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第二十六話 星空の誓い

「なあ、ミツキ」

「ん?」


 パチパチと薪が燃え、灯りが顔を照らす。

 父がマグカップを片手に、コーヒーを口の中に注ぎながら聞いてきた。


「星の数はいくつくらいあるんだろうな?」


 脈絡のない質問。

 若干戸惑ったが、夜空に彩られた星を見て興味を持ったので、真剣に考えてみた。



「んんん、確か銀河系で千億個だったか?いや、二千億個だったかな?それは目で見える範囲内でもっと多いって言われてたな。・・・・・・結局今ここで考えるにしては無謀なような気がするなぁ」


 ブツブツと呟きながら、自身の見解を伝える。


「いやいや、そんな真面目な話をするために質問した訳じゃんねぇんだけどなぁ・・・・・・」

「じゃあ、星の数だけあるって言っておきゃいいのか?」

「まあ・・・・・・我が子ながら本当可愛くねぇな、コイツ」

「なんか言った?」

「何でもない」


 親子の何気ない会話。

 だが、星の数を聞いてきた意図は全く見当がつかなかった。



「それで、いい歳したおっさんが柄にもなくロマンチックなことを言ってるけど、何が言いてんだ?」


 俺は両手に添えているマグカップを傾け、口の中を湿らせる。


「いい歳したおっさんがロマンチックなこと言って悪いか?」

「いや悪かねぇけど、なんか気持ち悪いんだよなぁ」

「結局悪いって言ってんじゃねぇか」

「うっせ、つーか質問に答えろよな」


 ヘイヘイと薄く笑い、俺の怒りを軽くあしらった。



「まああれだ、星の数ほどあるっていうからには無数に存在してるって訳だ。そんな難しい話じゃねぇよ」

「ふーん、それで?」

「この星の数ほど、未来の可能性も無数にあるんだなって思っただよなぁ」


 父は目を細めて微笑むと、しみじみと呟いた。



「なあミツキ。もし俺が死んだ時お前はどうする?」


 今度は急に不吉なことを聞いてきた。

 その返答には当然すぐに答えられるはずもなく、口を閉ざしてしまう。

 同時に背筋に悪寒が走るのを感じた。

 どうしても嫌な予感がしたからだ。


 父さんが死んだら、俺はどうするのだろうか?


「そりゃあ簡単に答えられる訳ないか・・・・・・悪いな、そんなこと聞いちまって」


 謝罪されるが、心の内に生じた靄は消えることはなかった。



 俺たちは魔術師いしつしゃだ。

 世間とはかけ離れた立場の人間で、常人では手を出さないような案件に手を出していく。

 最悪死ぬことだってあるのだ。

 だから、不安なのだ。

 自分が、周りの誰かが死んでしまうことが恐怖でしかない。

 それなのに未来だなんて_____。



「でもな。俺はそれで終わりとは思ってねぇぞ」

「え?」


 何を言っているか分からない。

 死んだら終わりに決まってるじゃないか。


「確かに死んじまったらそこまでの人生だ。だけど生きている奴らからしてみれば、ただの出来事に過ぎないんだよ」

「不謹慎な」

「まぁな、でもその出来事は決して無駄じゃねぇ。生きている限り、未来はこの先も続いていく。失った先に新たな出会いはきっとある。可能性は星の数ほど無数に存在するからな」

「・・・・・・」


 俺は無言で父の話を聞いた。



「母さんが亡くなった時、結構落ち込んでな。もう何もかもどうでもよくなって、いろいろ諦めかけちまったよ」

「父さん・・・・・・」

「だけど、お前がすくすく成長していくのを見ていく内に、そんな気持ちなくなっちまってな。ああ母さんの死は無駄じゃなかったんだな、俺がやってきたことも無駄じゃなかったんだなって、希望が持てるようになってよ」


 父は大きな手で俺の頭を撫で、髪をくしゃくしゃにした。


「お前もいつか分かる時が来るさ。だからその日までドンと胸張っとけ!」


 そんな笑顔を浮かべる父は、今となっては懐かしく感じてしまう程尊いものだった。


  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


 久々に悪夢以外の夢を見たような気がする。

 寝起きはいつも最悪で不快感しかなかったが、なぜだか今は熟睡できたような気がする。

 寒空の下、コンクリートの上で寝そべっていたにも拘わらずに。

 俺は上体を起こし、しばらく余韻に浸る。



「・・・・・・」


 俺は夢の内容を思い出そうとした。

 だが、記憶が曖昧になっており、はっきりと蘇らない。

 父の言葉を除いて_____。


「失った先の出会い・・・・・・可能性は無数・・・・・・希望・・・・・・か」


 徐に口遊むと、自然と口角が上がっていた。



 そして、傍で横たわっているユイに視線を向けた。

 スヤスヤと可愛らしい小さな寝息を上げ、熟睡中だ。


「そりゃあ疲れるよな、こんなハードな一日を過ごせば」


 まあ、俺は慣れているけど。



 時島ユイ。

 我が儘でしつこくて、おまけに強引なところのある奴。

 だけど、誰よりも優しく、誰よりも強く、誰よりも心に寄り添うことができる少女。

 今まで見向きもしなかったが、俺はこいつに何度も助けられていたんだな。

 それを改めて実感すると、ユイに申し訳ない気持ちになるも、心の底から感謝したいと思うようになっていた。

 今言っても聞いていないだろうが、起きていると恥ずかしさで言えないから、ここで伝えることにする。



「ありがとな、ユイ」



 真っ暗な夜空に、一つの星が強く輝いていた。

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