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第三十ニ話 深夜の特訓

 深夜の公園というのは、物静かで殺風景な場所だ。

 街灯を点いているにも関わらず、薄暗くて気味が悪い。

 昼間は多くの人でごった返している場所だが、今この場に人が一人でもいるだけで不気味に感じてしまう。

 寧ろ不審者だと思ってしまうだろう。

 しかし、人のことは言えない。

 なぜなら自分が、この場で一番怪しい格好をしているからだ。



 時島ユイ。

 つい最近、魔術師になった女子高生である。

 現在、公園のど真ん中で魔装した状態で立っている。



 傍から見れば、魔法少女のコスプレをした痛い女の子がいると思われるだろう。

 最悪の場合、通報されるかもしれない。

 だが問題はない。

 なぜなら、周囲の人から痛い女の子だと思われることも、通報されることもないからだ。

 そして、これから行われることも認識されることはないのだ。



 スーと息を吸い、精神を落ち着かせる。

 四月ももうすぐ終わるとはいえ夜の空気は冷たく、肺に取り込んだ際に冷気を感じた。

 そして、息を止め吐き出すと、肺が瞬く間に温かくなる。

 これにより、身体中に蓄積された緊張感が抜け出たような気分になった。


「よし!」


 掛け声を上げ、意識を集中させた。



 頭の中でイメージを浮かべ、自身が望む能力を引き出し発動する。

 この時、脳裏にはさまざまな光景が映し出されていた。

 どれも鮮明で、自分が視点となって見ているようなものばかりだった。


 成程ね・・・・・・。


 理解すると、ユイは手に持っているステッキを構えた。



 因みにこのステッキには名前を付けている。

 ステッキと呼ぶだけではあまりにも寂しいので、そう呼ぶことにしたのだ。

 ≪時計杖・クロノステッキ≫。

 ミツキからは、「単に≪クロノス≫と≪ステッキ≫を捩っただけだろ!」とツッコミを入れられたが、実際そうである。

 単純な発想だが、覚えやすい名前ならそれでいいと思ったのだ。



 ステッキもといクロノステッキに魔力を集中させ、攻撃及び防御の準備を整えた。

 目を動かし周囲の状況を確認しながら、タイミングを計る。


 三・・・・・・・・

 二・・・・・・

 一・・・・


「今!」


 振り向き様に光のバリアを生成した。

 それからコンマ秒後に、鋭い風の斬撃が直撃した。

 乾いた衝撃音。

 バチバチと弾ける火花。

 攻撃の反動がこちらにも伝わり狼狽えてしまいそうだ。

 しかし、そんな余裕はない。

 次も攻撃が来る。



「次!」


 身体を捻り、再度バリアを生成する。

 衝撃。

 火花。

 反動。

 余韻に浸る間もなく、身体を動かしていく。



 右上!


 左真横!


 左真横!


 下!


 真後ろ!


 上!


 左斜め下!


 右斜め上!


 心の中でそれを唱え続け、斬撃よりも早い段階で動き防いでいく。

 確実に、的確に、自身の肌に掠り傷一つ付けないように。

 そして、イメージをする意識が途切れてしまわないように。



「せいっ!」


 途中意識が散漫しかけたので、気合を入れるため掛け声を上げた。

 流石に長時間意識を集中させていると、体力を消費してしまい、肉体的にも疲労が蓄積されていってしまう。

 常に頭を使っている状態は、ユイの日常生活の中でほとんどないことなのだ。

 しかし慣れるしかない。

 これはそのためのものだから。



「たあぁっ!」


 ユイはクロノステッキを振り下ろし、これも見事攻撃を防いだ。

 が、とうとう身体にも限界が来てしまったようだ。

 一瞬タイミングを逃してしまい、動くのが遅れてしまった。

 風を纏った剣を振り上げた人物、ミツキが背後に迫ろうとする。

 そして、為す術もなく斬撃を喰らってしまう。

 それが脳裏に浮かんだ光景である。



 寸でのところで背後に魔方陣を出現させた。

 攻撃に身を任せていたためか、避ける間もなくミツキはそのまま取り込まれた。

 そして、同様のものを前方に出現させると同時に、彼も現れる。

 ミツキは背を向けたまま、剣を振り下ろし盛大に空振りをした。



 ユイはその隙を見逃さず、最近覚えたての魔術を発動した。

 すかさずステッキの先端に魔方陣を出現させ、水の玉を生成する。

 そして、ミツキ目掛けてぶつけようとした。


「はあああああぁぁぁっっ!」


 絶叫し、自身の全てをこの攻撃に託す。


 これで決める!


 そう確信して_____。



 しかし、その思いはシャボン玉のように儚く散った。

 放たれるはずだった水の玉が虚しく破裂してしまったのだ。

 そして、自身も勢いに身体を預けてしまったため、バランスを崩してしまう。


「へぶっ」


 悲鳴というにはあまりにも情けない声を上げ、大の字に倒れてしまう。

 そこからすぐに立ち上がろうとしたが、既に遅かった。

 四本の短剣が宙で周りを包囲していたのだ。

 そして目の前には、剣の先端を突き立てているミツキがいた。

 少しでも動けば、五本の刃が一斉に身体中を突き刺してくるだろう。

 これは『積み』ということである。



「わたしの負けよ、ミツキ。煮るなり焼くなり好きにして」


 うつ伏せのまま答えると、頭上で溜息をつきながら言葉を発してきた。


「んなことするか・・・・大体これ模擬戦なんだし、殺気立ってやるもんじゃねぇだろ」


 顔を上げると、ミツキが手に持っている剣を消滅させた瞬間だった。

 背後からも蒸発するような音が聞こえ、四本の短剣が消えたことを察する。



「結構ガチじゃなかった?」


 目を細めて凝視しながら、ゆっくり立ち上がり砂埃を叩いた。


「火魔法は使わなかったから問題ねぇだろ?てか、結構力抑えながらやったつもりだけど・・・・・・」

「目が怖かった!」

「いやそれ生まれつきだから・・・・・・」


 若干凹んだような素振りを見せるが、すぐに立ち直り言葉を続けた。


「取り敢えず、今日はここまでにするか。あんまり長居するとツバサに気付かれそうだしよ」

「そうね。それに明日も学校があるしね」


 お互いの意見が一致すると、魔装を解除した。



「しかし驚いたなぁ。たった一週間でここまで魔術をものにするなんてよ。それに戦い方も結構サマになってきていると思うぜ」


 ミツキが正四方形の結晶、魔器を拾いながら話し掛けてきた。


「そうかな?必死になって特訓してたから、出来ているか出来ていないか全然分からなかったけど、上達しているんだね!」


 ユイは顔をニヤけながら、目をキョロキョロさせ草むらを分けている。



「つっても、まだまだ未熟なことには変わりねぇけどな。さっきだって水魔法の発動に失敗しているし。前みたいに部屋中を水浸しにする程じゃなくなっているからマシにはなっているけど、まだまだだな」


 途中で悪態をついて、褒めているのかダメ出ししているのか分からないような評価を付け足してきた。


「なんか嫌な感じ」

「そうか?これでも正確な評価しているつもりだが?それに下手におだてまくって調子に乗られるのも癪だしな」

「ホント、口の悪さは相変わらずなの、ね!」


 そう言いながら、ユイは回収した二つの魔器をミツキに投げつけた。

 が、軽々とキャッチされてしまった。



「まあこれからだし、伸び代があるってことだ。後は実戦を通して経験を積むことだな」


 ミツキは肩にかけているバッグに魔器を入れた。


「そんじゃ帰るか。お巡りさんに見つかる前にな」

「うん」


 こうして今日の魔術訓練を終えた二人は、瞬間転移でその場を後にした。

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