表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/140

第四十九話 疾走の救出劇

「ホント、これ結構マズイわ・・・・」


 チラリと背後に視線を向ける。

 横転した車やトラック、バスといった自動車が横転して、橋の上の道路を埋め尽くしている。

 この中で今にも爆発する危険性のある車があるのだろう。

 正直、どれか分からない。

 もしかすると全部かもしれない。



 見たところ、何人かは逃げ出せたと思うが、まだ残っている人はいるだろう。

 横で倒れている漢のように、動けない状態で気を失っている可能性が高い。

 最悪な場合、死んでいることも_____。

 そう考えそうになったが、止めた。



 とにかく、逃げ遅れた人々を助けて爆発を防ぎつつ、狼男の相手をしなければいけないということだ。

 しかも、それを俺一人で。

 応援を呼びたいが、生憎そんな余裕はなさそうだ。



 獣は完全にこちらを狙っている。

 油断していると、手足の一部を引き千切られそうだ。

 意識を逸らすことができない。

 だが_____。



 臭いが更に濃くなっている。

 このままだと、ここ一帯が火の海と化してしまう。

 最早一刻を争う状況だ。

 考えている暇はない。

 腹を括るしかない。

 そう決めると、


「こうなりゃぁやけくそだ!全部俺が背負ってやる!」


 と、狼男目掛けて風魔法で突風を巻き起こした。



 狼男の巨体が空中に浮き、後方へ吹き飛ばされる。

 その隙に近くでひっくり返っている車に手を添えた。

 外部及び内部構造の把握。

 漏れた液体の除去。

 損傷個所の修復。

 可燃性の高い気体及び液体の排出。

 ・・・・・・

 それら全てを一瞬で終わらせた。



「次!」


 再度風魔法を発動させ、足元に出現した魔方陣を蹴って加速した。

 最初に人命救助を優先したいところだが、その前に火が引火してしまえば元も子もない。

 取り敢えず、まずは火元の処理からだ。

 目視で数えて、十三台。

 一台、二台、三台、・・・・と、順調に処理を行っていった。

 が、当然のように邪魔をする者がいる。



 七台目の自動車に触れたところで、吹っ飛んでいた狼男が襲い掛かってきたのだ。

 何処から取り出したのか、両手には長い槍が握られていた。


「ウソだろっ!?」


 唖然としていると、狼男は空高く跳び上がり、槍を振り上げる。

 直後、槍の先端が横になっている車の車体を貫通した。

 幸いにも処理し終えた後だったので、爆発の心配はなさそうだ。

 俺も咄嗟に動いていたので、間一髪槍の魔の手から逃れられた。

 が、狼男の攻撃は終わらない。



 車体から槍を引っこ抜くと、槍を振り回して再び襲い掛かってきた。

 長いリーチのためか回避するのに手間がかかる。

 攻撃モーションは大振りだが、距離を縮められないため反撃する隙がない。


「このっ!」


 せいぜい風魔法で動きを牽制するしか方法がなかった。

 恐らく、ダメージは入っていないだろう。

 今はそれでいい。



 再び火元の処理へと向かう。

 その間に何度も邪魔をされ、中の人も同時に助けるという手段も取るようになった。

 時には鎖で車を巻き付けてこちらに投げつけてくることもあった。

 無人ならそのまま破壊していたかもしれないが、人がいたのでそういう訳にはいかなかった。

 無謀にも正面から突っ込んでフロントガラスを破り、中の人を助けるという荒業をする羽目になる。

 そして、残りはバスやトラックを含めた四台の自動車となったところで、非常事態が起きてしまう。



 ここにきて、急に体力が限界を迎えようとしていたのだ。

 理由は簡単だ。

 先程、バスケで死闘を繰り広げてしまったことが原因だろう。

 一応、車内で休息は取ったのだが、どうやらそれだけでは満足に回復できなかったようだ。



 それでも身体を動かすのを止めない。

 目の前に災厄があるのなら、身を粉にしてでも排除しなければならない。

 それが、今俺がしなければならないことなのだから。

 自身を奮い立たせ、足を引きずりながらも動かしていく。



 目の前の大型車は車体が大きいことがあり、構造を把握して処理するのに時間が掛かるだろう。

 バスに至っては複数人が乗車しているため、運び出すのに手間が掛かってしまう。

 狼男の襲撃もあるから、先程までのように一筋縄ではいかなさそうだ。

 それでも_____。


「助け出す!絶対に!」


 もうこれ以上、目の前で誰かが死ぬのを見たくない。

 傍で悲しんでいる人の姿を見たくない。

 嘗ての自分の過去と重なってしまうから。

 何もできなかった自分が許せなくなるから。


 ここで倒れる訳には、いかない!



 トラックの車体に手を触れた、次の瞬間だった。

 背後から迫る気配を察知し、咄嗟に振り返る。

 見ると、鎖に繋がれた長身の槍がこちらに迫ってきていたのだ。


「くっ」


 避ける訳にもいかず、風魔法を発動し、周囲の障害物から巨大な障壁を生成し向かい打つ。



 あの槍は元々鎖が変異したもの。

 つまり、鎖の魔力と体力を吸収するという効力も健在である可能性が高い。

 触れないことがベストだが、今回はそうはいかないだろう。

 風魔法で槍の加速を阻害することはできても、錬成で作った障壁は簡単に壊されてしまう。

 万が一のことに備える必要がある。



 魔方陣から放たれた突風により勢いは弱まったはずだが、案の定障壁は粉々に散ってしまう。

 このままでは迫る刃が身体を貫通してしまうだろう。

 俺は急いで右足に強化魔法を付与する。

 そして、手は車体に添えたまま、勢いよく槍の柄の部を蹴り上げた。



 これにより、一応は防御に成功する。

 安堵した時だった。

 宙を旋回する槍は、瞬く間に鎖の形状へと変化した。

 そして、反応する間もなく俺の身体を拘束してしまう。


「なっ!?」


 声が漏れた直後、何かに引っ張られる感覚がした。

 気付いた時には、狼男の真上にいた。

 俺の身体は空中で放物線を描くように地面へと落下していった。


「がはぁっ!」


 着地地点は車の上だった。

 金属がめり込む音とガラスが割れる音が混ざって聞こえる。

 背中を介して衝撃と激痛が走る。

 喉の奥から生温かい血反吐を吐き出した。



 だが、狼男の攻撃は止まらない。

 鎖で繋がれた俺の身体を周囲の車や障害物、地面に何度も何度も叩きつけていく。

 その度に激痛が走り、身を撒き散らした。

 その間に魔力と体力を奪われているため、身体の弱体化が加速していく。

 視界もまともに見ることができず、考える余裕すらなくなってしまった。



 それからどれくらい振り回されただろうか、全く覚えていない。

 気が付いた時には車の側面に背中を預けて座っていた。

 といっても、倒れている状態と何ら変わらないが。



 周囲を見渡すと、先程まで修復したはずの車が、再度スクラップにされていた。

 車体から煙を上げているものや液が漏れているもの。

 いつ爆発してもおかしくなかった。



 それを何としてでも食い止めようと立ち上がろうとする。

 しかし、指すらピクリとも動かない。

 下を向くと、制服が自身の真っ赤な血に染まっていた。

 それなのに痛覚が全く感じなくなっていた。

 呼吸も薄くなっていき、今にも意識が途絶えそうだ。



 ぼやけていく視界で、狼男の姿を探そうとする。

 見つけると、そいつはバスの方へと向かおうとしていた。


 マズイ、このままだと・・・・・・。


 そう思って、必死に意識を保ちながら手足を動かそうとした。

 が、全くビクともしない。

 抗えば抗う程、益々苦しくなっていく。


 ここ、まで・・・・なのか?


 バスの中に人がいるのか、ちゃんと確認した訳ではない。

 もしいるのなら、俺は助け出さなくてはならない。

 例え、腕や足がなくなろうと、救える力がまだあるのなら_____。


「助け・・・・出す・・・・・・・・絶対に・・・・・・助け、出す」


 消えていく意識の中で、それでも抗おうとする。


「たす・・・・け・・・・・・・・・・・・」










 恐らく、俺は一瞬意識を失っていたのだろう。

 だが、すぐに覚醒することができた。

 傷も。

 血も。

 魔力も。

 体力も。

 それら全てが万全の態勢で回復されていたのだ。

 理由はだいたい分かる。

 今、目の前にいる少女が助けてくれたのだろう。



「ここにいた人たちはみんな転移させておいたよ」


 羽織っているコートの裾を翻しながら、こちらに振り向く。

 優しそうな顔をしているが、強く真っ直ぐな目をしていた。

 それは張り詰めていた感情を和らげ、不思議と安心させてくれる。


「遅いんだよ、ユイ」


 悪態をつくが、自然と笑みが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ