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第百二十三話 白熱・エンジョイビーチ

 ミツキから突然上着を着せられた。

 正直、発言を含めて意味が分からない。

 それでも彼の善意?を無下にする訳にもいかず、取り敢えず羽織っておくことにし、ファスナーを上げた。

 そして、手元から落としてしまったビーチボールを拾おうと辺りを探す。

 だがボールは砂浜には転がっておらず、カオルがそれを両手で掲げているのが視界に入る。


「それじゃ、人数も集まったことだしバレーでもしようか」


 そう呼び掛けられたので、賛成の返事をした。



「それじゃあまずはチーム分けだけど、ひーふーみー・・・・・・六人いるから三人に分かれようか」


 カオルの発言からして、これから対戦をするようだ。


「普通にラリーみたいにパスするやつじゃダメなのか?」


 と、ミツキが問う。

 彼の上着を着ているため、今上半身の肌が露になっている。

 細身であるが、体格は結構しっかりしており、腹筋も薄っすらと割れている。

 魔物との戦闘に向けて日々身体を鍛えているのだろう。

 その割には目立った傷痕のようなものは一切見受けられず、綺麗な肌色だ。

 中性的な顔立ちから毎回忘れがちになるが、やはり彼も男であると再認識してしまう。



「ユイ?」


 不意に声を掛けられ反応すると、ミツキが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。


「どうした?」


 心配するようなトーンで再び声を掛ける。


「あ、ううん何でもないよ。それよりチーム分けするんでしょ?早く決めちゃお」

「いやそれ今決まった」


 ミツキの言葉に思わずキョトンとしてしまうユイ。

 その様子を見て、「大丈夫か?」と聞いてきた。


「・・・・・・ああ、そうなんだ。ごめん聞いてなかった。えっと・・・・・・どんな風に分かれたの?」


 聞き返すと、ミツキは呆れたように溜息をつく。


「俺、カオル、ヨミのチームと、お前、マルコ、タイヨウのチームだ」


 そして、無愛想ながらも親切に教えてくれた。


「あんまり無理すんなよ。熱中症とかで倒れても困るし、なんなら木陰とかで休んだら」

「ああ違うの、そういうのじゃ。体調は全然大丈夫だし」

「・・・・・・そうか?ならいいけど」


 あまり納得していないようだったが、それでも大丈夫という言葉を一応信じてくれたようで、その後皆でコートの準備を始めた。



 その途中で近付てきたマルコに声を掛けられた。


「ミツキ君の腹筋に見惚れてた?」


 ニヤニヤした表情といつもと違う丸眼鏡のレンズが顔の真横に迫る。


「別に見惚れてない」


 手で押し退けて否定する。

 だがあまり自信が持てず、


「どんな風に見てたの?」


 と、聞いてしまう。


「結構エロい目で見てた」

「・・・・・・本当?」

「まあ、結構ガン見してたよ」

「・・・・・・」


 事実を知って顔が熱くなり、思わず両手で顔を隠す。

 それはそれで恥ずい。


「・・・・・・これ、返そうかな」


 今自分が着ている上着を見て、そう呟いた。



 それから三対三のビーチバレー対決を行った。

 コートは貸出が可能で、スタッフ?の人たちが設置してくれた。


「点数は都度書いていけばいいか」


 カオルが近くに落ちていた木の枝を持ち、砂浜をつつく。

 すると。


「その役割、ボクたちに任せてくれないかい?」


 こちらに近付いてくる二人の内、小柄な少女が話し掛けてきた。


「マキナ、とコハナちゃん」


 それは別のクラスの友人二人だった。


「いいのか?」


 ミツキが問う。


「うん、丁度わたしたちも暇してたから。身体動かすのそんなに得意じゃないし、やることがなかったから丁度いいかなって」


 そう言ってコハナはニコリと微笑んだ。

 よく見ると、レジャーシートやパラソル、そして一冊の本を持っている。

 マキナに至っては、ノートPCやタブレット端末を両手に持ち、水辺で遊ぶ気はさらさらないと意思表示をしているように見える。

 カオルは突然の二人の登場に少し驚いていた様子を見せたが、皆の顔を見る。

 そして、こちらにも視線が向いた。

 いいよね?と聞いているように見える。

 断る理由はないから、頷いておくことにした。

 すると、カオルも笑みを浮かべ、二人に提案を了承する。


「じゃあ、お願いしようかな」


 こうして審判役二人を確保した。



「ボクが審判、コハナが得点を付けるってことでいいかい?」

「いいよ、それで」


 コハナが了承すると、「それなら」と言ってマキナはタブレット端末を操作し始めた。

 しばらくして、モーターの駆動音を鳴らしながら一機のドローンが飛んできて、頭上を旋回する。


「公正且つ公平なジャッジをこのカメラで・・・・・・」

「「「「「「「そこまでしなくていい」」」」」」」


 その場にいる全員が冷静なツッコミを入れた。



「ほっ」

「・・・・・・」

「そりゃっ!」


 ミツキ、ヨミへとパスし、カオルがジャンプをしてスパイクを決める。


「マルコ!」


 声を上げる。


「とりゃあっ」


 ギリギリのところでマルコがそれを防ぐ。

 打ち上げられたボールが宙を舞う。


「あらよっと」


 タイヨウがトスをし、こちらにボールが弧を描いて向かってくる。

 ユイは短い助走をつけ、勢いよく跳び上がる。


「はあっ!」


 右手を振り下ろし、相手コートに向けてスパイクを打つ。

 だが、狙いが甘かったようでミツキによって阻まれてしまう。


「っ!」


 ユイは着地すると、背後に目で合図を送り、すぐに迎え打つ態勢を取った。

 ヨミがトスしたボールの加速が一瞬止まり、カオルがすかさず右手でそれを撃ち抜く。

 頭上を通過したボールは、その軌道をコートの端に向ける。

 ヤバい。

 そう直感する前に、マルコが身体を張ってブロックした。


 流石テニス部、凄い反射神経!


 なんて言う余裕はなく、タイヨウがトスしたボールを見据えた。

 助走して跳んだ瞬間、ほんの一瞬の間に目で狙いを定めた。


 ここっ!


 腕を振り下ろし、ボールを勢いよく打ち抜いた。

 回転が加わったボールは空中で真横に弧を描き、コートの端に向かっていく。

 カオルとヨミは軌道を読めなかったようで、ボールに触れることができずに砂浜に盛大にダイブする。


 もらった!


 心で呟き、勝利を確信する。


「っ!」


 そして、すぐにその感情は霧散した。

 ミツキだ。

 砂浜を滑るように現れ、必殺スパイクをレシーブで受け止めたのだ。

 ドンピシャのタイミングで、洗礼されたフォーム。

 まるで、コートの端を狙っていたことを予測していたような____いや、ミツキのことだから全て読んでいたのだろう。

 この短時間で行動パターンを把握して。



 バレーを始めてから時間はそれなりに経過している。

 最初は自分たちのチームが優勢だったが、ミツキの動きが変わるのを皮切りに、少しずつ押され始めた。

 現在九対九と拮抗しており、先に十点を取ったチームが勝ちとなる状況だ。

 一応、負けたチームは勝ったチームにジュースを奢るというペナルティがあるが、今誰もそのことを意識していないだろう。

 ミツキが受け止めたボールが空に打ち上げられ、この場にいる全員の意識が一つに集まる。



 一瞬空中で静止するとそのまま重力に引かれ落ちていく。

 ミツキはルール上ボールには触れることはできず、カオルやヨミも伏したまま動く気配がない。

 このまま砂浜に落ちれば自分たちの勝ちだ。

 ボールの落下に連れて、勝利の確信が再燃し始める。



 だが、突如ボール真下に現れた存在によってあっさり消えてしまう。

 ほんのコンマ数秒前、砂浜に倒れ伏していたヨミが目前にいるのだ。

 自分が見ている光景に目を疑ってしまい、元々彼女がいた場所に視線を向けようとするが、彼女の目がボールを捉えていたため堪える。

 鋭い眼光は獲物を狙う獣のように威圧的であり、振り上げられた手が凶器にすら見える。

 思わず身震いしそうになるが、踏ん張って迎え打とうと飛び上がる。

 そして、振り下ろされた手はボールを捉え、そのままユイの脇を通過した。

 着地し、状況把握しようと振り返る。



 呆然と立ち尽くすカオルとタイヨウ。

 砂浜で転がる空気入りのボール。

 その近くで小さなクレーターのような穴があった。

 状況を認識したところで、電子的なホイッスル音が鳴り響く。


「10−9、ゲームセット。勝者カオルチーム」


 審判役であるマキナが自分たち、マルコチームが敗北した事実を淡々と述べる。

 だが、それで悔しがる程体力も気力も残っていなかった。



 長い時間集中力を使う状態が続いていたため、疲労感が凄まじい。

 全身が鉛のように重くて、動かそうとすると震える。

 周りも同じような状態で、マルコもタイヨウも向こうのコートにいるカオルも座り込んでいた。

 ミツキはというと、座ってはいるが周り程表情から疲労感を感じ取れない。

 まだ少し余裕があるようにすら見える。

 それはコートの隅にいつの間にか移動したヨミも同じだ。

 それどころかミツキよりも疲れていないようにも見える。

 以前アスレチックで勝負をした時も、自分だけ疲れてヨミはピンピンしていた。


 なんだか負けた気がする、いや実際負けたけど。


 またしても負けてしまったことに悔しさが込み上げてくる。

 すると、座っていたヨミが立ち上がり近付いてきて、こう囁いてきた。


「あとで泳ぎ方を教えてください」


 煽られた気分で正直ムカついた。

 しかし、彼女の表情から悪意を感じなかったので、なんとか笑顔で返した。



「君らも大概ガチじゃないか」


 マキナがそう呟いていたらしいが、コハナ以外誰も耳に入らなかった。

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