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第百三十.五話 造翼の灯火

久しぶりの投稿です!

「これは派手にやってるな」


 嵐が吹き荒れる海原を目にし、白神アマトが答える。

 この嵐がどのような経緯で発生し、何が起きているのか、全ての事情を大まかに把握している彼は、隣に立つもう一人の男に問い掛ける。


「君はどう思う?この戦いの結末を」



 男の背中には翼が折りたたまれた状態で生えている。

 骨格から映える羽根は細かな造形をしているが、驚くことにそれら全てが蝋でできているのだ。

 ただのお飾りで飛行することは不可能だと思われるが、どうやら飛ぶことはできるらしい。

 蝋でできた翼で空を飛ぶ。

 まるで神話に出てくる『イカロス』を彷彿させ、それが彼が用いる魔導具の所以なのだろう。



「そうスね。多分自分が出る幕はないでしょうね。そもそも今回の敵、自分とは相性悪そうですし」


 アマトの質問に軽薄そうな口調で返答する。

 しかし、その視線は手に持った蝋燭の灯火を注視している。

 魔力を込めた特殊な火であり、特定の魔力の反応を探知すると、青から赤に変わる仕組みだ。


「そうか。でも、コンマ数割の確率で君が戦わざるを得なくなるかもしれないね」


 微妙な割合を答えるのは、アマト自身が『彼ら』が負けるとは想定していないからだ。


「冗談キツいっすね、先輩は」


 本心で自身が戦う可能性を拒絶したいのか、嫌そうな顔を浮かべる。


「まあそっちの心配は程々で良いさ。君が心配することはもっと他にあるからね」


 アマトの言葉に、男の嫌悪の表情が濃くなった。



「例の魔術師の行方は分からず、施設の内側と外側、両方の監視が必要な状況。エリ嬢たちは内側、自分らは外側を担当するって感じっスよね?」

「概ねそうだね」


 そして、見つけ次第身柄を拘束、無理なら殺傷することも指示されている。



「自分正社員じゃないのに、こんな重大な作戦に参加しちゃって良かったんスか?」

「俺が良いと言ったんだ。そこは心配するところじゃない」

「でも、エリ嬢たちには伝えてないっスよね?」

「どこで情報が漏れてるか分からないからな。敵を欺くにはまず味方からというだろ?」

「自分、そんな強くないッスよ」

「小さなきっかけを作ってくれればいい。そうすれば、勝利への道標を作り出すことができる」

「なんか重い責任を背負わされてる気がするんスけど、気のせいッスか?」

「背負っているんだよ。もう既に」

「うひぇ〜っ、先輩手伝ってくださいよ〜」

「無理言うな、昔なら兎も角今の俺は足手まといでしかない。精々後方から支援することしか出来ないな」

「いや十分じゃないッスか。先輩の後方支援以上に頼りになること他にないッスよ」

「そうか、なら一度一人で戦ってみたらどうだ?」

「鬼ッスか!?」



 傍から見たら緊張感のない会話だと白い目を向けられるかもしれないが、実際少しだけ緊張が和らいで気が楽になるので、無意味なことではない。

 命のやり取りをするかもしれない状況だ。

 緊張のあまりミスを犯してそれが命取りになるかもしれないし、反対に気が緩み過ぎて判断が遅れるかもしれない。

 どちらも程よく持ち合わせた方が良いのだ。



 現に男は今までのやり取りを蝋燭の灯火を見ながら聞いている。

 一瞬の変化を見逃さないという意図もあるだろうが、精神統一の目的もありそうではある。

 そして、今青い火が赤に染まった。



「どうやら動き出したみたいだな」

「そうスね」


 アマトの言葉に短く返答する男。

 口調こそ変化はないが、先程までの軽薄な態度から一変して落ち着いたものになっている。


「取り敢えず、ギリギリまで頑張って足止めくらいはやってやりまスよ」


 頼りにしていいか微妙な言葉を残すと、燃え上がる蝋の翼を広げ飛び去っていった。


「・・・・・・途中で溶けて落ちたりしないよな」


 そんな心にもない心配を吐露しながら見送り、アマトも自身の配置へと移動した。

彼は一体誰なのか?

それはまた別のお話に…。


次回から本編です!

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