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第百二十七話 不審な襲撃

『ポイントJ2に生体反応を検知。映像を表示します』


 走る俺の後ろでマキナの端末から声が聞こえる。

 マキナ専属のサポートAIであるアテナだ。

 彼女?からの情報に耳を傾けながら、全速力で現場に向かう。


『情報を更新しました。顔認証の結果、白鳥ユメ、月風ショウコ、花咲ミカンと一致。残る三人はデータベースの情報に合致しません』


 その三人は例のフードの魔術師で間違いないだろう。

 恐らく以前に見せた分身能力を用いていると考えられる。

 状況から察するにユメのナイチンゲールの魔道具を奪いに来たのだろうか?

 花咲ミカンはユメの護衛であると聞いているから、今彼女がフードの魔術師と戦っていることになる。

 月風ショウコは馴染みのない名前で、ユメと肝試しのペアになった人物で、襲撃に巻き込まれたのだろう。

 それにしても、なぜこのタイミングで襲撃を仕掛けたのか?



「名字を上手い具合に組み合わせると、花鳥風月だね」

「言ってる場合か!」

「後十五メートルで現場だよ」

「・・・・・・」


 しょうもないこと言って気を紛らわせてくれたのかは分からないが、緊張は解れた気がする。

 俺は服の裾から魔道具を取り出した。


「ヘルメス!」

「アテナ!」


 瞬時に魔装し、木々の合間を颯爽と駆け抜ける。

 ほんのコンマ数秒で現場に到着した。



 大木が何本か倒れているため広々としていて、見渡しはいい。

 一人の魔術師らしき人物がフードを被った三人組と交戦している。

 内一人が、倒れている少女を匿っているユメに向かって襲い掛かろうとしていた。



 咄嗟にハデスの魔道具を取り出して能力を発動。

 魔法陣から二本の鎖が伸び、二人の少女を掴んで一気に引っ張り上げる。

 宙に投げ出されたユメの身体を両手で受け止めた。


「大丈夫?」


 問いに対して、ユメは状況把握が追い付いていないようでポカンとした表情をしていたが、遅れて返事をした。


「う、うん大丈夫」


 心なしか頬が少し赤いようだが、無事であることは確認できたので、ゆっくり立たせてあげた。



 さてもう一人は無事だろうか?

 恐らくマキナが受け止めたと思うが____。


「・・・・・・」


 振り向いて見ると、ある意味では受け止めていた。

 ただし、全身を使って下敷きになるという無様な格好になっている。


「何やってんだ、お前?」

「どうやら咄嗟のことで制御装置の反応が遅れてしまったようだ。これは改善の余地があるね」


 冷静に状況の分析をし、小さな身体で少女を支えながら立ち上がる。

 少女の方が身長が高いためか、何とも格好のつかない状態になっている。


「彼女の方は無事・・・・・・とは言い難いね。少しパニック症状が出ている」


 マキナの言葉に、改めて少女基月風ショウコを見る。

 長い髪が顔を隠して表情は見えないが、震えた声でぶつぶつと呟いている。

 薄っすらと「怖い」と聞こえた。


「先輩、彼女のことを頼みます。あとはあの女性の指示に従って避難してください」


 ユメに伝えると、俺は戦闘の渦中に飛び込んだ。



 丁度後退しており、偶然隣に並ぶ形となる。


「選手交代、後は俺たちに任せてあんたは二人を頼む」


 三人のフードの魔術師を見据えつつ、魔術師花咲ミカンに伝える。

 そして、一瞬の間を置いて答えを返してきた。


「合点」


 その一言を最後にミカンは後退した。

 それと同時に三人の敵は動き出す。

 逃さない、といったところか。

 俺は錬成能力を発動し、地面の形を歪ませた。

 効果範囲は狭く、十数センチ程陥没させる程度だが、足場の変化に相手は立ち止まる。

 隙を逃すまいとハデスの能力を発動し、地面から無数の鎖を出現させた。

 捉えることは出来なかったが、本命はそれではない。

 後ろに視線を向ければ三人の姿がないことを確認する。

 どうやら逃げる時間を稼ぐことには成功したようだ。

 これでフードの魔術師三人が次にどのような行動を起こすかじっくり観察することができる。



 全身を覆うローブに身を包み、フードを目深く隠している。

 先の戦闘を見るに、以前同様短刀を装備していることは間違いないだろう。

 他にも手裏剣やクナイといった飛び道具や、アフロディテの奇怪な能力にも警戒すべきだ。

 アルテミスの魔道具がないため、あの厄介な追尾性の矢を使うことは不可能だが、代用が利きそうな物はある。

 結局、奴の一挙手一投足全てに意識を向けておく必要があることには変わりない。

 ローブで殆ど見えないため尚更気を抜けない。



 冷たい風が頬を撫でる。

 鼓動が弾む。

 極限に近い緊張。

 それを破ったのは、フードの魔術師たちだった。

 素早い動きで周囲を囲み、短刀を振りかざす。

 俺は錬成した剣とハデスの鎖で対抗する。



 多方向から来る攻撃全てを回避し、間に合わなければ剣で受け止めていく。

 時には鎖で動きを妨害して、隙を狙う。

 金属と金属が擦れ合う度に火花を散らし、乾いた音が木霊しながら耳を劈く。

 無尽蔵に迫る刃に対して意識を逸らすことは許されない。

 死ぬからだ。



 だが、いつまでもこの状態でいる訳にはいかない。

 魔力も体力も集中力も、いずれ限界が来る。

 出来れば今、後退して態勢を立て直したい。

 そう思った瞬間、空から光の雨が降り注いだ。

 寸でのところで地面に着弾し、砂埃が巻き上がる。

 これにより一旦後退することができた。



「一緒に逃げたかと思った」


 着地地点にいた光の雨を降らせた本人に皮肉を言ってやった。


「それも選択肢の一つとして考えていたけど、君やユイを何度も苦戦させた相手に少し興味があってね。別にボクは戦闘狂ではないが、後学のために奴の戦闘スタイルもこの目で見ておこうと思ったのさ」


 そう言って、マキナはインカム型のデバイスを差し出してきた。

 「耳に付けたまえ」と言われ、俺はデバイスを右耳に押し込む。


「邪魔はしないさ。だから君もボクの足を引っ張るような真似はしないでくれよ」

「偉そうに」


 素直に協力するとなぜ言えないのだろうか?

 まあ、正直前回の戦いでも一人で戦うのは非常に酷だったので、助太刀は有り難いことに変わりないが。

 ここで作戦会議でもしたいところだが、相手も悠長に待ってくれる筈もなく、再び攻撃を仕掛けてきた。



 マキナと分断され、二人のフードの魔術師と相手取ることになる。


「マキナ聞こえるか?」


 二つの刃を剣で受け止めながら、インカムの向かって話し掛ける。


『聞こえてるし、わざわざ口頭で喋らなくても頭の中でやり取りできるから。それ、一種のテレパシー発生装置みたいな物だし』

「それを、先に、言え!」


 剣と鎖に風魔法を付与し、風の斬撃を放つ。

 そして、言われた通り、頭の中で会話をする。


『例のトラップは使えそうか?』

『使えるには使えるが、まだ山の中に何人か人がいるから巻き込まれる危険性がある』

『山には俺達以外で人はいるのか?』

『数名いるね。一応魔術師たちが避難誘導しているよ。といっても一度眠らせる手間があるから時間は掛かっているよ』

『どれくらいだ?』

『今のペースから計算して、大体十分から十五分くらいだね』

『ならユイの瞬間転移で移動してもらう方が早ぇな。あれなら五分も掛からない』

『分かった、アテナ』

『了解しました。すぐにユイさんにお伝えします』


 本意ではないが、状況的にそうも言ってられないのでやむを得ない。

 出来ることなら何も知らないまま臨海学校を楽しんでほしかった。

 とにかく今は、全員の避難が終わるまで気を引き付けておく必要がある。


『それと各ポイントを調べさせた結果だが』

『ああ?』

『現状フードの魔術師たちらしき人物は確認されていない』

『だが奴は人に化ける能力がある。現にエリに化けたことがあるからな』

『それについても警戒は怠っていないが、どうやらその可能性は低そうだよ』

『やはり、そうか』



 俺は風魔法を纏った剣を振り、衝撃で二人のフードの魔術師を吹き飛ばした。

 この機を逃すまいと一気に走り出す。


「はああぁぁっ!」


 すれ違い様に剣を振り、宙に投げ出されたフードの魔術師の一人の胴をぶった切る。

 傷口から赤い鮮血を噴き出すことはなく、光の粒子となって霧散した。

 そして鎖を伸ばし、もう一人のフードの魔術師の足を掴むと、目一杯の力で引っ張る。


「せいっ!」


 こちらもすれ違うタイミングで剣を振り、身体を一刀両断にした。

 血を吐き出すことなく、光の粒となって空気に溶けていく。

 完全に消滅するのを見届けた後、頭の中でマキナに話し掛けた。


『こっちは片付いた』


 もし苦戦しているようだったら加勢することも考えてはいる。


『そうかい。ボクも終わったよ』


 だが、その心配はいらなかったようだ。



『流石に多勢で来られたら厳しかったが、一人を相手にする分には大したことなかったよ』

『マスター、それはわたしが攻撃パターンを分析して補助したお陰、というのが正しいのではないでしょうか?』

『ボクの手柄はボクのもの、君の手柄もボクのもの、だよ』

『なんて傲慢な・・・・・・』


 なんか主従同士でコントをし始めたぞ。

 話が逸れる前に軌道修正した方がいいな。


『とにかく、合流して移動するぞ。先輩やユイたちのことも気になるし。他に逃げ遅れた人もいるかもしれねぇからな』

『ボクの情報網が信用できないと?』

『念には念をだ』



 その後マキナと合流し、ユメたちは無事に避難できたことを聞かされると、まずはユイたちと合流することにした。

 因みに本人たちにもそのことは伝えている。

 敵の目的が不明瞭な点が多いため、今後の対策はしておきたい。



 悲鳴も呻き声も聞こえない真っ暗な世界が広がる。

 視界には生い茂った木々が風に揺れて、木の葉を擦り合わせる。

 これが本来の明日飛島の山中なのだが、なんとも不気味に感じてしまう。

 強い恐怖は感じないものの、何か得体のしれないものが隠れているのではないかと錯覚してしまうのだ。

 まるであの日の夜のように____。



 警戒のため辺りを見回していると、気配を感じた。

 音は聞こえないが、木の陰に誰かいる。

 立ち止まり、注視する。

 雲が晴れ、隠れていた月が顔を出す。

 月光に照らされ、顔が見えるようになる。


「どうかしたかい?」


 背後にいるマキナから話し掛けられ、視線を逸してしまう。

 再び木の方を見た時には、姿はなくなっていた。

 気配もない。

 駆け寄って見るが、やはり誰もいなかった。


「誰かいたのかい?」

「・・・・・・いや、何でもない」


 気のせい、と断言するつもりはないが、ユイとの合流の方が最優先だと判断し、先を急ぐことにした。

 なぜ、タイヨウがいたのか疑問を感じて。

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