第百十七話 新たな波乱
投稿が遅れてしまい申し訳ございません(-_-;)
今回から第六章スタートです!
「二週間後に予定していた林間学校だが、行き先が変わって明日飛島にある施設で課外活動を行うことになった」
朝のホームルームで、担任が発した言葉だ。
覇気のない声にしては突然過ぎる内容に、クラス中がざわざわと困惑の色を浮かべた。
「ちょ、ちょっと待ってください先生。どうして急に場所が変わったんですか?」
クラスの委員長が立ち上がり異を唱える。
担任は面倒臭そうに頭を掻きながら答える。
「今朝職員会議で急に決まったんだ。詳しいことは俺も知らん。気になるなら理事長か校長にでも聞け」
担任の返答に納得していない様子の委員長。
だが、それ以上詮索することはなく大人しく席に着いた。
「まあ場所は変わるといっても、お前らがやる課外活動の内容が大きく変わる訳じゃない。ただ、一泊増えてその分自由時間も増えただけ、役得だろ?」
言い方が少しイラっと来るものを感じるが、予定に変更がないということはこれから二週間後に備えてバタバタ話し合わずに済むということになる。
それでも、場所が変わったから移動に関する予定は大きく変更されることは間違いないが。
なぜなら、本来の目的地は都内から離れた山奥の施設だったのに対し、明日飛島はその名の通り島だからだ。
「とにかく、詳しいことは午後の授業の時に話すからな」
担任は一通りの連絡を済ますと、さっさと教室から出ていった。
教室は未だに騒然としている。
好意的な意見や否定的な意見が飛び交い、若干混沌と化している。
もちろん、それは俺の友達も例外ではなかった。
近くまで集まると、各々話し出す。
「急過ぎない?山から島になっちゃったんだけど」
と、最初に声を発するカオル。
「ていうかさ、林間学校というか最早臨海学校じゃん」
困惑に染まった目で、円い眼鏡のレンズ越しに二人を一瞥しながら答えるマルコ。
「でも明日飛島ってリゾート施設でもあるんでしょ?海も綺麗だし、ここで遊べるとかラッキーじゃない」
スマホの画面を見せながら、前向きな意見を述べるユイ。
二人は画面を覗き込むと、「おー」と感嘆の声を漏らして、
「「確かに」」
と、賛同した。
周りに耳を傾ければ同じような話をしている。
午後になる頃には、行き先変更も皆受け入れているかもしれない。
「ミツキはどう思う?」
振り返ったユイが話し掛けてきた。
僅かに靡いた白銀の長髪が綺麗で少し見惚れてしまう。
「どうしたの?」
首を傾げて聞いてきたが、俺は首を振った。
「いや、何でもない」
流石に正直に言うのは恥ずかしいので、すぐに質問の答えを返すことにした。
「別に行き先の変更に対してはそこまで懐疑的な意見は持ってないな」
俺もユイたちと同じ意見だ。
行き先が変更になっても、変更前よりも良い場所なら何も文句はないと思う。
ただ、前日とか二日、三日前とかだと話は別だが。
「まあ現実的な話、安全対策はちゃんとしてほしいっていうのはあるかな。場所も変わって本来の方法が通用しない可能性だってあるし、そこは徹底してほしいな」
俺がそう言うと、暫し間をおいて、三人が「あ」と声を漏らす。
「そうか、そうだよね。水辺の事故って怖いもんね」
ユイが狼狽えながら声を上げる。
「いやまあそうだけど、今その話はしてほしくなかった」
カオルの顔面は青くなっており、同じく蒼白となったマルコもうんうんと頷く。
「気を付ければいいんだよ、気を付ければ。ちゃんと監視の人とかもいるだろうからその人たちの指示に従っていれば基本は安全だから」
俺がフォローすると、二人は口々に呟いた。
「でもミツキ君は言いつけとか守らなそうじゃん」
「俺は誰の指図も受けないとか言って、遠くまで泳いでいきそう」
「俺お前らにどう思われてんの・・・・・・?」
なんてやり取りをしていると、ユイが一人の少女の手を引いて連れて来た。
「折角だから、ヨミちゃんの意見も聞こうかなって思って」
ユイはにこやかな表情で視線をヨミに送るが、彼女はあまり乗り気ではない様子だった。
しかし、話に参加する選択肢しかないことを悟ったのか、深い溜息をついて話し出した。
「わたしはあまり好ましいとは思ってないです。場所が変わると必要な物も変わってきますし、何より予定の再調整が必要になってくるじゃないですか」
答えとしては否定的意見だった。
まあ、そういう意見もあるよな。
課外活動の活動内容に変更はあまりないとか言っていたが、場所が変わる以上その時必要となる物品も変わってくる。
幸いにも当日まで二週間あるから、間にある土日で物を揃えれば問題はない。
ただ、行き先変更の関係で一泊増えることになったことについてだ。
担任曰く、ポジティブに考えれば自由時間が増えたことは喜ばしいことなのだが、その延びた一日に予定を入れている場合、キャンセルせざるを得なくなる。
その日に大事な日が控えている人なら尚更だ。
まあ、行き先変更前の時点で、林間学校の翌日に予定を入れるとか無茶なことをする人は早々いないとは思うが、ヨミは何か予定を入れていたのだろうか?
「ヨミちゃんは海で泳ぐの嫌いなの?」
「いえ、そもそも水辺で泳いだ経験が少ないので滅茶苦茶楽しみです」
あれ?あまり快く思ってないと思っていたがそうでもなかったか?
というか初めて出会った時と比べて、印象が少し違うような気がする。
その初めて出会った時というのも、カラオケで飛び入り参加して演歌を歌って帰るという印象しか残っていないが。
多分数日前にユイと遊びに行った時に何かあったのだろう。
現にユイに対して僅かに好意的な視線を向けているように見える。
「泳いだ経験が少ないって、中学とかで水泳の授業とかなかったのか?」
徐に問い掛けると、ヨミは途端に氷のように冷たい目になり、こちらを向いた。
瞳の奥から敵意のようなものすら感じる。
「そうですね、ありませんでした」
淡々としていて、口調も冷め切っている。
それから視線を戻して、三人の話に参加した。
俺に背を向ける姿から、心なしから輪の中から追い出したようにすら感じる。
どうやら俺は嫌われているようだ。
仕方ないとばかりに溜息をつき、他の人たちの会話の様子を眺めようとした時、とある三人組に目が留まった。
金髪ツインテールの少女と三つ編み御団子ヘアの少女、そしてゆるめにパーマがかかった栗色ツインテールの少女。
何の話をしているのか聞き取れないが、周りが臨海学校の話をしているから恐らくその話をしているのだろう。
ホントよくあんな知らぬ存ぜぬみたいな振る舞いができるな。
俺は栗色ツインテールの少女、早乙女エリに見ながらそう思った。
そして、先日彼女と話したことについて思い返した。