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第百二十五話 カレーと焼きそば

 海での自由時間が終わると、次は野外炊飯の時間だ。

 といっても、先程まで料理を作ったり運んだりして疲れているのにご飯を作る気になれないのが、本心である。

 他の班からお裾分けしてもらうこともできるが、生憎野外炊飯のレポートも書かないといけないため作るしかなかった。

 幸い自分たちの班が作るものは焼きそばではなく、夏野菜カレーなのが救いである。

 ユイたちは事前に分担した役割をこなし、途中些細なアクシデントはあったが、なんとかカレーを完成させることに成功した。

 その味はというと____。



「「「おいっっっしい〜〜〜!!!」」」


 文句なしのものだった。


「いやホント美味いな、これ」


 同調するタイヨウに、頷くヨミ。


「そうだな」


 ミツキもカレーを口に運んでほくそ笑む。



 なす、ズッキーニ、赤パプリカ、かぼちゃの種類豊富な野菜が沢山入っており、隠し味にトマトを入れた酸味のある仕上がりだ。

 当初は普通のカレーを作る手筈だったが、普通のより手が凝ったやつを作りたいという要望から、夏野菜カレーになった。



 因みにカレールウは市販のものではなく、ミツキが一から作ったお手制だ。

 頼まれた訳でもなく自主的にやっており、野外炊飯で一番乗り気だった理由が分かる。

 そういえば、ミツキの作る料理って結構手の込んだものばかりだった。

 因みにこのことを知っているのは、自分を含むユカリとツバサの時島家一同だけである。



「それにしても、このカレーの部分とか特に美味しいよな?スパイシーだけどそんなに辛くなくて、食べやすいっていうか」


 タイヨウの発言に、一同は「そうだね」と頷く。


「でもなんかうちのカレーと似てるようだけど違う不思議な感じ。美味しいには美味しいけど」

「口に合うっていうか合いすぎるっていうか、確かルウはミツキ君が持ってきたんだよね?このルウってどうしたの?」


 今度はカオルとマルコが聞いてくる。


「前に家でどんなカレー食ってるか、作り方とか具材とか、あとルウとか聞いただろ?」

「ああ、あったね」

「そういえば」

「なんか唐突に聞いてきた、あれな」


 カオルとマルコ、タイヨウが相槌を打ち、ヨミもそれに頷く。


 あれそれ、わたし知らない。


 ユイが内心そう思っているのを他所に、ミツキは話を進める。


「味付けとか家によって違うし、一人だけ微妙ってなるのも可哀想かなって思ってよ。だから、色々調べて作った」


 あ、普通に言っちゃうんだ。

 てっきり目立ちたくないから言わないと思ってた。


「え、作った!?ルウを?わざわざ?」


 タイヨウが驚きのあまり目をパチクリさせている。

 まあ、当然の反応だろう。


「結構大変だったし、お陰で全然眠れてねぇわ」


 苦笑気味に答えるミツキだが、ユイはここ数日のことを思い出して呆れて息を吐いた。



 数日前、学校から帰る度に香辛料をたくさん買ってくることに不信感を覚えていた。

 そして、毎晩台所で何か物音がするのを聞こえたり、彼の部屋からも同様の音が壁越しに漏れていた。

 最初は魔術的な何かかと思い、漫画やアニメで儀式をする際に用いている場面を見たことがあるため、ミツキもそうなのだろうと深くは追求しなかった。

 だが、ふと実際彼一人で魔術の特訓をしているところをあまり見たことないと思い立ち、興味本位で夜中その様子を見てみることにした。

 だが、やっていることはカレーのスパイス作りだった。

 「何やってんの?」と聞いて「カレーのルウ作ってる」と答えた時には、期待を裏切られたこともあり呆れを隠しきれなかった。

 しかも徹夜で睡眠時間まで削ってやっていたものだから、「バカなの?」と思わず言ってしまう程に。

 止めようとしたが、その時には九割くらい完成していたらしく、翌日以降は夜更かしすることはなくなった。

 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 それよりも今この場にいるメンバーの中で自分だけが知らない事実がある方が問題である。



「なんつーか、凄ぇけどバカだな」

「文句あるなら食うな」

「美味しいのでしっかり味を堪能させていただきます」

「〜〜〜っ」

「あ、どした?」


 ミツキが眉間にしわ寄せて聞いてきた。


「べっっっつに〜〜〜」


 なんだか面白くなくてそっぽを向いた。

 まだ視線を感じる。

 こっちを見てる。


「ちょっといいか?」


 突然促され、皆と離れた場所に移動させられた。

 「何?」と聞こうとする前に、ミツキが顔を近付けて話し掛ける。


「お前もしかしなくても、俺が皆に聞いたことをお前に聞かなかったことに拗ねてんのか?」


 言われて、ユイの顔が真っ赤になる。


「拗ねてるとか言わないで!こっちが恥ずかしくなる」


 小声で怒鳴ると、ミツキは「ごめんごめん」と答える。


「でもさ、別にわざわざ聞かなくても知ってるから必要ねぇと思ってよ」

「ん?」

「いやだってほら、うちのカレー作ってんの俺だし」

「・・・・・・」

「その・・・・・・」

「これ以上何も言わないで」


 なんだか色々恥ずかしいわで、誰にも顔を見られたくなかった。



「どしたの?」


 戻ってくるなり、カオルに声を掛けられた。


「・・・・・・聞かないでください」


 手で顔を隠しているが、恐らく訝しむような視線を向けているのだろう。

 一瞬声が聞こえなくなる。


「ああ、そういうこと」

「成程ね〜」

「はいはいはい」


 カオルとマルコ、タイヨウが何かを察したような声が聞こえる。

 隣りにいるミツキからは狼狽えるような声が漏れていた。

 嫌な予感がする。


「これが噂に聞くミツユイですか」

「「違う」」


 最後のヨミの発言に思わず声を上げてしまった。



 というかミツユイって何?

 噂になってんの?


 本当に大した話ではないのに、あらぬ誤解が生まれている。

 これは早く弁明した方がいいだろう。

 羞恥心は残っているが、なんとか手をずらして声を振り絞る。


「・・・・・・ったから」


 あと一息だ。


「カレーが辛かっただけだから!」


 言った直後に苦しい言い訳だったと実感したのは、言うまでもない。


   ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「アー、コノヤキソバチョーウマイナー」


 マキナは焼きそばを頬張りながらそう呟いた。

 だが、本気でそう思っている訳ではない。

 寧ろ吐き気すら感じている。

 現在、食べている焼きそばは三つ目。

 未開封のものが一つ残っている。

 だが、もう既に胃の蓄積上限は満帆で、今にも限界突破しそうだった。



 海での休憩時間で魔が差した行動に対する罰で、売れ残った焼きそばを食べている。

 十にも満たない数に、これなら自分たちも食べろよ、と思ったが、彼らから怒りの眼差しを向けられたので、店員と教諭にそれぞれ三つずつ、残り四つをマキナが食べることになった。

 美味しいし数もたかが知れていると思ったが、二つ目を食べている途中で苦しくなった。

 今では美味しいとは感じなくなっている。



「当分焼きそばは食べなくていいな」


 なんとか三つ目を完食し、いよいよラスト四つ目に手を掛けようとしたところで、スマホの着信音がなった。

 箸を置き、画面を操作してメッセージを開く。


『調査結果を報告してください。結果次第で作戦を実行します。』


 エリからのものだった。

 内容を見て、マキナは深い溜息を吐く。

 なぜなら同じ内容のメッセージが三十分前にも来ていたからだ。

 最初は一時間毎に送られてきたのだが、このままだと一分毎になりそうである。

 流石にもう誤魔化しきれないようだ。

 恐らく、もうとっくに結果が出ていることに気付いているのだろう。

 だが、伝える前に答え合わせがしたい。


「全く、どうしたものかね」


 マキナは次の行動を考えた結果、まず手元にある焼きそばを完食させることにした。

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