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第六十話 荒れる倉庫と試作機

 先手を打ったのは、マキナだ。

 銃の引き金を引き、エリ目掛けて光の弾丸が発射される。

 しかし、エリは身体を動かす素振りを見せなかった。

 なぜ?と疑問する間もなく、何かが床を突き破り、弾丸が弾かれてしまう。

 正確には焼き付いたと説明した方が正しいのだろう。

 現に着弾した箇所から煙が立ち上っている。


「随分頑丈な植物だね。いったいどんな組織になっているんだい?」


 挑発交じりに問い掛けるが、エリは答えることなく反撃をしてきた。



 コンクリ―トの床を突き破り、無数の植物の根や蔓が襲う。

 マキナはもう一丁の銃を出現させる。

 先程よりも出力を上げて、襲い来る敵に対し発砲した。

 何度も引き金を引き続けているため、マシンガンのようにレーザーが放たれていく。

 その度に触手のように動く植物たちが木っ端みじんに粉砕していった。

 一カ所に留まらないように、場所を移動しながら銃撃していく。



 倉庫内に置かれている機材が攻防に巻き込まれていく。

 時には倒れて、時には破壊され、マキナが寝静まるはずだった場所がどんどん荒らされていく。

 だが、今は気にしていない。

 エリと戦うことになってからそれが叶わないことは覚悟していたからだ。


「全く、君は本当に常識がなってないね!」


 それでも迷惑であることに変わりないため、悪態はつく。


「あんたに言われたくない!」


 エリは生成した弓で矢を放ちながら、反論してきた。

 それをマキナは撃ち落とす。



「しかし、これじゃ埒が明かないね」


 途中、アテナに指示を出して、倉庫内にあったドローン数機を起動させた。

 植物迎撃に協力してもらっている。

 それでも後から次々と植物が現れてきりがなかった。


「こっちも援軍を呼ぶしかないか」


 マキナは近くで倒れている棚の陰に滑り込んだ。



 地面に尻を付くと、ここで自身の呼吸が乱れていることに気が付く。

 それをなんとか落ち着かせたところで、アテナに指示を出した。


「外に配置されているドローンを何機かこっちに呼び出せられないか?」


 しかし、予想に反した返事をされてしまう。


『それが・・・・無理なんです』

「何?」


 さらに問うと、アテナは言い難そうに理由を話した。


『実は先程から通信障害が発生していて、外部との連絡が出来ない状態にあります』



 予想もしていないアクシデントだった。

 この状況下で援軍が呼べないのは流石に痛手だ。

 それでも冷静であることは忘れないようにした。


「原因は?」

『先程倉庫周辺半径百メートルに微小な胞子が観測され、それが原因を引き起こしている可能性が高いです』

「何でそれを早く言わない!」


 やはりまだ欠陥だらけのAIのようだ。



 恐らくその胞子を散布したのはエリで間違いないだろう。

 こちらの手札を削ぐために、事前に対策を取っていた。

 しかし、原因が分かったところでそれに対処することは現実的ではないだろう。

 別の方法でこの状況を打開するしかない。



 いや、正確にはあるにはある。

 だが賢い判断ではないため、あまり気が進まない。

 あくまで最終手段として考えている。

 どうにかしてこの植物をなんとかしなければ。



 このまま思考に集中したいが、どうやらそれを許してくれる程甘くないようだ。

 目の前に根の触手が三本、床に穴を空けて襲い掛かってきたのだ。

 マキナはすかさず銃を放ち、根を粉砕する。


「全くここ一帯の地盤はどうなっているのだろうねっ!」


 大声でぼやきながら、その場から駆け出した。



 恐らく、今自分が走っている場所の地下では、無数の生きた植物が触手のように土を這っているのだろう。

 想像しただけで、気持ちが悪い。

 それで地盤が緩まないのは、ロビンフット特有の能力による影響だ。

 そのため、地面が底抜けすることはない。

 本当に都合のいい能力だ。



 マキナは二丁の銃を合体させて、先端に刃を展開させた。

 二機のドローンを前衛に出し、植物たち先導しているエリに接近しようとする。

 迫りくる触手をドローンが撃墜していき、着実に距離を縮めていく。

 そして、目と鼻の先のところで刃を振り上げようとした瞬間だった。



 エリは握っていた拳を徐に開いたのだ。

 これにより、手の平から離れた三粒の種が宙に浮くことになる。

 不審に思ったのも束の間、種の殻が破れ、膨張するように植物が出現したのだ。

 それに巻き込まれて二機のドローンは大破。

 マキナは振り上げていた勢いが残っていたため、そのまま薙ぎ払った。

 追撃しようと考えたが、エリが今まさに矢を射抜こうとしていたため、一旦後退する。

 ここで一撃を喰らわせられなかったことは非常に残念だ。



 植物を殲滅しようにも、それらを操っている本人を叩かなければ意味がない。

 逆に本人を叩こうにも、植物が邪魔をして攻撃ができない。

 では、どうするべきか。

 答えは既に決まっていた。

 方法は一つしかない。

 自身が望まなくても、それしか勝算がなかった。



「アテナ」


 植物たちを交戦しているAIに対し、指示を出そうとする。

 覚悟、という程大層な意思はなく、ただ潔く諦めたと言った方が正しいだろう。


『何でしょう、マスター?』


 聞き返されたので、端的に要件を伝えた。


「ボクを全力で守れ」

『畏まりました』


 それだけのやり取りを行うと、全速力で駆け出した。

 『ある物』が置かれている方向を見据えて_____。



 それを察したのかどうかは定かではないが、ここでも執拗に植物は襲ってきた。

 それを複数のドローンが妨害する。

 機関銃で応戦するが、次々と破壊されていく。

 唯一の武器を落とされても、マキナの傍から離れることはなく、必死に守ろうとしていた。

 『ボクを全力で守れ』、その指示を忠実に真っ当しようとしているのだろう。

 だから、全滅する前に辿り着かなければならない。



 装備の修理のついでに、完成させたばかりの試作機。

 起動するかどうかも分からない。

 どの程度の威力かは、理論上でしかない。

 不発になるか、二次被害が起きるか。

 運が良ければ成功する。



 マキナにとって、運で物事を解決することは自身のポリシーに反する行為だと考えている。

 だから気が進まなかったのだ。

 何事にも確実に、理知的に物事を遂行したい。

 そうでなければ意味がない。

 しかし、そうも言ってられなかった。



 自身の周りでドローンが次々と倒れていき、鉄の破片が宙を舞っている。

 マキナも銃を撃っているが、最早無意味に等しい。

 頼れるのは、ただ一つの切り札だけとなった。



 そして、最後の一機が機能を停止したところで、守る盾はなくなってしまった。

 植物たちが一斉に襲い掛かる。

 マキナも最後の力を振り絞り、無我夢中で跳び上がった。

 千切れそうなくらい腕を伸ばし、机に置いてある『ある物』を掴もうとする。


 とどけっ!


 直後、デスクトップPCやキーボードといった機材を巻き込んで、マキナの身体は机を倒した。

 全身に痛みはないが、反動はきた。

 それに気を取られることなく、マキナはスイッチを押し、そのまま投げた。



 丸っこい形をした機械。

 コロコロと何回か転がった後で、機能を発揮した。

 周囲に衝撃が走る。

 エリの悲鳴が聞こえた。

 一瞬の出来事であり、顔を上げた時には沈黙に包まれていた。



 先程までうねうねと動いていた植物たちはピクリとも動かなくなっている。

 それどころか、焦げ臭い悪臭がした。

 バイザー越しで周囲を確認し、ある程度状況を把握したところで全てを理解した。

 どうやらあの試作機は上手く動作したらしい。



『ミョルニル』。


 ゼウスの雷の能力を解析し作成した電気ショック爆弾だ。

 神話ではゼウスが所持している鎚として紹介されているため、厳密には爆弾ではない。

 単に名称を付ける際に、良い候補が思いつかなかったので、ゼウスに因んでそう命名しただけだ。



 電圧は調整したとはいえ、その威力は植物たちを一瞬で焼き焦がす程だった。

 所々が燃えている。

 爆弾といっても、雷を纏った衝撃波を発生させるもの。

 それでも直撃したら対象は、感電することは間違いない。

 一応、アーマーに耐電性能を追加したが、どうやら上手く機能してくれたようだ。

 全身に痺れは感じない。



 マキナは倒れた身体を起こし、エリがいる方向に足を動かした。

 結果的には、エリは仰向けに倒れていた。

 魔装が解除されていることから、意識はないことは確実である。

 念のため首元に手を添えたが、脈は安定していた。

 どうやら気を失っているようだ。



 マキナは魔装を解除し、改めて周囲を見回した。

 閉鎖された空間で光も殆ど届かない場所のため、あまりよく見えない。

 それでも凄惨な光景であることは間違いないだろう。


「流石にここじゃ寝れないな」


 そう呟きながら、マキナは端末の画面を覗いた。


「応援は呼べそうか?」


 すると、画面に少女が映り、


『通信環境は正常に動作しています』


 と、答えてくれた。

 どうやらエリが倒されたことで、外で舞っていた胞子も消滅したらしい。

 これにより外部との連絡も可能となった。


「近場で格安のホテルの予約をしてくれ」


 『畏まりました』、という返答を訊くと、マキナはポケットに魔道具をしまった。


「鞄、探さないとな」


 呟いた直後、屋根の一部が崩れて新たな瓦礫の山が作られた。

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