幕間2−1 叫びたい思い
幕間2です。
幕間1は少しコミカルに書こうと思いましたが、少ししんみりする話ばかりだったので、今回はコミカルに全振りしました!
「打ち上げ行くぞ〜!」
「イェーイ!」
図書室から出たカオルとマルコの一声だ。
「え、お、おう」
突然のハイテンションなノリに着いていけない俺。
というのも、先程まで暑さのせいかテスト終わりで燃え尽きてるのか、とにかく駄弁っていた。
珍しく大人しかったため、この変わりようは動揺を覚えてしまう。
「それで、どこで打ち上げするんだ?」
喫茶店かファミレスかと聞いたが、カオルが「チッチッ」と指を立てて否定した。
「それも悪くないけど、いろいろと溜まってるからさ、滅茶苦茶はっちゃけたいのよ」
もう既にはっちゃけてると思うが、ここは何も言わず話を聞くことにした。
「なので今日はカラオケに行こうと思いま〜す!」
カオルの宣言に、マルコが「イェーイ!」と同調する。
「カラオケ!」
そして、今まで暑さでぼーっとしていたユイも歓喜の声を上げた。
「ユイ殿もノリノリじゃの〜」
「うん、わたしも歌歌いたい!友達誘ってもいい?」
「いいぞいいぞ。どんどん呼んじゃえ!」
飛び跳ねて、後ろに束ねられた髪が犬のしっぽのように動く。
暑さのせいか将又素なのか、若干言動が幼児退行しているような気がする。
「ミツキ君は行かないの?」
マルコが首を傾げながら問う。
「行く」
もちろん断る理由が一つもないし、寧ろ行きたいから即答だ。
「落ち着いてるように見えるけど結構乗り気なんだね、ミツキ君」
「いやお前らがはしゃぎ過ぎてるだけだろ」
苦笑しながら答える。
それにしても、この二人から名前呼びされるのがまだ慣れない。
本人たち曰く、「一緒に修羅場を乗り越えた者同士は、『友達』を超えて『心の友』」らしい。
修羅場だったの、ユイ含めた三人だけな気がするが、まあ親密になれたことは悪いことではないので受け入れてはいる。
「それじゃ、ミツキくんの奢りで三時間歌いまくるぞ〜!」
「「おーっ!」」
「いやふざけん・・・・・・いいぞ」
了承すると、三人は目を丸くした。
「何で?」と聞きたそうな目をしている。
「まあ、三人とも頑張ってたし、なんかアイスでも奢ろうかなって考えてはいたんだけど・・・・・・」
まあアイスとカラオケだと、カラオケの方が高くつくが、ケチるのはやめよう。
だが____。
「あ・・・・・・と、いや結構冗談で言ったんだけどなぁ」
「うん。てか、それなら寧ろわたしらの方がお礼をするべきだしなぁ」
「英語の赤点回避できたの、ミツキのお陰だし・・・・・・」
あれ?なんか反応が凄い微妙・・・・・・。
「と、とにかく予約とかしてるから、行くぞー!」
「「お、おーっ!」」
こうして俺たちは期末試験の打ち上げとして、カラオケに行くことになった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ユイは何を歌うんだ?」
カラオケ店に着いてすぐ、各々ドリンクバーでジュースを取って個室に入った。
カオルとマルコは冷房を付けると、図書室の時と同じように涼み出した。
そして俺も一息つくため、グラスに注がれたコーラをストローで啜る。
だが、ユイは隣に座るなり、端末を持って曲を選び始めていた。
どうやら一番楽しみにしていたのはユイのようだ。
何気に聞いた質問にユイはにこやかに答える。
「まじょピュア」
発せられた単語に脳の処理が一瞬遅れた。
『まじょピュア』というのは、日曜の朝に放送している女児向けアニメのことだ。
ユイは毎週早起きしては、リアルタイムで観ていて、小さい頃からの習慣になっているらしい。
目の輝きようからどれだけハマっているか素人目でも分かる。
今も目どころか表情すら輝いていた。
「うーん、悩むな〜。いっそのこと全部歌おうかな」
「全部だと何曲になるんだ?」
「一作に一曲だから四十曲」
「仮に歌いきっても、喉は死ぬな」
「だね」
そんなやり取りをしている間に、一人がマイクを取った。
「よし、じゃあトップバッターはわたしがいきま〜す!」
どうやらカオルがいつの間にか曲を入れたらしい。
モニターの前に立つなり、ノリノリで歌い始めた。
曲は声優アイドルユニットが歌うアニメの劇中歌らしい。
軽快なリズムで歌っている本人は、完全にアイドルになりきっている。
「ありがと〜!」
「それじゃ次わたしね」
今度はマルコがマイクを取る。
少年漫画のアニメのオープニングで、俺自身も聞き馴染みのある曲だ。
割りと知らない人はいないと思う。
特にCメロ辺りは俺のお気に入りでもある。
「ウェ〜イ!ありがと〜!」
ノリノリで全力で歌ったためか、眼鏡が少し曇っていた。
「次誰歌う?」
そう言って、俺とユイの方にマイクを差し出してきた。
隣を見ると、ユイはまだ曲を選んでいる最中らしい。
「しょうがねぇな」
俺は手早く曲を選び、マイクを受け取った。
スピーカーからはロック調のイントロが流れ始める。
「あ、この曲知ってる」
「たしか、『翼neco』の曲だ」
歌っている時、カオルとマルコが口々に呟くのが聞こえた。
『翼neco』というのは、数ヶ月前まで動画配信サイトで楽曲を投稿していたアーティストの名前だ。
激しいギターのメロディーに反して、透き通るようなクールな歌声の虜になる人は多く、ネットやニュースで取り上げられる程一躍ブームを巻き起こしていた。
かくいう俺もファンである。
今は投稿が途絶えており、また歌声を聴きたいという人(俺含む)は多い。
そして、今歌っている曲は人気曲である『fly to my days』だ。
大サビを歌いきり、曲が終わるとフーと息を吐いた。
やりきった達成感が胸の内に昂ぶる。
すると、周りが拍手をしだす。
結構いい気分だ。
一息付こうとソファに座ると、ユイが顔を上げてこちらを見ていた。
「ミツキって、やっぱり高い声とか出せるんだね。中性的だと思ってたけど」
「そりゃどうも」
グラスを持ち、コーラで乾いた喉を潤す。
「お前もう曲決めたのか?」
「うん、七作目の主題歌にしたよ」
「そうか」と相槌を打つが、全然ピンとこない。
ユイはマイクを取り、前に立つと元気な声で歌い始めた。
途中モニターのアニメーションに釘付けになって、歌うことを忘れてしまっていたが。
どんだけ好きなんだよ、まじょピュア。
そんなこんなで順番に歌っていき、あっという間に残り十分くらいになった。
「最後の曲歌ってもいいよ」
「どうぞどうぞ〜」
カオルとマルコはラストの曲を譲ってきた。
「え・・・・・・、俺も満足に歌ったしいいかな」
そう言って、隣に視線を向ける。
今ユイはお手洗いに行っている。
戻ってきたら譲ろう、そう思い残ったコーラを飲み干した。
すると、ガチャッと扉が開く音がした。
どうやら戻ってきたようだ。
「なぁ、ユイ。最後はお前が」
言い掛けて言葉が止まる。
ユイともう一人見知らぬ少女が入ってきたからだ。
「え、誰?」
カオルとマルコも事情を知らないようで、困惑の顔色を浮かべている。
「あれ?やっぱり忘れてる。友達誘うって言ったじゃん」
「え?そうだっけ?」
カオルのキョトンとした反応に、ユイは溜息を付きながら呆れる。
「いやでも、何で終わるタイミングで?」
「それがずっと連絡してたんだけど全然来る気配がなくて、そしたらさっきばったり会って・・・・・・」
そう説明されて、俺はその友達とやらの方を見た。
髪は肩まで長く、漆のように黒い。
そして、前髪が目元まで隠れているため表情は読み取れない。
肌も白く、顔立ちからなんとなく美人ではないかと予測する。
マキナ程ではないが小柄で華奢な体型をしている。
黒のポロシャツにショートパンツで、黒のスニーカーを履いていて、全体的に動きやすそうな格好をしている。
時間帯から考察するに、一度家に帰って着替えたことになるだろう。
「えっと、紹介がまだだったね。ヨミちゃん」
ユイが言うと、そのヨミちゃんなる少女の背中を押した。
「つ、月影ヨミ、です。その・・・・・・初めまして」
ヨミは口籠りながら小さく会釈をした。
照れている恥ずかしがっているようには感じなかった。
なんとなく気不味さからくるそれに近いような気がする。
まあ、もうお開きしようかという時にやっと来ても、気不味い空気になるだけなのは分かる。
現に俺も気不味い。
「そういえば、もうすぐ終わるって聞こえたような気がしたけど、そうなの?」
だがユイは、気にしていないのか彼女なりに気不味い空気を解消しようとしているのか話を進める。
「あ、ああ、最後一曲誰が歌うかって話でお前に譲ろうって思ってよ」
「ふ〜ん、そっか」
納得して頷くや否や、ヨミの方を見る。
「ヨミちゃん、折角だから歌ってみたら?」
突然の提案にヨミは困惑した素振りを見せる。
「いや、いい、です。元々は君に対して譲られたものだし」
「いいのいいの、わたしも散々歌ってるし、寧ろまだ歌ってないヨミちゃんが歌った方がいいよ」
「でも」
「ここに来たっていうことは、少なくても歌うつもりはあるんじゃないの?」
その問いにヨミはたじろぐ。
ユイは押されるのは弱いけど押すのは結構強い。
最近触れ合うようになって、なんとなく思うようになった。
ヨミは諦めた様子で、端末を手に取って曲を選んだ。
そしてすぐにスピーカーから音楽が流れる。
「あれ?この歌どこかで・・・・・・」
マルコが呟く。
カオルも、隣りに座ったユイも心当たりがあるような反応を見せる。
かくいう俺も聞き覚えがあった。
そんな俺たちの反応を他所に、ヨミは歌い始める。
日本酒のCMで流れる曲だった。
それからお開きとなったカラオケでのお疲れ様会。
五人は何事もなく帰路へ向かった。
如何でしたか?
次回も幕間ストーリーが続きます。
お楽しみに!