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第三十話 ギャルの本性

 この日、転校生早乙女エリにクラス中が注目を集めていた。

 人当たりの良い性格。

 圧倒的なコミュニケーション能力の高さ。

 今時の高校生にしては珍しい性格の持ち主だ。



 普通ならその高貴な立場から高根の花に見られて、話し掛けてくる奴はほとんどいないのがお約束である。

 しかし、その親しみやすさや格好ゆえに、大企業のお嬢様というキャラの立ち位置が埋没してしまっていた。

 その証拠に、昼休みまでに話し掛けたもしくは話し掛けられたクラスメイトの数は、数十人を超えていた。



「早乙女さん。今日一緒にご飯食べない?」

「わたしもわたしも」

「わたしもいいかな?」


 昼休みに入ると、三人の女子生徒がエリのところに集まってきた。


「オケオケ、全然オーケーだよ!あたしも誰と食べようか悩んでてさ。むしろウェルカムって感じ。一緒に四人で食べよ!」


 ハイテンションなノリで了承するエリ。


「あと早乙女さんっていうのもなんだか堅いからさ、普通にエリって呼んでいいよ」

「え?・・・・・・それじゃ、エリ」

「エリちゃん」

「エリ」

「うんうん、これからよろしくね!ところで三人は何て名前なの?」



 と、まあこんな感じで着実にクラスの連中と仲良くなっているという訳だ。

 正直、今の俺では出来ない芸当だ。

 俺だったら若干奥手に接して、そこから少しずつ距離を縮めていく方法を選ぶ。

 あんなロクに会話もしたことない奴と、和気藹々と話すなんて無理だ。

 そもそもユイですら、そんな風に接したことがない。

 それを可能にしてしまうということは、彼女は『コミュ力おばけ』なのかもしれない。



 それにしても、あんな漫画でしか見たことないような人が現実にいるんだな。

 世の中の広さを知りながら、俺は手作りの弁当を食す。

 もちろん一人でだ。

 なんか虚しい。



「じゃあちょっと椅子持ってくるね」

「ああうん。でもちょっと待って、少しだけ席外すから」


 そう答えるとエリは椅子から立ち上がり、スタスタと歩き出した。

 並べられた椅子や机を避けていき、前へ進んでいく。

 そして歩を止めると、顔を近づけてきた。



「ねぇ君、ちょっと話があるんだけどいいかな?」


 その対象は俺だった。

 今、美少女の顔が間近まで迫っている。

 口角が上がっており、綺麗な瞳は俺の両目を真っ直ぐ捉えていた。


「え、えっと・・・・・・なんか用っスか?」


 予想外の展開に、口調がおかしくなってしまう。


「それは後で話すから付いて来てくれる?」

「いやでも、飯が・・・・・・」

「女の子の誘いと自分のご飯、どっちが大事?」

「・・・・・・・・わかったよ」


 そもそもそんなこと聞かれて、「ご飯が大事です!」なんて答える訳ねぇだろ!


 俺は弁当箱を片付けると、椅子から立ち上がりエリの後に付いていった。


  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


 屋上。

 本来ここは施錠されているため、生徒は立ち寄ることが出来ない場所である。

 それにも拘らず、このエリという少女は合鍵持っていたのだ。

 何食わぬ顔で鍵を開け、躊躇もなく屋上に足を付ける。

 え?いいのかこれ?と考える間もなく、俺も中に入ってしまう。

 キョロキョロと周辺を見回すが、当然誰もいない。

 つまり、俺と彼女と二人だけということである。



 全然状況が読めねぇ、どういうこと?


 道中話し掛けても彼女は何も答えてくれなかった。

 そのため、自分がどうしてここに呼び出されたのか、何をされるのか分からないということだ。

 はっきり言って、滅茶苦茶怖い。



「あのー、一体何の御用で?」


 背を向けた少女に恐る恐る問う。

 こんな人気のない所に連れて来るということは、それこそ誰にも聞いてほしくないことには間違いないだろう。

 まさか愛の告白なんてことはないと思う。

 なぜなら俺と彼女は全く面識がないからである。

 では彼女はどうして俺を指名して屋上に呼び出したのだろうか?



 すると、エリは振り返り、鋭い視線を向けてきた。

 先程までクラスメイトと話していた時のキラキラしたものではなく、紛れもない敵意を示している。

 顔を顰め、愛想が一切感じられないような表情をこちらに見せる。

 そして、口調すらも豹変していた。


「あんたよくそんな惚けた態度取れるわね?それともこの前みたいにあたしをコケにしている訳?」


 ピュアな少女の声とは一変して威圧感が凄まじく、思わず怖気づいてしまいそうだった。



「え?エリ・・・・・・さん?」

「気安く名前を呼ぶな!あたしの名前が汚れる!」


 えぇ~~~~~~~・・・・・・。


 最早別人だった。

 俺は最初二重人格か何かかと思ったが、今までの流れからそれは有り得ないと結論付けた。

 つまり、先程まで愛想よく振舞っていた姿は猫を被っていた状態で、このキツイ性格が彼女の本性であるということである。


 本当おっかねぇ。



「あんたあたしの正体に気付いてるんでしょ?だから今日こっちをずっと睨んでた」

「は?正体?何ことだ?」


 先も言っていたが、一体何の話をしているのだ?

 全く心当たりがない。

 俺はただ着実にクラスに馴染んでいっている彼女の姿を見て、嫉妬していただけ・・・・・・


「あああああああああああああああああっっっ!!!!」


 頭を抱え、発狂してしまう俺。

 嫉妬していたことを自覚して、自分がものすごく惨めに感じてしまったのだ。

 ほぼ自滅である。


「ほら、やっぱりそうじゃない!」


 そしてこの行動で、更に誤解を深めてしまった。


「いや違う、これはそういうのじゃなくて、ただ己の哀れな負の感情に絶望していただけで・・・・・・」

「言い訳なんて聞きたくないのよ!みっともないことすんな!」


 彼女の罵声は不安定なメンタルに強く響き、完全に怯んでしまった。



「とにかく学校で話し掛けないでくれる。正直プライベートに仕事のこと持ち込まれるのマジで迷惑だから。それとあたしの本性バラしたら承知しないからね!」


 そう吐き捨てると、そのまま扉の方へ足早に歩いていった。



「何なんだ、あいつ・・・・・・」


 呆気に取られ、不機嫌な少女の後ろ姿を茫然と眺める。


 早乙女エリ・・・・・・ね。


 彼女の言う通り関わらない方がいいのかもしれない。

 そうしないと、本当に痛い目を見そうな気がする。

 いろいろ不可解な発言があったが、もう忘れることにしよう。

 世の中には、対照的な二面性を持った人がいるということを理解して_____。

 そう決心すると、今後関わることのない少女がいなくなるのを最後まで見届けることにした。



 そう、ここで終われば彼女との物語はここまでだった。

 しかし、俺の中で彼女の発言がどうしても気掛かりに感じてしまい、気付けば思考がフル回転していた。

 少なくとも勘違いしていることは間違いない。

 問題はその内容だ。



 早乙女エリの正体。

 彼女自身の本性とは別のものだな。

 正体とは何のことだろうか?

 それと『仕事』とは?

 彼女の発言では、まるで俺と仕事の同僚であるように聞こえる。

 仕事と聞かれて思い浮かぶものといったら、『魔術協会』くらいしか思い浮かばない。



「!」


 俺の中で全てがリンクした。

 というより、思い出したといった方が正しいだろう。


 俺はこいつを知っている。

 一度合っている。



「ちょっと待ってくれ!」


 俺はドアノブに触れようとするエリを呼び止める。


「何よ。あたしもうあんたと話すことなんてないんですけど」

「いや、俺にはある。・・・・てか、さっきからお前一方的に話してばっかだっただろ!」

「知らないわよ、そんなの。別にあんたと話したくなかったし、第一バカがうつるのが嫌なのよ」


 あたりキツイなぁ・・・・・・。


「と、とにかくこれだけは一応聞きたいから、いいか?」


 頼むと、エリは考えるような素振りを見せた後、眉間に皺を寄せて答えた。


「早めに済ませてくれる?」


 溜息交じりの発言に対し、若干苛立ちを感じたが耐えて発言をする。


「いやまあ、なんか今更こんなこと聞くのもなんだが・・・・・・」


 一呼吸置き、落ち着きを取り戻してから言葉を続ける。



「お前、あの時リムジンの中で茶を差し出してきた魔術師だろ?確か、支部最高主任だっけ?」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



 直後、顰め面だった表情から唖然とした顔に急変した。

 そして、間抜けな声を漏らしながら動揺し始める。


「え?いや、え?ちょっと、ちょっと待って。え、ひょっとして今まで気付いてなかったの?」


 聞かれたので、コクリと頷く。


「え、いやいやいやいや、え?それってつまり、あたし正体がバレたって勘違いしていたってこと!?」


 まあそういうことになるでしょうね。


 そう思ったが、ここは敢えて頷かないことにした。



「・・・・・・」


 また黙り込んでしまった。

 しかし、これはこれで恥ずかしいだろう。

 自分の正体がバレたと勘違いした挙句、口封じのため脅したつもりが本当にバラしてしまう結果になった。

 全く用心なのか不用心なのか。

 まあ結果からしたら、不用心かつ間抜けだけどな。



「・・・・・・・・あ・・・・あああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 赤っ恥をかいた少女の発狂した声が空まで響いた。

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