表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/140

第百五話 隠れた優しさ

三日目です!

お楽しみに!

「ただいま」


 扉を開けると、向こうからバタバタと足音が聞こえてきた。


「おかえり!」


 元気な声で出迎えてくれたのが、ユイだ。

 エプロン姿ということは、今夕飯を作っているのだろう。



「今日は遅かったね」

「ああ、ちょっと図書室でテスト勉強してたからな」


 そう俺が言うと、ユイの眉がピクリと動き目を泳がせた。


「・・・・・・後で見てやるよ」


 すると、ユイは忽ち太陽のように明るい笑顔になった。


「ありがとうございます!」


 大袈裟な動きで深々と頭を下げる。



 それから俺は風呂に入り、ユイの家族と夕食を食べた。

 特に食べている間は、ユイは今まで以上に笑顔で話し、時にはオーバーなリアクションを取ったりしていた。

 土日の間は、突然の変貌っぷりに、ツバサやユカリ、そして俺を含めた三人は戸惑っていた。

 今では大分慣れたが、果たしてそれでいいのだろうか?



 食器洗いを一通り済ませた後、俺はユイの勉強を見ていた。

 特に苦手科目である英語を中心に分からないところを教えている。

 単語問題なら解けるようだが、それ以外はかなり苦戦している。

 だから、俺が教えている。

 なぜなら、成績がいいからだ。



「今、ムカつくこと考えてなかった?」


 ユイが半眼で睨んできた。


「いや、何も考えてないぞ」


 まあ、ウソだけど。


「・・・・・・そう」


 納得はしていないようだが、勉強を再開した。



 俺も一緒になって勉強をしていると、ユイの手が止まった。

 唸り声を上げ、顰めた顔をしている。


「分からない問題があるのか?」


 問うと、ユイはビクッと肩を揺らす。

 しかし、顔を上げず再び唸り声を発した。

 どうやらまだ頼りたくないらしい。



 こういうところを見ると、相変わらず頑固だなって思うことがある。

 その分落ち込んだ時はとことん暗くはなるが。

 それは初めて出会った時から変わっていない。

 元々の性格なのか、将又何かがきっかけでそうなったのか。

 機会があれば聞いてみよう。

 そう思いながら、教材を覗き込んだ。



 どうやら和訳問題で止まっているようだ。


「分かんねぇ問題ずっと考えても意味ねぇぞ。他にも問題ある訳だし」

「んー・・・・・・、でもこの問題配点高いからできれば落としたくないし」


 ああ、確かにそうだったな。

 確かに、ユイの言う通りだ。

 和訳や長文、作文問題の配点は極めて高い。

 リスニングや単語問題なら、一問間違えても点数が大きく下がることはないが、和訳になるとそうはいかない。

 二、三問間違えただけで、十点も落としてしまうのだ。



 それからしばらく様子を見ていると、ユイは顔を上げてきた。

 悔しそうに頬を膨らませて目が潤んでいる。


「・・・・・・どこで躓いてんだ?」


 いつものことだ。

 それでも今回は頑張った方だと思う。

 なぜなら、ユイが悩んだ問題は結構難しいものだったからだ。



 そして、三時間ほど経過した頃、ユイは大きな欠伸をした。

 時計を見ると、あと数分で明日になる時間である。

 普段のユイならベッドで寝静まっている頃だ。

 眠たそうな目で隈ができており、頭が上下に揺れている。


「今日はこのくらいにして寝た方がいいだろ」


 俺が提案すると、ユイは首を横に振った。


「や〜ら、まだべんひょーするの〜」


 呂律が回っておらず、言葉が幼児退行している。

 これは相当疲れているな。


「お前、ここ何日か寝てないだろ?今日はもう寝ろ」

「やらやら、まらする〜」


 足をバタつかせ、駄々をこねだす。

 ただでさえ子供っぽい感性を持っているのに、性格まで子供になってしまうなんて。

 正直見てられないな。


「今のお前に問題が解けるとは思えないが」

「できるもん!」


 どうやら寝不足でも、意地っ張りな性格は顕在のようだ。

 そして、こうなってしまったユイは言っても聞かないことは分かっている。


「・・・・・・コーヒー淹れてくる。その代わり一時間だけだぞ」


 溜息を付き、渋々了承することにした。



 キッチンに向かい、お湯を沸かす。

 台所を見ると、ユイがうとうとしながら問題を解いていた。

 シャーペンがノートの上であらぬ方向に走っている。

 そんな状態でも、彼女は勉強をしている。

 俺が寝床についた後でも起きているのだろう。

 勉強をするか、或いは探し物のために外出をするか。

 ここまで考えてどうするべきか、もう既に決まっている。

 寧ろ今までタイミングを見計らっていた。

 そして、今しかないと踏んだ。



 俺は二つのマグカップを持って席についた。

 砂糖が入ったミルクコーヒーを渡すその前に、話を切り出した。


「そうだ。眠気覚ましにお前に見せたい物があるんだ」

「みせたいもろ?」


 ユイは訝しげに首を傾ける。

 俺はポケットからそれを取り出し、テーブルに置いた。



「・・・・・・、ん?」


 眠気で脳の処理が遅れているのだろう。

 テーブルに置いた物が何なのか、すぐには気付いていないようだ。

 どこかで見たことがある。

 そんな様子でまじまじと観察している、と。


「!?」


 ユイは目を見開き、勢いよく立ち上がった。

 それもそうだろう。

 今俺が取り出したのは、ユイが失くした『ナイチンゲールの魔道具』だからだ。

 驚きを通り越し、声にならない声を発し、俺とそれを交互に見比べる。

 それからやっと落ち着きを取り戻し、脱力するように椅子に尻をつけた。



「いつから・・・・・・、いつから持ってたの?」


 眠気が覚め滑舌が戻ったようで、不貞腐れながら聞いてきた。

 当然の問いだろう。


「今日それを拾った人から渡されたんだよ。ただ、渡すタイミングを見計らっていたな。ユカリさんやツバサがいる前じゃ見せられないだろ?」

「・・・・・・」


 眉間にしわを寄せ、じーっとこちらを睨んでいる。


「でも、少し面白がってたでしょ?」

「・・・・・・」

「いじわる」


 そう言って、魔道具を手に取ろうとする。

 が、その前に俺が拾い上げた。

 そして、睨まれる。



「悪いが、こいつは渡せない。ちっと諸事情ができてな」

「ホントに?独り占めしようとか考えるんじゃないの?」


 疑心の目を向ける。

 まあ、つい直前のことを考えればそうなるか。


「しばらく預かるだけだ。今奴らに渡したらもっと面倒なことになる」

「面倒なこと?」


 更に目を細くする。

 流石にこれ以上は話せないな。


「ああそうだな、お前に頼みたいことがある」

「あ、話し逸した」

「白鳥ユメっていう人を守ってほしい。一学年上で眼鏡を掛けている女子生徒だ。多分会えば分かる。基本図書室にいるから」


 そう言って俺はマグカップに注がれたコーヒーを一気飲みした。


「とにかく、今日は寝ろ」


 火傷した舌を出して冷ましながらリビングを出ようとする。

 途中、ユイに呼び止められるが、無視する。

 そのまま廊下に足が掛かろうとした。



「待って」


 が、腕を掴まれてしまう。


「な、何だ」


 俺は胸中で戦慄していた。

 もしかしたら怒られるかもしれない、そう思ったからだ。

 振り向くと、彼女の顔は若干赤くなっていた。


「・・・・・・その、ありがとう、見つけてくれて」

「!?」


 だが、いざ発せられた言葉は問い詰めるようなものではなく、感謝の言葉だった。

 よく見ると、怒っているどころか穏やかな表情を浮かべていた。


「ミツキがその人と出会ってなかったら、それは見つからなかった」


 ユイは俺が持つ魔道具に指を差す。


「だから、ありがとうございます。助かりました」


 手を離し、深々と頭を下げてきた。



「・・・・・・」


 俺は足早に廊下に出て階段を登り、自分の部屋に向かった。

 なんだかむず痒くて、居心地が悪い。

 部屋に入ると、頭に渦巻いた妙な感情を払拭させるため、魔道具の解析を行った。



 気付けば日が昇っており、久々に寝不足になった。

 そして、魔道具の使用者登録の解除だが、成果は得られなかった。

如何でしたか?

次回以降から不定期になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ