第百四話 繋がる物語
宣言通り投稿しました!
お楽しみください!
土日休みが明けた月曜日。
あと数日経つと、七月に入る今日。
校内は若干緊迫した空気を醸し出していた。
友人同士と他愛もない話をしたりふざけたりしている人は少なく、寧ろ机で教科書やノートを広げて勉強をしている人の方がよく見掛ける。
それもそのはずでこの時期は一学期末試験のテスト期間に入っているからだ。
普段勉強しない連中は特に赤点回避のために、血眼になりながらペンを走らせている。
きっと普段以上にシャーペンの芯をすり減らしているのだろう。
夏休み期間の殆どを補修で埋めたくないという理由の人が大半だ。
俺が通っている高校は部活動に力を入れている人が多く、夏に行われるインターハイへの参加のために猛勉強しているそうだ。
だからなのか、今日は部活勧誘を受けていない。
久しぶりの平穏な一日・・・・・・なんてことになれば良かったがそうはいかなかった。
今日は今日で別の要件で、あまり穏やかな気分ではないからだ。
魔物に襲われた女性もとい白鳥ユメと接触すること。
それが今回の目的である。
その日は誰にも言わないことを約束してもらったが、確認のために今図書室に向かっている。
一応SNSを見たがそれらしき記事はないし、周りでそれらしい会話は耳にしていない。
まあ言ったところで信じがたい話だから、そこまで大事になっていないだけなのかもしれない。
それでも不安が残ることには変わりなかった。
記憶処理を施せばいいという考えがあるが、生憎俺自身が気が進まなかった。
だからといって、エリや魔術協会の連中に頼ることにも抵抗がある。
わざわざ記憶を消してくださいと頼むのも気が引けるのだ。
俺はスマホを取り出し、通話履歴を開いた。
そこには何度か電話を掛けても繋がらなかった形跡が並んでいる。
エリとマキナ。
ユイのことで聞いてみようと思い、連絡を取ろうとしてみたが繋がらず、チャットアプリでも既読はつくが返信はなかった。
そして、今日二人は学校を休んでいる。
気にはなったが今はどうすることもできないので、目先のことに集中することにした。
そうしている間に、俺は図書室の前に到着した。
ここにはテスト勉強をしにきたという体で来ている。
片手には教材とノート、筆記用具を所持している。
深呼吸をし、ゆっくりと戸を引いた。
多くの書庫が収められた本棚。
そこに囲まれる形でテーブルが並び、多くの生徒がペンを走らせている。
俺は空いている席に座り、ある場所を一瞥した。
図書室で必ず一つはあるカウンター。
そこで下を向いて作業をする少女に目を留める。
白鳥ユメ。
どうやら本当に同じ学校の生徒だったようだ。
その表情は真剣で、一点に集中している様子だ。
以前会った時と同じように見える。
いったい何をしているのだろうか?
俺はテスト勉強をしつつ、ユメの監視を行った。
結果を言ってしまえば、特に怪しい行動は見受けられなかった。
テーブルに向かって黙々と作業をしているだけ。
時に顔を上げ、借出しに来た人の対応を行い、図書委員の仕事を熟している。
その作業を延々と繰り返し、気付けば閉館の時間になっていた。
周りの人も続々帰っていき、周りを見る限りでは俺一人になっている。
もしかすると、本当に誰にも言いふらしていないか、或いは協会の魔術師によって記憶処理を施された後なのかもしれない。
そう思い、俺はテーブルに広げた教材を鞄に入れ、図書室を後にしようとした。
序にユメが座っているカウンターに近付き、中の様子を覗いてみる。
見ると、教材を広げていた。
彼女もテスト勉強をしているのだろうか?
教材が山積みになって置かれているが、特に気になったのが赤い本である。
どうやら大学入試の過去問集らしい。
しかもその殆どが医大だった。
長いこと使っているためかページの端が疎らになっており、色とりどりの付箋がびっしりと挟まっている。
今それを勉強しているということは、彼女は二つ上つまり三年生なのだろうか?
「あのー」
声を掛けられ、ふと顔を上げた。
若干困惑したような表情を浮かべている。
「本の貸出しですか?」
「ああ、いや違う。ちょっと気になっただけで・・・・・・」
答えようとすると、ユメは半目ででじーっと見つめ、はっと何かに気付いたような反応をした。
「あの時変態から助けてくれた変身する人」
指を差し、声を上げる。
「・・・・・・ええまあ」
なんとも変な覚えられ方だ。
「・・・・・・一年の光剣寺ミツキ、です」
不本意だからここはちゃんと名乗っておくことにした。
「一年?ということはわたしより一つ年下だったんですね。わたしは二年の白鳥ユメ、って前にも紹介しましたね」
と、相手も自己紹介してくれた。
だが敬語は変わっていない。
というか二年生だった。
「今日は図書室で勉強していたの?」
「そうです」
ウソは言っていない。
一応テスト範囲のところを見直す形で問題を解いていた。
その間にユメの様子を伺っていたことは当然伏せておく。
まあ、途中からそっちのけで普通に勉強していたが。
「そうなんですか。大変ですね」
「先輩も図書委員の仕事の合間に勉強を?」
「うん、そうですよ。テスト期間でも図書室は開けているのは知っていると思いますけど、貸出しをする人がいてその対応もしているからなかなか進まなくて」
「成程、そうなん、ですね」
やはり敬語は慣れないな。
普段はユカリ以外の人に対してタメ口で話しているからなのだろう。
喋っていて自分でもぎこちなさを感じる。
特に距離感が微妙に取りづらい相手だから尚更だ。
「ところで、わたしに何か用があるんですか?」
ユメが首を傾げながら訊いてきた。
あれだけまじまじと見ていたのなら、何か用事があるものだと思うのも当然と言えば当然である。
「目の前で立ち止まったから何かあるのかなって思いまして・・・・・・」
「うぅん、特にない、ですね。ただどんなことをしているのか前々から気になっただけ、です」
まあ、あるにはある。
だが今その話題に触れるべきかどうかが問題だった。
もし詮索されでもしたら面倒だからだ。
「そうなんですね」
そう答えて自分の手元を見ると、慌てて過去問題集をテーブルの中に押し込んだ。
不審に思ったが、俺はそれ以上詮索しなかった。
そして、タイミングよく下校を促すチャイムが鳴り響く。
「そろそろ時間なんで帰ります」
俺はそのまま入り口の方に足を運んだ。
引き戸の持ち手に手を掛ける。
「待って!」
が、突然呼び止められてしまう。
振り返ると、ユメの表情は青ざめていた。
抑えられない恐怖に震えているように見える。
「待って・・・・・・」
声も弱々しく震えていた。
どうやら何かあったようだ。
俺は再びユメの方に近付いた。
「どう、しました?」
問い掛けると、ユメは傍らに置いている鞄から何かを取り出し、俺に見せた。
奇妙な柄の表紙の小さな厚い本。
それはユイが持っていたはずの『ナイチンゲールの魔道具』だった。
「これ・・・・・・」
驚いて問うと、ユメは事の経緯について話し始めた。
数日前、家に帰宅した後、鞄の中に魔道具が入っていたことに気付いたらしい。
原因はすぐに分かったようで、道で少女とぶつかり散乱した荷物を拾った時紛れてしまったからだそうだ。
それからすぐに返すためどうするか考えている際に、魔道具に記された名を読み上げてしまった。
これにより、ナイチンゲールの魔道具の所有者として登録されてしまったらしい。
得体のしれないものだと思い捨てたのだが、家に帰ると鞄やポケットの中に入っている。
そして一番最悪なのが、身の回りで変な現象が起きてしまうことだ。
例を挙げるなら、何もないところで火が出たり水が出たり、指を切った時にすぐさま傷が塞がったりなどがある。
そんな状態が続き、相談しようにもあり得ない出来事だったためできなかったようだ。
「・・・・・・訳分からなくて、今朝なんて本に追い掛けられる夢を見てしまって」
それはもう心霊現象に怯える人そのものだった。
話を聞く限りでは、ホラーテイスト満載の説明である。
「これ、呪われているんですかね?」
そう聞いてくる彼女は、助けを懇願するように見えた。
「・・・・・・まあ、言えることがあるとすれば、原因はその本で間違いない、ですよ」
魔道具を手にした時、使い方が分からず能力が勝手に発動することが稀にある。
原因は魔道具が使用者の思考を誤認して発動してしまうからだ。
滅多に起こることではないはずだが、どうやらユメはその低確率な事象を連続で引き起こしてしまったようだ。
魔術のまの字も知らない人からすれば、ある意味では恐怖体験だろう。
「どうにかなりますか?」
涙目で聞いてくる。
「一応こちらで預かっておくよ。少なくとも家に帰ったら手元に戻っているってことはないはず、です。まあ、必要だって強く思わない限りですけど」
そう説明すると、ユメは安堵したような表情を浮かべた。
「あ、ありがとうございますぅ」
魔道具を差し出し、俺はそれを受け取る。
じっくり観察してみると、確かにユメのフルネームが英文字で刻まれていた。
「・・・・・・」
俺は徐にユメの頭に手を伸ばした。
だが、何も起きない。
ただ手が震えるだけだった。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・いや、何でもない」
手を下ろすと、震えは治まった。
「それじゃ、今度こそお暇させていただきます」
そう言って、今度こそ俺は図書室を後にした。
如何でしたか?
明日も投稿します!