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第五十八話 秘密のラボにて

 都内某所。

 そこには巨大な空き倉庫が立地している。

 誰が何のために建てたのか分からず、幽霊が出ると噂されることもあり、若者が悪ふざけて立ち寄ることがある。

 しかし、中には何もない。

 ただ無駄に広い空間。

 『一般人』ならそう認識するだろう。

 一部の人を除けば。



 しかし、そこに何もない訳ではない。

 正確には認識が阻害されているだけで、ちゃんとそこにある。

 複雑に繋がれた複数のケーブルも、何台も積み重なったモニターも、作業台も。

 そして、その奥に居座る少女も存在している。

 なぜなら結界(フィールド)が展開されているからだ。



「ああ、失敗したんだね」


 デスクトップPCの画面を見ながら、マキナは棒読みで答えた。

 理由は単に、予想通りの結果だったからである。



『ごめんなさい、マスター』


 スピーカーから可愛らしい声が響く。

 マキナが開発したサポートAI、アテナだ。


「いや、構わないさ。成果はあった訳だし上出来だよ」


 優しく笑みを浮かべながらフォローする。

 もちろん嘘ではない。

 現に相手の手札を見ることができたのだから、結構な収穫だ。

 まあ、それでも厄介なことに変わりはないが。



 マキナはオフィスチェアに寄り掛かり、両手を上げながら背伸びをした。

 関節がポキポキと鳴り、硬直した筋肉を伸ばそうとする。

 その時、筋に痛みを感じた。

 どうやら初戦闘で慣れない動きをしたため、筋肉痛を起こしてしまったらしい。


「湿布薬は、確か向こうの棚だったね?」


 そうアテナに問いかけるが、反応がなかった。

 まだ作ってから日が浅いためか、会話の学習が不十分のようだ。

 とはいえ、少し寂しい気がしてしまう。

 痛む身体を動かしながらなんとか湿布薬を手に入れた。



「それにしても、協会もよくあんなロクに情報がないものを彼に渡したね」


 徐にそう口にしながら、湿布薬を患部に貼る。

 ひんやりと冷たい感覚がした。

 誰に対して向けている訳ではないが、真意を問おうとした。

 しかし、だいたいの検討は付いている。

 恐らく、あの三つの魔道具の実験台にしたのだろう。

 使い捨ての駒として。



 魔術協会の大半はミツキを目の敵にしている。

 理由は忠誠心がないからとか言っている。

 が、実際は『化け物』と称して怯えているだけ。

 災いの種は小さいうちに処分をしておきたい。

 そういう考えの人間は幹部を含め、結構多いらしい。

 だから、秘密裏に抹殺しようとする者もいるようだ。

 自身の行いを正当化してまで行うから質が悪い。


「哀れだね、味方からも敵視されるとか・・・・」


 マキナは画面に映るミツキを見ながら言う。



「彼らの現在地は?」


 短い休息を取り終え、真面目な態度に戻る。


『現在、駅を離れて民家の方に向かっています』


 ミツキとユイが映る映像を見せながら説明する。


「宿を取る気か、それともアポなしで家に泊めてもらうか・・・・か」

『前者の方でしょうね。後者は流石に非常識すぎると思います』


 冷静な回答をするアテナ。


「いや、まあそうだが・・・・・・まあいいか、引き続き監視をしてくれ」


 今度冗談に対する対応を学習させようと思いながら、指示を出す。



 椅子から立ち上がり、傍らに置いてあるベッドに足を運ぶ。

 靴を脱いで横になろうとした。


「おっと、その前に・・・・」


 他にやることを思い出し、再び靴を履いて作業台の方に向かう。



 上には二つの学生鞄が置いている。

 ミツキとユイが転移で残していった物だ。

 因みに散乱していた食品は、冷蔵庫の中に収納している。



 マキナは二つある学生鞄の一つからスマホを取り出した。

 ユイの物だ。

 事前に調べたパスワードを入力し、チャットアプリを開く。

 そこから操作を行い、ある人物に対し、メッセージを送った。


『今日はミツキと友達の家で泊まっていくから、適当に何か食べてて』


 正直、バレるかどうか不安だったが、直後に『了解!楽しんで来い!兄は家で寂しくカップ麺啜っとくぜ!』というメッセージとスタンプが送られてきた。

 皮肉にも捉えられるような内容だが、決して兄妹仲が最悪である訳ではないように感じた。

 だから、いろんな罪悪感を覚えてしまう。



 マキナは決意が揺らぎそうになり、スマホを鞄に押し込み、今度こそ寝ようとベッドに戻ろうとした。

 その時だった。



 僅かだが地面が揺れているのを感じたのだ。

 そこから一気に激しさを増し、周囲の棚が次々と倒れ始める。


「地震か?」


 そう思ったが、違うことをすぐに理解した。

 なぜなら、目の前で突如、地面から何かが出てきたからである。


「うおっ!?」


 予想外の出来事に対抗できなかったため、思わず驚愕の声を漏らしてしまう。


「何だ?」


 すぐに冷静さを取り戻し、状況を確認しようと砂埃が上がっている方を見る。



 次第に埃が晴れていくと、コンクリートの床が歪に抉れていた。

 細長く丸み帯びた物体のシルエット。

 はっきり見えるようになると、それが巨大な花の蕾であることを理解した。

 そして、一枚一枚の花弁がゆっくり開くと、中から少女の姿が露わになる。



 身長はマキナよりも明らかに高く、スレンダーな体型で出ているところは強調的に出ている。

 正装で高級そうな服装とは対照的に、髪は二つに束ねてツインテールにしている。

 童顔でまさに美少女ではあるが、その表情はどこか不機嫌そうだった。



 マキナは驚きながらも、平静を装いながら言葉を発した。


「随分と手荒だね。早乙女家の人間はみんな地面から人の家にお邪魔するのかな?」


 軽口を叩くと、エリはニコリと微笑んで返事をする。


「そんなことはありませんわ。普段はちゃんと玄関から家に入りますわよ。常識じゃないですか?」


 可笑しいとばかりに笑いながら答える。


「ですが・・・・そうですね、わたくしの場合だと、礼儀を弁えるのに値しない人間に対してはそのくらい手荒い真似してもいいと思ってるけどね」


 上品なお嬢様口調から、怒りを滲ませた乱暴な口調へと変貌し、こちらを威嚇してきた。


「どういうつもり?ユイちゃんの命を狙うとか、何考えてんの、あんた?」


 怒りの眼差しを向けられたマキナは、心中焦りが生じていた。

 なぜなら彼女にとって、この事態は誤算だったからだ。

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