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第五十七話 地獄の番犬

 ドローンは装備されている機関銃を発砲することなく、扉の方へと走行した。

 目的はユイ。

 俺は全く眼中にないのだろう。



 しかし、ただで通す訳にはいかない。


「行け」


 短く答えると、傍らにいるケルベロスは勢いよく駆け出した。

 天井高く跳び上がり、四機の内の一機に噛み付く。

 ドローンは剥ぎ取ろうと機関銃を発砲しながら動き回る。

 が、三つの口は関節部をしっかり銜えている。

 俺は弾丸が当たらないように、物陰に隠れ様子を伺うことにした。



 弾丸の雨を無造作に撒き散らし、壁や床、天井に跳ね返っていく。

 残りのドローン三機も回避しようと悪戦苦闘するが、内一機が数発命中し機能を停止した。

 そして、バキッと鈍い音が車内に響き渡る。

 動いていたドローンも直後、崩れるように動かなくなった。

 ケルベロスは引き千切った鉄の残骸を投げ捨てた。

 狙いをもう一機に定める。



 俺は床に転がった細長い鉄の残骸をすかさず回収する。

 車輪が付いていることから足のパーツだったのだろう。

 俺はそれを刃の形へと錬成した。

 魔力が残っていないため、剣と呼ぶにはあまりにも不格好なものになってしまう。

 それでもないよりはマシだ。



 再度状況を確認してみる。

 機能を停止し鉄屑と化したドローンが二機。

 ケルベロスと交戦しているドローンが一機。

 そして、残り一機のドローンは目的を遂行するため扉の方へと近付いていた。


 となると、俺はあいつを倒せばいいってことだな。


 そう判断すると、再度陰に隠れる。



 タイミングを見計らって一撃で仕留めることが理想的だ。

 だが、奴は間違いなくマキナの送り込んだ刺客。

 赤外線サーモグラフィとか、そういう機能が搭載されていてもおかしくないはず。


「・・・・・・」


 それを逆手に取る策を考えようとしたが、生憎答えを出す時間はないようだ。

 ドローンが滑走する音が近付き、車輪部が俺の真横を通過しようとしていた。


 くそっ、こうなったら一か八かの賭けだ。


 腹を括った俺は立ち上がり、風魔法を纏った剣を振りかざそうとした。



「はあああぁぁぁぁ・・・・・・え?」


 俺は振り下ろそうとしていた剣を思わず止めてしまった。

 あまりにも無様な格好をしていたからである。

 ドローンの機体は鎖によって拘束されているのだ。

 唯一装備された機関銃の銃口も天井に向けたままで、武器としての機能を果たしていなかった。

 一体どうなっているのか、結論からいうとケルベロスの仕業だ。



 三機目を撃破した直後のようで、後ろの方で鉄の残骸が一つ増えている。

 ドローンの周辺には四つの魔方陣が展開されており、そこから鎖が延びている。

 そこから淡く照らされている紫色の発光は、ケルベロスの六つの眼にも確認された。

 召喚してから少しずつ減っていたが、今ので減少量が増えたような気がする。



 俺はケルベロスによって捕らわれているドローンに、五回程剣を振った。

 素早く放たれた斬撃は関節部や頭部を切り伏せる。

 これにより四機目の鉄屑を創り上げたのだ。



「・・・・・・なんか・・・・おいしいところを譲ってもらった感があるな」


 やるせない気分だったが、そんな感情に浸っている余裕はなかった。

 隣の車両から悲鳴が聞こえたのだ。

 ユイのものだ。



「急ぐぞ」


 俺は使い魔である三つ首の獣にそう指示を出す。


「「「がうっ」」」


 微妙に吠えるタイミングが違っていたことから、恐らく意思は独立しているのだろう。

 それを理解しながら、俺は扉を勢いよく開いた。



「寒っ!?」


 流れ込んできた冷気に身震いしてしまう。

 それもそのはずだ。

 中は氷の世界に覆われていたからだ。

 辺り一面が白い霜が広がり、氷塊が剥き出しになっている。

 見ると、二機のドローンが氷の中に閉じ込められていた。



 そして、どこからか唸り声が聞こえる。

 視線を落とすと、ユイがドローンに押し倒されていた。

 ドローンの頭部先端からレーザーのようなものが照射されており、床の一部を黒く焦がしている。

 それが直撃しないように、ユイはクロノステッキで銃口が動くのを防いでいる。


「ミツキ、その・・・・・・ちょっと・・・・きついから、助けてっ!」


 顔を顰めながら必死そうに助けを懇願してきた。



 俺は歩み寄り、剣をドローンの頭部目掛けて降った。

 見事に斬り落とされ、頭部が宙に舞う。

 この時照射状態のままだったレーザーが周囲を踊るように駆け回る。

 地面に転がると、それは途切れるように消えた。



「大丈夫か?」


 俺は両手を広げて仰向けになっているユイに話し掛けた。


「正直大丈夫じゃなかった」

「だろうな」


 安堵したような発言から、なんとなく察した。



 隣の車両にもドローンが侵入してきたこと。

 魔力を消耗しきっていたことから魔装が出来なかったこと。

 唯一使えた水魔法でドローンと戦い、最終的に力尽きて止めを刺されかけたこと。

 ユイが話した内容の大半は、俺が現場の状況から理解したこととほぼ同じだった。



「ところでその子は?」


 近くのシートに座ったユイが、傍らにいる獣を指摘してきた。

 いや、獣というにはあまりにも従順すぎる目をしていた。

 先程まで獲物を狙う狂犬のような形相をしていたが、今では尻尾を振ってつぶらな瞳で愛嬌のある顔をしている。

 最早、ただの犬だ。


「ハデスの魔道具から召喚した使い魔だ・・・・・・一応」


 自信を持って言うことができなかった。

 本当に使い魔なのか怪しく思ってしまったからである。


「可愛い」


 ユイは頭を撫でて、ケルベロスは気持ちよさそうな表情を浮かべている。


 ただの犬じゃねぇか!


 少し不思議な光景だったが、まさに飼い主とペットを絵にしたようなものだった。

 そうなると、この場合の飼い主は俺になるか。



 戦闘後とは思えない和やかな光景にほくそ笑む。

 しかし、まだやらなければならないことがあると再認識する。

 犬と戯れるユイを他所に、電車の出入り口の方へと歩み寄る。

 ここでも扉はくり抜かれており、外の景色が露わになっていた。



 風を、感じない。

 そう思ったのは、肌を触るものがなく、前髪が揺れていなかったからだ。

 見ている景色も映写機で映し出されているみたいで全く本物感がない。

 作り物みたいだ。



 俺は風魔法を発動し、入り口近くの外に魔方陣を出現させた。

 それに飛び乗ると、トランポリンのように跳び上がった。

 軽快な背面飛びをしながら、電車の上に着地する。

 そして、すぐに周囲を見回した。



 電車は二両編成。

 今自分が立っている車両に一機。

 隣の車両にもう一機。

 それぞれの場所にドローンを確認した。

 恐らく、この電車周辺に結界を張った張本人たちで間違いないだろう。



 武器は手元にある不格好な剣。

 錬成に使えそうな障害物は、なし。

 電車一両の長さがだいたい二十メートルくらいと、どこかのサイトに記述されていたことから、ドローンとの距離もだいたいそのくらいだろう。

 連結部にいるから。



「・・・・これ、二機倒したら動けなくなるな」


 もしかすると、ケルベロスは配慮してくれていたのかもしれない。

 俺の魔力残量を気に掛けていて。

 だとしたら、本当に主人思いの賢い使い魔なのだろう。

 まあ、使用者の魔力で活動しているから、俺の一部でもあるということだし。


「名前、考えとくか」


 そう呟くと、俺が立っている車両にいるドローンを見据えた。



 見たところこちらに気付いていない様子だった。

 もしかすると、攻撃の意思のあるものにしか反応しないのかもしれない。

 先程もそうだったが、俺のことなど目も暮れていなかった。



「それなら好都合だけど・・・・なっ!」


 剣を構え、走り出す。

 風魔法による加速で、ドローンとの距離を一気に詰めようとする。

 が、それに気付かない訳もなく、機関銃による弾丸の雨が迎え撃つ。


「面倒臭ぇ」


 そう吐き捨てながら、防御しようとした。

 その時だった。



 目の前に無数の鎖が出現したのだ。

 それらが振動する度、弾丸が弾き返されていく。

 突然の出来事で一瞬戸惑ったが、誰の仕業かすぐに理解した。


「ったく、メンタルケアだけじゃなくて戦闘のサポートもしてくれるとか・・・・」


 ドローンと目と鼻の先まで接近すると、剣を空高く振り上げた。


「有能過ぎじゃねぇか!」


 刃は見事に機関銃を切断した。

 そして、ドローンの装甲に左手を翳す。



 『物体解析』。

 錬成の応用技で、物体の構造を把握する能力だ。

 以前狼男の襲撃の際、損傷した車を修復するのに使用している。

 魔力残量が僅かなためその時ほどの力は発揮できないが、特定の物を見つけるには十分だった。



 俺はある物を見つけると、剣で切り裂きながら抉り取った。

 無機質な装置。

 結界を張っていた魔具だ。



 最後にドローンを切り伏せると、風魔法でもう一機の方へ跳び上がる。

 ここでも弾丸を喰らいそうになるが、優秀な助手のサポートにより難なく回避し、近付くことに成功した。

 機関銃を無効化し、結界を張っている魔具を抜き取る。

 三発の斬撃を繰り出し、ドローンの機能を停止させた。



「よし、後は破壊するだけか・・・・」


 俺は手元にある二つの装置に目を向ける。

 本来なら動かしただけで結界は解けるはずなのだが、生憎まだ機能しているようだ。

 その証拠に風を感じないし、見ている景色に変化がない。



 俺は装置を片手で持って、ユイがいる車両の方へ戻ることにした。

 中に入ると、相変わらず助手と戯れている。

 全く緊張感がない様子だった。

 まあその方がいいのかもしれないが。



「あ、ミツキ」


 俺に気が付くや否や、自身の膝に凭れ掛かっている助手と交互に見ながら動揺していた。

 それが可笑しくてクスッと笑いが漏れてしまう。



「これで最後だ」


 そう言って、床に転がした二つの装置を剣で串刺しにした。

 直後、剣諸共装置は霧散し消滅した。

 それと同時に壊れたドローンの残骸も、車内を覆っていた氷の世界も消えていった。

 ケルベロスも姿を消し、代わりに周囲には人が現れるようになった。

 まるで最初からそこにいたかのように。


「戻れたみたいだな」


 最後に、ドローンによって繰り抜かれた扉が元に戻っていることを確認しながら呟く。



 そして、全身の力が一気になくなってしまい、ドスンッとシートに腰を下ろした。


「もう動けねぇわ」


 身体に疲労が蓄積されていることを実感し、大きな溜息を吐き出す。

 襲撃される心配がなくなった訳ではない。

 それでも鬼気迫る現状をなんとか打開できたことに対し、今は優越感に浸りたい気分だった。

 このままゆっくり休みたいがそういう訳にはいかないようだ。

 電車のアナウンスが俺たちが向かっている目的地に到着したことを知らせたのだ。

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