表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/140

第二十三話 決戦前

 瞬間転移により再び廃工場に来た俺たち。

 案の定、魔物はいなかった。

 あれから数分程時間が経過しているのだから当然だろう。

 さて、一体どこにいるのやら・・・・・・。



 倒壊した建物の残骸が地面を埋め尽くし、焼け焦げた匂いが鼻孔をツンと刺激する。

 俺は指で鼻を塞ぎながら、辺りを見回した。

 日が沈み、電灯が設置されていないため、ほぼ真っ暗に近い状態になっている。

 肉眼で捜索するには限界があることを実感した。

 となると、景色の明暗に左右されない感覚を頼るしかない。



 聴覚だ。

 耳を澄ませ、違和感のある音だけに意識を集中させる。

 そよ風や石が転がる音といった雑音を無視し、特定の音だけを聞き分け、ある程度の位置感覚を掴む。

 そして・・・・・・。


「あそこだ!」


 俺は魔物がいると思われる場所に指を差した。

 見えないため距離や微妙な位置までは分からないが、おおよその方向は合っているはず。

 絶対的な確信とまでは至らないが、それでも十分な情報だ。



「本当なの?・・・・・・確かに音は聞こえるけど、その方向で合っているの?」


 横にいるユイが耳に手を添えて聞いてきた。


「まあ大体は。近づけば見えるようになると思うけどな」


 そう答えながら、俺は一応目を逸らしてみる。

 当然、何も見えない。



「取り敢えず俺の火魔法で明かりは確保するけど、お前も何かその系統の魔術は使えたり・・・・」


 問い掛けながら彼女に視線を向けると、険しい表情を浮かべていた。


「あの向こうに、魔物が・・・・・・」


 自身の裾を掴み、ガクガクと震える腕を必死で抑え込もうとしている。


 まあ、そりゃあ怖いよな。



 ユイは先の戦闘で魔物に腹を貫かれている。

 蠍の見た目という安直な理由だが、毒にも侵されていたかもしれない。

 どの道、即死は免れないような状態だった。

 だから、今こうして生きているのも、奇跡のように感じてしまう。

 良かったのか悪かったのか、そう問われたら当の本人にとってはいい気分ではないだろう。

 本当なら逃げたくて仕方がないはずだ。



 俺はユイをここに連れて来るべきだったか、迷いが生じ掛ける。

 すると。


 パンッ!


 ユイは自分の頬を両掌で強く叩いた。


「よしっ!これで気合が入った!大丈夫、わたしはやれば出来る!二人いれば文殊の知恵よ!」


 手を離すと、真っ白な肌に紅葉模様が二つ浮かび上がっていた。

 腫れあがった頬を撫でながら、「・・・・痛い」と呟く。



 俺はこの一連の出来事に、一瞬呆気に取られてしまった。

 そして、不意に「いや三人だろ」と言葉を溢す。

 ユイの顔が赤面したのも言うまでもない。



「・・・・と、とにかく行くわよ!急がないと逃げられちゃう」


 直前の出来事を無理やりなかったことにし、颯爽と飛び去ってしまった。


 大丈夫かぁ・・・・・・?


 別の意味で共闘に対する不安を抱き始めながらも、ユイの後を追った。



「一応言っとくが、ヤバくなったら逃げろよな。お前魔術師になったばっかでロクに能力使えなさそうだし、無茶はするな」


 俺は上空にいるユイに対して、走りながら忠告した。

 これまでの彼女を見てきて、重度のお人好しであることを理解している。

 俺がどれだけ罵倒しても喰い付いてくる頑固さ。

 今となっては否定どころか彼女自身の良い所として捉えているが、やはり危なっかしさはどうしても付属してしまう。


「いいか、無理だけはするなよ!飽くまでサポートだからな!また命に係わるような真似はするなよ!」


 改めて強調して伝えた。



 それから俺たちは道中、魔物討伐に向けた作戦の打ち合わせを行った。

 ユイが知っている情報を元に、どういう戦法でどんな役割を担うのか、綿密に相談した。

 といっても、ユイは戦闘経験が浅いため、あまり複雑な内容を立てる訳にはいかない。

 つまり、難しい所はほとんど俺が請け負うことになる。

 万が一の時のアクシデントが起きても、冷静に行動、指示ができるように_____。



 それから時間経過と共に目も慣れ始め、ある程度視界が見えるようになった頃だ。

 魔物の姿を確認した。

 直後、全身の血の気が一気に凍り付いてしまった。



 背後からでもビリビリ伝わってくる殺気のプレッシャー。

 最初戦った時は、怒りに身を任せていたため全く気付かなかった。

 しかし、いざ再びそいつを前にしてみると、自分はこんな恐ろしい相手と戦っていたのだと実感してしまった。

 今まで戦ってきた魔物とは桁が違う。

 それは巨大な図体と比例しているようだった。



「ゲームでいう所のラスボス戦って感じだな・・・・・・」


 なんてことを言っているが、正直滅茶苦茶ビビっている。

 これがゲームなら、命の駆け引きでなければどれ程気が楽だったか。

 俺がこんな状態だと、ユイの反応はどうだろうか?

 徐に彼女のいる頭上を見上げる。

 が、姿は見えなかった。



「ミツキ」


 呼び掛けられ、反射的振り返る。

 ユイの顔は蒼白しており、今にも泣きだしそうだった。


「・・・・・・やっぱり・・・・怖い」


 震えた声で気持ちを吐露し、下唇を噛み締める。



 だがすぐに目つきが変わった。


「怖いけど・・・・・・逃げたくない!でないと、一生後悔する!だからわたしは戦うんだ!」


 間違いなく俺に対して言っているはずなのだが、自分に対して戒めて言い聞かせているように感じた。

 最後に気持ちが逃げないように自身の覚悟をギチギチに固めるため、といった所だろうか。


 全く、本当バカな奴だ・・・・・・・・・・でも、今は嫌いじゃねぇな。



 俺は周囲の瓦礫の山から二本の剣を生成し、それぞれ一振りすると構えた。


「作戦通りにいくぞ!」


 腰を低くし、いつでも動ける態勢を取る。


「うん!」


 ユイの返事の後、俺たちは一斉に動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ