第四十七話 それぞれの戦い
ユイは『未来観測』を発動した。
最も実現される確率の高い十秒先の未来を一瞬で確認する。
それを終えると、目の前で猛突進してくる狼男に、こちらも迎え撃とうと駆け出す。
十、九、八・・・・。
水魔法を発動させ、クロノステッキの先端に水を生成させる。
そこから温度を急速に下げるイメージを唱え、水を氷へと変化させた。
冷気が肌を撫でる感触がする。
ユイは氷を狼男の進行方向手前くらいの位置に放った。
が、直撃する寸前で回避されてしまい、大きく頭上を飛び上がった。
着弾し爆発するように氷の柱ができる。
その影響で散った、氷の欠片が狼男の足に付着する。
七、六、五、四・・・・。
ユイは氷の柱を光弾で破壊し、その破片を瞬間転移で移動させた。
その先は、今背後にいる狼男。
足で勢いを止め、急いで状況を確認しようと振り返る。
そして、転移させた破片を鋭い針状に形成し、一斉射撃を開始した。
しかし、それは二本の剣によって全て阻まれてしまう。
三、二・・・・。
狼男は絶叫し、再度こちらに突っ込んできた。
ユイは能力発動の態勢をとる。
一・・・・。
「今!」
すかさず能力を発動させた。
直後、目前に迫る狼男から氷が膨張するように出現し、両手以外を覆う。
まさに自身が見た未来の光景である。
そして、急激な体温低下により両手も剣ごと凍った。
地面に触れると、氷塊は一瞬にして粉砕した。
「・・・・・・」
ユイはしばらくその場で茫然としていた。
現状に実感がわき安堵すると、へなへなと足を崩し座り込む。
「やったんだ・・・・わたし一人の力で、魔物を倒したんだ」
何度も呟く。
優越感に浸りながら、徐にインカムに手を添えた。
「ユイです。魔物を一体討伐に成功しました・・・・」
すると、すぐに返事が返ってきた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「こちら早乙女エリ。こっちもあと少しで片が付きそうよ」
電話越しならぬインカム越しで答える彼女は、今まさに矢を射抜こうとしていた。
「ここはあたしに任せて休んでいて。後は自分でなんとかできそうだから」
そう答えると、「分かった」という返事がきて、通話が切れた。
仕切り直しで、両腕を一旦下ろして、肩を軽く回すと再度弓を引いた。
狙いは木々が生い茂る森林の中で、植物たちに拘束されている狼男。
槍は移動させた直後で弾き飛ばしておき、体内に巡る魔力の殆どを吸収していた。
後はこの矢で止めを刺すのみ。
以前と大して変わらなかった。
まあ、前回と違いがあるとすれば、鎖を槍や剣に変化させるという点だけ。
それ以外は殆ど一緒だった。
先程までは場所自体が不利な環境だったため苦戦はしたが、有利な場所に変わればこっちのものだ。
槍も破壊しようと、樹木を操作して触れようとした。
が、その瞬間に魔力の流れが阻害され力が出ず、破壊は断念せざるを得なかった。
それでも武器を手放した以上、狼男はそれを扱うことはできないので害はないと判断し、無視することにした。
今自分が立っている高台から的の距離は、目測約百八十メートル。
射程角度も風向きも、共に問題なし。
それを確認すると、後は自身のタイミングで矢を放つのみ。
「・・・・・・」
額から一筋の汗が流れ、頬を伝う。
魔力は一応回復しているが、体力は既に限界に達していた。
内に秘めた緊張が、心臓をバクンバクンと高鳴らせる。
そして_____。
放った。
空気を貫通する音が鳴り、矢は真っ直ぐ進んでいく。
何者にも邪魔されず、鮮やかな一直線を描いていった。
途中までは_____。
矢が木々の先端部に差し掛かったところで、あらぬ方向から槍が飛び出してきたのだ。
そして、矢の先端が持ち手部分に触れると、矢は粉々に木片へと化してしまった。
「ウソ・・・・どうして?」
考える間もなく、槍はこちらに襲い掛かってきた。
咄嗟に手に持っている弓を成長させて、簡易的な盾を生成する。
が、先端が触れる直前で、槍が鎖の形状へと変化した。
拡散して盾の淵を横切り、瞬く間にエリの身体の自由を奪ってしまう。
「がっ!?」
巻き付いた鎖に驚き、思わず倒れてしまう。
なんとか拘束を解こうとするが、力が入らない。
それどころか抜けている。
「く、このっ!」
身体をじたばたと動かすが敵わず、徐々に魔力と体力が枯渇していった。
「うぅぅ・・・・」
鎖から解放された時は、魔装が維持できなくなっていた。
自由になっても全身に力が入らない。
意識すら遠のいていく。
それでも取り逃がすまいと動こうとするが、狼男が逃げていくのを見て断念した。
そのため、少しでも動けるうちに手を打つことにした。
身体を横にし、インカムを地面に叩きつけて連絡を取ろうとする。
電子音が鳴る。
『はい、ユイです。そっちも無事に討伐できたの?』
少し高揚したトーンで話し掛けてきた。
自分が狼男の討伐に成功したと疑っていない様子だ。
なんだか心が痛い。
「ごめん・・・・・・その、少し油断して取り逃がしちゃった・・・・・・」
話すだけで息が上がってしんどい。
『え、どうしたの?いったい何があったの?』
心配するユイだが、宥める余裕がないので言葉を続けた。
「多分、橋の方に逃げて行ったと思うから、すぐに追って!」
『でも・・・・・・』
「鎖・・・・・・鎖にだけは・・・・本当に、気を付けて・・・・・・」
「お願い」、そう言い掛けたところで完全に意識が途絶えた。




