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第七十話 合流からの別行動

「はぁ・・・・はぁ・・・・」


 あれからどれだけの時間が経過しただろうか。

 もう一時間を過ぎているかもしれない。

 だとすると、ゼウスの魔装時間も更新しているだろう。

 うれしいかどうかと聞かれたら、別にそうでもないが。



 正直、魔力も体力も限界に近い。

 それなのに、魔物は二体ともピンピンしている。

 特に翼を大きく羽ばたかせながら、空中に停滞している姿は腹立たしく感じる。

 こいつらまだ余裕があるな。



 あれから空を飛び回り、町から距離を取っている。

 今は森林でおおわれた山の上空にいる。

 その間、俺は魔物に対して攻撃を何度も当てている。

 飛行パターンは大体読めるようになって、それ程苦労することはなくなった。

 しかし、命中しても、身体を硬質化させたり、すぐさま再生したりとダメージが与えられない。

 本当に厄介な能力だ。

 せめて能力を無力化する弱点を見つけられればいいのだが。

 或いは、能力の盲点を突けば、勝機を見出すことができるはずだ。



「最低でも有力な情報を会得しておかねぇとな。最悪、後はユイに・・・・・・」


 言い掛けたところで発言を中断する。

 そして、持っていている斧を構え直した。


「まだ、だ・・・・まだ戦える!」


 自分自身に発破を掛け、斧を大振りに振り回した。



 三日月上の雷撃が放たれるが、二体は難なく避けてしまう。

 どうやら向こうもこちらの攻撃を読んでいるようだ。

 それから追い打ちとばかりに、火炎弾と竜巻を浴びせてくる。


「くっ」


 俺は斧を振り、攻撃を全て弾き返していく。

 その度に目の前で爆炎が広がっていく。

 一時的に視界が見えなくなった。



 どこだ・・・・どこにいる?


 目を凝らしていると、火の中から二体の魔物がこちらに突っ込んでくるのが見えたのだ。


「なにっ!?」


 すかさず回避しようとしたが、手遅れで二体の魔物の攻撃をもろに喰らってしまう。


「がはっ」


 衝撃とダメージにより吐血してしまう。

 それは飛行能力を維持できない程のものだった。



 後方に吹き飛ばされ、そのまま緩やかな曲線を描きながら、地面へと落下していく。

 立て直そうとするが、痛みと疲労が邪魔をして上手く機能しない。

 このままでは地面と激突してしまう。



 いくら魔装で肉体が守られていても、約二千メートルからの落下の衝撃には耐えられないだろう。

 耐久値に関しては個体差があるものの、少なくともあの二体の魔物の突進攻撃でダメージが貫通している。

 つまり、このまま自由落下によって加速していき、地面に激突すれば怪我では済まなくなる。



 俺はなんとか冷静を保ち、意識を集中させようとした。

 しかし、飛行能力が全く機能してくれない。

 それどころか両腕や斧から光の粒子が漏れ始めていた。


 ウソ、だろ・・・・・・!?


 このタイミングで魔力切れ寸前になり、魔装が解け始めているのだ。



 マズイ!


 と、思ったがこうなってはどうすることもできない。

 魔装が強制解除させられるということは、最早満足に戦える程の魔力が残っていないことになる。

 魔力消費が小さい術をギリギリ使えるか使えないか。

 そんな状態だ。

 だから、空なんて飛べなくなるのも当然だ。

 それでも・・・・・・



「諦めらめられっかよっ!」


 頭で分かっていても、それでも抗うしかない。

 無謀でも何でも、僅かに可能性があるなら掴みに行くしかないのだ。

 俺はもう一度飛ぼうと、意識を集中させた。



 だが、何も反応しない。

 身体を保護していた魔装が消え、生身の腕や足が露わになっていく。

 それでも諦めることを拒絶した。



 身体の向きが反転し、白い雲が散りばめられた青空から緑が生い茂る森へと、景色が切り替わる。

 どれだけの距離があるのだろうか、全く分からない。

 近いようで遠い。

 もしかすると、その両方なのかもしれない。

 いずれにせよ、このままだと無数の木々によって身体が串刺しになってしまう。

 俺は何度も抗い続けた。



 が、木の葉が視認できた辺りで、魔装が解除されてしまった。

 理由は簡単で、視界に入っていた光の粒子が消えているからだ。

 生身の手足、つまり制服の袖や裾が見えているのだ。


 あ、ヤバい・・・・・・


 そう直感して、反射的に目を瞑った。



「・・・・・・・・、ん?」


 直後、俺は違和感を覚えた。

 突き刺されたような痛みを感じないし、落下している時の風の抵抗も感じない。

 それどころか腹部を誰かに添えられているような感覚がした。



 恐る恐る瞼を開け、顔を上げる。

 そこは無数の木々が並んでいる森の中だった。

 下を見ると、草花が生えている。

 そして、見覚えのある細い手が腹部を添えていた。


「大丈夫、ミツキ?」


 聞き覚えのある声のした方に振り返ると、そこにユイがいた。



「怪我とか、してない?」


 心配そうな顔で再度安否を尋ねてきた。


「大丈夫・・・・がはっ!?」

「ちょ、ミツキ!?」

「ごめん、大丈夫じゃねぇわ。あと腹押さえるのやめて・・・・また血が出るから・・・・」


 意識朦朧としていて、本当に死にそうだ。



 それから俺は近くの大木に背中を預けて座らせられた。

 ユイはその場に時計盤型の魔方陣を展開させると、固有魔法を発動する。

 すると、全身の痛みが消えていくのを感じた。

 それだけではなく、疲労感もなくなり、心なしか魔力も復活しているような気がする。

 そして、魔方陣が消えた頃には、俺は自力で立ち上がる程回復していた。

 いや、正確には元の状態に戻ったと説明した方が正しいのかもしれない。



「身体が動く」


 俺は手足を動かしながら、身体の調子を確認した。


「ありがとな、ユイ」

「え?」

「いや、何でもない」


 素直にお礼を言うのが恥ずかしくなり、思わずはぐらかしてしまう。



「それで避難は完了したんだな?」


 俺の問い、ユイが頷く。


「うん、少し手間が掛かったけど、この子のお陰でなんとかなったよ」

「この子?」


 首を傾げると、どこから現れたのかドローンがユイの横に飛んできた。


『現在地から五キロ離れた山奥に避難させています。念のため、住民には睡眠薬を投与しており、三時間程は眠ったままです』


 声の主は、マキナが制作したサポートAIのアテナだ。


『野生動物が少なく、二十一機のドローンが護衛に当たっているので問題ないかと』

「・・・・そうか、それなら良かった」


 俺は無事を知って安堵した。



「マキナも一緒なのか?」


 質問すると、ユイは表情を曇らせて口籠ってしまう。

 すると、横にいるドローン、もといアテナが先に返答した。


『マスターは別の場所にいます。といっても、戦闘エリアから離れた場所にいるので、比較的安全です』


 その言葉でマキナの安否は確認できたが、ユイの様子が気になる。



 まあ、だいたいの予想は付いているし、これ以上言及する気はない。

 しかし、意を決したようでユイは口を開き始める。


「あの子のこと、全然分かんない。何を考えているのかも、どうしてわたしを襲うのかも、本当の理由をまだ知らない。でもあの時、迷っていることだけは分かった。だから、できるだけ近い場所に置いてきたの。また、もう一度わたしたちと戦ってくれるかもって思ってね・・・・」

「・・・・・・ユイ」

「でもわたしはどっちでもいいと思ってるの。他人にどう言われようと、結局決めるのは自分だし。だから、マキナが戦うか戦わないかは彼女自身が決めてほしい」


 なんというか、呆れる程お人好しな発言だ。

 でも、嫌いではない。


「そうだな」


 俺は短く頷いた。


「今から奴らの情報を話す。よく聞いとけよ」


 気持ちを切り替えて、早速本題に入る。

 今、自分たちがやらなければならないことを果たすために。



 俺はこの長い戦闘の中で入手した情報を全てユイに話した。

 あまり長く説明すると、魔物たちに見つかってしまうので、端的に短く伝える。

 ユイは頷きながら、真剣に話を聞いてくれた。



「・・・・と、まあ一応それくらいだな。飛行速度が尋常でない程速くて、反射神経も鋭い。ガルーダ・・・・二本足の鳥の魔物は火を吐いて自己再生能力を持ち合わせている。四本足の方は竜巻攻撃と身体の表面を金属みたいに硬化できる能力を持っている・・・・以上だ」


 念のため、説明した内容をもう一度伝えておく。


「成程ね・・・・」


 ユイはコクリコクリと頷く。


「それでこの後はどうするつもりの?」


 だが、行動の方針については俺に丸投げするようだ。


「んんん・・・・まあ・・・・大前提として、どうやってダメージを与えるかが問題なんだよな」



 それは魔物の能力を知ってから悩まされている問題である。

 解決策としては、ガルーダの自己再生能力とグリフォンの硬化能力を無力化すること。

 若しくは、能力発動時に生じる弱点のようなものを突けば、ダメージを与えることができるはず。

 しかし、現段階ではその方法が思いつかないでいる。


「それと、攻撃を如何に正確に当てるかが問題だな・・・・」


 加えてその点も問題がある。

 二体の魔物の飛行速度と反射速度は非常に鋭い。

 攻撃の命中率でいえば、十回に二回当たるかの比率だ。

 それでも攻撃が掠る程度で、狙った箇所に命中する確率は非常に低い。


「これに関してはお前の瞬間転移で攪乱させて、その隙に攻撃を仕掛けるっていう考えがある。だが、詳しい方法まではまだ・・・・・・」


 仮に成功したとして、問題はどこに攻撃を当てるかだ。



 俺とユイは唸りながら考えていると、


「その作戦、あたしも協力させてもらうわよ」


 と、どこからか聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、木陰の中から少女が腕を組んでこちらを見ていた。


「エリさん!」


 ユイが歓喜の声を上げる。


「ど~も~」


 エリはニコリと微笑み、手を振る。



「ど~も~・・・・・・じゃねぇよ。てか、もう来ないかと思ったわ」


 連絡できないから大して当てにしていなかったが、態度含めて呆れてしまった。


「まあ、こっちにもいろいろあってね。お陰で身体はボロボロだけど・・・・」

「「?」」

「ああ、大丈夫大丈夫、こっちの話だから」


 いったい何の話をしているんだ?


 気になったが、状況が状況なのでエリにも先にユイに話したことを伝えようとする。


「ああ、それはいいわ。さっき話しているの聴いてたし」

「盗み聞きかよ」

「ここに来た時、たまたま話しているのが聞こえたのよ。それにもう一回話す手間が省けたんだからいいでしょ!」

「まあ、それもそうか・・・・・・」


 そんなやり取りをした後、改めて三人に今後どうするか話し合おうとした。

 その時だった。



 上空から無数の火の塊が降り注いできたのだ。

 どうやらもう見つかってしまったらしい。

 俺は寸でのところで魔装をし、回避することに成功した。

 ユイやエリも避けることができたようだ。



「ああもう、まだ全然話しできてないのに・・・・」


 慌てるユイ。


「とにかく一度分かれて行動しましょ!」


 エリが指示を出す。

 従うのは癪だが、二人と別行動をとることにした。

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