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第百二十六話 木霊する悲鳴

 真夜中の山中。

 何処からともなく響く誰かの悲鳴。

 恐怖で泣き叫ぶ彼らに差し伸べる者は誰もいない。

 なぜなら____。



「うわああああっ!!!!」


 突如目の前に異形の怪物が現れる。

 だが、俺は反応しなかった。

 少し驚きはしたが、恐怖といった感情がまるで湧かない。

 隣りにいるマキナも無表情である。


「う、うわああああああっ!!!!!」


 怪物は先程よりも大きな声を発する。

 だが、怖いとは思えない。


「う、うあ・・・・・・」


 困惑しているようで、今度は声が小さい。

 なんだか見ているこっちがいたたまれなくなってくる。


「ワ、ワーコワイヨーダレカタスケテー」


 唐突にマキナが声を発した。

 表情は一切変えず、台詞も棒読みである。


「これでいいかい?」

「その一言で全部台無しだな」


 俺は怪物の方に視線を向けると、物凄くしょんぼりしているのが見て分かる。

 流石に悪い気がしてきた。


「その・・・・・・頑張ってください」

「多分それトドメだと思うよ」


 マキナの指摘通り、怪物?は啜り泣いてしまう。

 これ以上下手なことを言うと逆効果になると思ったので、先へ進むことにした。



 道中、彼が業界に入って一年目の新人であることを聞かされた。

 今のがトラウマになっていなければいいが、多分大丈夫だと思う。

 俺たちより先に山に入った組は絶叫していたからだ。


「いいぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」


 今もこうして聞こえる。

 正直、耳を劈く程だから凄く煩い。

 しかもそれが俺たちの知り合いである、エリなのだ。


「あいつ、ビビり過ぎだろ」

「まさか彼女がお化け嫌いだとはね」


 先の方にいるビビリに対して呆れながら苦笑する。


「それにしても不思議だ。そんなに苦手なら宿泊先を変える序に肝試しをスケジュールから外してしまえば良かったのに」

「個人的な都合を介入させたくなかったんじゃねぇのか?」

「だとしても、わざわざお化け屋敷のスタッフを呼ぶなんて、まるで意味が分からないよ」

「やるなら全力でやりたいとかそういうのじゃねぇのか?」

「その結果、自分が一番怖がる羽目になったとしても?」

「なんつぅか、タフなのかビビリなのか分かんねぇな」


 本人が居ないことをいいことに、言いたい放題言ってやった。



 またお化けが出てきたのをスルーすると、再び絶叫が響く。


「・・・・・・これ今襲撃されても分かんなくね?」


 聞こえるのはエリの悲鳴だけではない。

 後方からもエリ程ではないが、悲鳴が聞こえている。

 万が一フードの魔術師或いは魔物に襲われても、判別がし難い。


「問題ないさ。一応、ここ一帯には定点カメラを設置している。もし万が一不審な行動をしている人物が現れれば、即ボクの端末に知らせが来るよ」


 そう言ってスマホをちらつかせるマキナは、得意げな表情を浮かべている。

 隙がないと言わんばかりに。



「でもあいつ、人に化けたり分身したりするだろ?その対策はどうなんだ?」

「抜かりはないよ。目に映るものが全てではないからね。奴が持っているアフロディテの能力も()()()()()分析済みさ」

「可能な限り?」

「未知な点が多いんだよ、特にアフロディテは。協会からの情報も概要程度で詳細な能力は不明のまま。有力なのは君たちが戦った時に見た能力だけだね。あとは推測の域に過ぎないよ」

「それはアフロディテに限った話じゃねぇだろ?」

「確かに」


 魔道具は、いわば未知の産物。

 遺跡から発掘されたものや古来人によって想造されたものがそれに該当する。

 名前も発覚した能力に因んだ神話の神や偉人から採用し便宜上そう呼んでおり、魔装する際もその名前が起動の呪文となっている。

 魔術協会も魔道具の調査及び管理を行っている。

 そして共通して分かっていることは、魔道具を用いれば誰でも何かしらの魔術を使うことが出来ることだ。

 そこが一番厄介な点でもある。


「あいつ、まだ隠し玉みたいなの持ってたりしねぇよな」

「分からない。でも想定外の事態は必ず起こると考えた方がいいだろうね」


 警戒するに越したことはない。

 結局、常にアンテナを張っておく必要はある訳だ。



「まあどうあれ、その時が来れば早急に対応しなければならないのは変わりない」


 そう言って、マキナは端末を寄越してきた。


「書類上不審な点はなかったが、ここ数日怪しい行動を取っていた人物をリスト化したよ」


 俺は端末を受け取り、画面に映る数人の生徒の顔を見ていった。


「・・・・・・」

「その顔、どうやら君が予想していた人物がいたんだね」

「・・・・・・ああ、一人だけな」


 ある人物の顔を見たところで、端末を返した。


「エリには伝えたのか?」

「いいや、でももう誤魔化すことは不可能だね」

「・・・・・・そうか」


 現状を把握すると、俺は息を吐き、内なる迷いを払拭するために口を開く。


「そろそろ、動いた方が良さそうだな」


 そして、次の言葉を発そうとした瞬間だった。



 ドォーーーンッ


 爆発音が轟く。

 身体は反応するが、一旦冷静になりマキナに問う。


「花火か爆発系の仕掛けとかあるのか?」


 出来れば、そうであって欲しい。


「ないね」


 ものの一、二秒程度で願いは潰える。


「そうか・・・・・・・・・・行くぞ」


 俺たちは爆発がした方向に向かった。

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