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第二十七話 ミツキの朝食

 ピピピッ、ピピピッ


 アラーム音。

 毛布から手を出し、手探りでスマホを探そうとする。

 コツンと指に触れると、端末の側面を掴み、毛布の中に引き込んだ。

 指先で画面を操作し、表示されている時刻を確認する。

 大体七時半くらいの時間帯が映し出されていた・・・・・・・・・・七時半!?



「ウソでしょ!?遅刻じゃない!」


 ユイは毛布を退け、勢いよくベッドから飛び上がってしまった。

 パジャマを脱ぎ捨て、急いで制服を着ようとする。


「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」


 それはもう、今までの人生の中で一番焦っていたような気がする。



「ああどうしよう、髪が纏まんないよ~・・・・・・あ、朝ご飯準備しないと!あ、課題やってない!」


 ただでさえ時間がないのに、追い打ちを掛けるようにやるべきことが次から次へと発覚していく。


 もう何なの今日は!?


 半泣きになりながらも、なんとか着替えて教材を鞄に突っ込むと、そのまま部屋を飛び出した。



 ドタドタと階段を駆け下り玄関まで行こうとしたが、途中でリビングに向かった。

 朝食を作れなかったことを、兄やミツキに伝えるために。


 どうしよう、怒ってるかな?


 内心不安になるが、躊躇っている余裕はない。



「ごめん、二人とも!寝坊して朝ご飯作れなかった。だから悪いんだけど各自で・・・・・・」


 済ませておいて、と言い掛けようとした。

 が、目の前の光景を見て、一瞬で声が途切れてしまった。



「お、もう起きたのか?まだ寝てても良かったのに。疲れてんだろ?休んどけよ」


 ミツキはニッと白い歯を見せ、気遣うような言葉を発した。

 あのミツキが、だ。

 黒縁眼鏡と青エプロンを身に付けている。

 目が隠れる程長かった髪は、バッサリと切って短くなっている。

 食べ終わった後の食器類を両手に持っており、如何にも家庭的な好青年にしか見えない。


 わたし、こんな人知らない・・・・・・。


 ユイはそんなミツキの変化に戸惑いが隠せなかった。



「どした?」


 ミツキが首を傾げて話し掛けてきた。


「・・・・あ、いやごめん。ちょっとびっくりしちゃって」


 本当にびっくりだ。

 つり目ではあるが、眼鏡を掛けているおかげで細めていた目が開いており、少しだけ愛嬌のある顔になっている。

 曇っていた瞳も、透き通るように綺麗な目をしている。

 最早、根暗で口が悪いボッチだった頃の姿ではなくなっていた。



「・・・・まあいいや、起きるんだったら朝飯の準備するぞ」

「え?ミツキ料理できたの?」


 そして新たに知った驚きの事実。

 当の本人は何食わぬ顔で頷いたが、どうにも信じられなかった。


「大丈夫なの?」


 心配になり、恐る恐る聞いてみる。


「俺お前の中でどういう評価されてんだ?大丈夫だって、一応ここに住む前はほぼ毎日料理してたからな。三年経って多少腕は鈍ったかもしれねぇけど、味は保証するぜ」


 自信満々に答えると、ダイニングテーブルの椅子に座らされた。

 そして、キッチンの方に向かい、朝食の用意をし始めた。



「あ、そうそうツバサだけど先に食べて大学に行ったからな」

「え、あ、うん・・・・・・」


 最早動揺し過ぎて受け応えもロクに出来ない。


 ホント、誰なんでしょうね、この人?


 どうやら立ち直れたのは間違いない・・・・・・のか?

 それならそれで嬉しい気もするが、自分が知っている彼ではなくなった気がして、少し調子が狂う。

 前は積極的に動くような性格ではなかったはずなのに。

 もしかしてこれが本当の彼なのか?

 分からない。

 一体どう接すればいいのか全く分からない!



 頭を抱え、魘されながら考えていると、テーブルの上に皿が置かれた。


「お待ちどうさん」


 テーブルには、白飯、みそ汁、鮭の塩焼き、卵焼き、和え物等々、ザ・和食といった料理が並べられていた。

 上品に盛り付けられており、まるで老舗旅館に出るような朝食のようである。


 「これ、全部ミツキが作ったの?」


 問うとミツキは頷く。


「食べてみろよ」


 そう言われたので、まず卵焼きを口にしてみる。


 なにこれ超美味い!


 味は濃くも薄くもなく丁度いいし、触感もまた絶妙だった。

 もしかすると今まで食べてきた卵焼きの中で、一番美味しいかもしれない。



 それから他の料理にも手を付けてみた。

 どれも頬が落ちる程美味しい。

 これはもうお店を出してもいいくらいのものだった。

 きっと繁盛すること間違いなしだ。

 ユイは手を休めることなく、ミツキの料理を口の中に放ばっていった。



「はぁ、美味しかった」


 完食し、椅子の背凭れに体重を預ける。


「満足したか?」

「満足、満足、大満足だよ~~~」


 そう言いながら、ユイは徐に掛け時計に目を向けた。

 針はもうすぐ八時を回ろうとしていた。


 あ、もう八時か・・・・・・・・八時・・・・・・・・・・、八時!?


 ユイは今、自分が置かれている状況を思い出した。



「ぎゃああああ、遅刻じゃん!満足とか言ってる場合じゃないし、寛いでる場合じゃないし!急いで家でないと!」


 慌てるユイだが、ミツキはなぜか落ち着いていた。


「・・・・・・・・・・ああ、だから制服着てたのかぁ」


 と、呑気なことを言っている始末である。


「いや他人事じゃないでしょ!ミツキだって遅刻しそうじゃない!ああもうどうしよう、ああああ」


 遅刻確定の現実にヘタれるユイ。

 だが、ふとある方法を思き、指を鳴らして満面の笑みを浮かべた。


「そうだ。学校に瞬間移動すれば遅刻せずに済むじゃない!そうと決まれば、早速・・・・・・」

「いやそんなつまんねぇ理由で魔術使うなよ、アホ!」


 そして、ミツキによって棄却された。


「じゃあどうすればいいのよ~~~~」


 打つ手がないことを実感し、今にも泣きそうになる。



「俺たち学校休んでんのに、何言ってんだコイツ?」



 ん?

 ミツキの発言に違和感を覚えた。


 休んだ?

 わたしたちが?

 え?


 全く身に覚えがない。

 ユイは立ち上がり、ミツキの肩を掴んだ。


「どういうこと?休んだって」

「あれ、言ってなかったっけ?ほら、昨日あんなことがあったから休んだ方がいいかなって思って、今朝学校に連絡した・・・・・・・・あ」


 ミツキも何かを思い出したようで、顔から大量の汗が吹き出していた。


「・・・・・・でもほら、お前家帰る前からずっと寝てたし、言うタイミングがなかったというか、その・・・・・・・・悪い」


 目を逸らしながら、苦笑いを浮かべ謝罪してきた。



「・・・・・・」


 骨折り損のくたびれ儲けは、まさにこのことである。

 ユイは大きな溜め息を吐き、よろめきながら椅子に腰を下ろした。


「後で何があったのか説明してくれる?」



 昨日も波乱だったが、今日も波乱になりそうな予感がした。

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