をしているアテナも例外ではない。
俺はさらに話しを続けてみることにした。
「お前から見て、マキナはどうなんだ?」
『どう、といいますと?』
「お前が客観的に見て、あいつがどういう奴に見えるかってことだ」
『AIであるわたしに、それを聞くのですか?』
「ただのAIじゃねぇだろ、お前」
そう言うと、アテナからの返事が止まってしまう。
そして、しばらくの沈黙の後でアテナが声を発信する。
『どうしてあなたは今になってマスターのことを気に掛けるようになったのですか?』
逆に質問されてしまった。
その問いに俺も一瞬言葉を閉ざしてしまうが、すぐに返事をした。
「向き合うって決めたから」
他にもいろいろあるが、一番の理由だ。
それが俺にとって自分がしたいこと、しなければいけないことだと思っている。
だから、少しでもマキナのことを知りたいのだ。
「さあ、俺は質問に答えたんだ。今度はお前の番だろ?」
切り返すと、アテナは再び沈黙してしまった。
そんなに言い難いことなのだろうか。
それとも分からないのだろうか。
俺はもう一度話し掛けてみようとした。
『マスターは『温もり』というものを探しています』
アテナはここでやっと返答をした。
「『温もり』?」
聞き返すと、アテナは言葉を続ける。
『それを探している時のマスターの表情は辛そうで、とても悲しそうにしていました』
探し物で辛い思いをして、悲しい表情を浮かべている。
いったいどういうことだ?
「どうしてそうまでして探しているんだ?」
『分かりません』
つまり、後は本人に聞くしかないということか。
『ミツキ、ユイちゃん、聞こえる?』
ドローンからエリの声が聞こえた。
どうやら通信機能も備わっているようだ。
「何だ?」
『どうしたの?』
ユイの声も聞こえるようになった。
『前にあたしが倒した魔物の血液を調べて分かったことなんだけど、どうやら全身に魔力を循環する器官が備わっていたらしいのよ』
このタイミングで以前の戦いのことを話し始めるエリ。
「それで?」
『要するにあたしたちが魔道具を介して魔術を使っているみたいに、魔物も臓器を介して魔術を発動しているみたいなの』
「つまり、魔物の体内にある特定の器官を攻撃すれば、再生したり、硬化できなくなるってか?」
『そう!ドローンのスキャンで、その器官を特定する必要があるみたい。だから一回攻撃を直撃させて!』
最後の言葉はユイだけに言っているみたいだ。
まあ、俺も隙あらば攻撃を仕掛けろということなのだろう。
『分かったわ!』
「了解」
ユイの後に遅れて返事をすると、通話が切れた。
しばらく進んだところで、木々の向こうから二つの影が見えるようになる。
一つは植物を操りながら戦う魔術師、エリの姿。
もう一つは口から火炎弾を吐き出している巨大な鳥の魔物、ガルーダ。
戦況は、ガルーダの方が優勢でエリは防戦一方といったところだ。
「分が悪いにも程があるじゃねぇか」
炎を操る敵に植物で対抗するなんて、不利に決まっている。
どうして戦闘に参加しようと考えたのか不思議だが、今は加勢することが先決だ。
途中木の近くに落ちている石ころを、身体を傾けながら拾い上げる。
錬成により石ころを鋭利な刃に変化させ、それを勢いよく投げた。
刃は空中を一直線に進み、ガルーダの右目に突き刺すことに成功した。
「今だ!」
俺は掛け声を上げた。
エリは植物を操作し、地中から四本の蔓が出現した。
それらはガルーダの両足に巻き付く。
しかし、それから逃れようと火炎弾を吐き出そうする。
させるかよっ!
俺はすかさずハデスの魔道具を取り出し、ケルベロスを召喚した。
猛スピードで草原を駆け、ガルーダの真横を跳んで通過する。
直後、ガルーダのくちばしと翼を鎖で拘束した。
口の隙間から炎が漏れ、巨体が地に着く。
これにより動きを完全に封じることに成功した。
本来ならエリのドレイン能力で魔力を吸収し、弱らせてから攻撃した方が確実だ。
だが、ガルーダは想像以上に怪力だった。
今にも蔓が引き千切られそうになっている。
つまり、仕留めるなら今この瞬間しかないということだ。
右目から炎が燃え上がり、突き刺さった刃を塵になる。
そして、右目は回復した。
『スキャンが完了しました。再生器官は喉にあります』
アテナからの情報を聞いて、エリは二つの種から弓と矢を生成した。
素早く構え、力強く弓を引く。
狙いを定めると、すぐさま矢を放った。
至近距離からの射撃というのもあり、矢の先は喉を捉えた。
ガルーダは声にならない奇声を上げ苦しみだす。
「ミツキ!」
エリは掛け声を上げ、その場から大きく後退する。
俺はゼウスに再度魔装し、ポセイドンの魔道具を取り出した。
今度こそ決める!
魔道具から生成された魔方陣を斧に取り込み、技の発動準備を整える。
刃が青く光り、放電現象が起こる。
ここでガルーダを拘束していた鎖とケルベロスが消滅してしまう。
どうやら一度に使用できる魔道具には制限があるようだ。
ガルーダは翼を羽ばたかせ、両足を拘束している蔓を引き千切る。
口から黒い血を噴出し背を向けると、その場から飛び立とうとしていた。
「させるかあああぁぁぁぁぁぁっ!」
絶叫し、蓄えた魔力を一気に解放した。
空気を抉るような轟音。
三つに分かれた稲妻がガルーダの巨体を貫通した。
両翼と胴体に大きな風穴が空き宙に舞う。
地面に足が付くと、そのまま制止する。
直後、注射器のようなものが飛んできて、ガルーダの脇腹に突き刺さる。
エリは近付いてそれを回収すると、巨体は黒く変色し始める。
ボロボロに崩れていき、最後には塵となって大気中に散っていった。
「サンプル回収完了っと・・・・」
エリが呟くのが聞こえた。
そういえば、協会は魔物のサンプルを回収していていたな。
先の話でも、血液がどうこうと説明していたような気がする。
正直、忘れていた。
「もうちょっと早く来てくれたら合格だったのにな~」
エリが注射器を指で回しながら、細い目でこちらを見てくる。
「お互い様だろ」
俺は溜息交じりに答える。
「恩着せがましいことは言わねぇが、その嫌味な態度どうにかなんねぇのか?」
少なくとも俺以外の相手には生意気な態度はとっていないと思う。
多分。
「え?何であんたのためにわざわざ媚び諂わなきゃいけないのよ?面倒臭っ」
「別に媚びろとは言ってないし・・・・・・可愛くねぇな、こいつ」
恐らく、今後もこんな感じの付き合いになるのだろう。
犬猿の仲という程ではないが、本人がそんな態度だと普通に仲良くなることは無理だろう。
溜息を吐いていると、遠くの方から爆発音が鳴り響いた。
確か別の場所でユイが交戦していたはず。
嫌な予感がして、勢いよく走り出す。
俺はゼウスの飛行能力により、空高く飛び上がった。
「あ、ちょっと待ちなさいよ!」
エリの声が聞こえたが、気にせず目的地へ向かうことにした。
道中、アテナに状況の確認をする。
「ユイの方はどうなっている?」
『現在も交戦中です』
「手こずっているのか?」
『能力を発動する媒介となる器官は特定できたのですが、硬化能力により攻撃が全て通っていません』
「くそっ」
俺は舌打ちをしながら、急いで別の戦闘場所に向かう。
無事を信じて____。