第百二話 二人の議題
今回はエリ視点です!
エリは路上を走っていた。
本来なら喫茶店でユイと合流し、ナイチンゲールの魔道具を返してもらうはずだった。
だが、いつまで経っても店に現れず、連絡がつかない。
もしかすると、何かあったのかもしれない。
可能性としては、例のフードの魔術師に襲われた可能性もある。
そう思って、エリはユイを探すことにした。
マキナに頼んで、ユイの場所は特定できている。
ただ、今どのような状況なのかは分からない。
なぜなら、ユイがいるであろう周辺の監視カメラの映像記録がなくなっているからだ。
この時エリの中で確信に変わり、店を飛び出して今に至るということである。
頼むから無事でいて、ユイちゃん。
そう願いながら、路上を駆けだしていた。
そんな中、マキナとの会話が脳裏を過る。
ユイが店を後にし、改めて二人で話をした時のことだった。
内容はユイのことについてである。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「君も随分迂闊だね。本人が聞いていたらどうするつもりだったんだい?」
「必要だから話す前にユイちゃんを呼んだのよ。改めて本人を前にしてその判断が正しいかを確かめるためにもね」
「そうかい、君も変わり者だね」
「あんたに言われたくない」
そんなやり取りから始まった議題。
まず話された内容は『魔物出現と時島ユイには何かしらの関係性があるということ』についてだ。
「一応確認だけど、これあんたがユイちゃんを襲うことを正当化するためのデマ情報ってこと、ないわよね?」
統制係は情報操作を行うことが専門だ。
だから、偽りの情報を作ることなど造作もない。
それを加味して、敢えて聞いてみることにしたのだ。
「事実だよ、紛れもなく」
躊躇いもなく冷静に言い放たれた。
「ただ、どんな因果関係があるかまでは突き止めきれてないけどね」
そんな補足説明をしていたが、結局はユイが黒である可能性は十分にあるということになる。
「・・・・・・そう」
だから頷くことしかできなかった。
「あんたはどう思ってるの?」
問うと、マキナはふぅと息を吐いて言葉を続けた。
「できるなら無関係であってほしいとは思っているね。もし彼女が極悪人なら、ボクはもう人を信用できなくなるような気がする。希望的観測だけど、白であってほしい」
「・・・・・・そう」
何の根拠もない感情論。
だけど、以前の彼女からは考えられない回答だったと思う。
良い意味で、ユイに感化されたのだろう。
「君はどうするつもりだい?」
今度は向こうから質問を投げ掛けてきた。
「今の話を聞いて、何も行動しないってことはないと思うが」
「そうね、確証がない以上下手な行動は避けた方がいいかしらね。特に上に報告する情報は慎重にならないと、前回みたいな二の舞になりかねないからね」
「それは君が主任に配属する前の話かい?」
「まぁね。話を聞いた時は呆れもしたし、逆に異常だと思ったりもしたし。だから、本当の意味で避けるべき最悪は避けるべきだと考えているわ」
「成程ね。つまり、経過観察といったところかい?」
「そんな呑気な事やっている場合かって言われそうだけど、未知の相手である以上慎重に行動しないといけない訳だし。それに・・・・・・」
自分もマキナのことを言えないと思った。
だが、それでもやはり自身も感化された人間でもある。
「あたしもできるなら敵対はしたくないかな。一応可愛い後輩でもある訳だし」
信じたい、そう思ったのだ。
「そうかい」
頷くマキナ。
ここまでが最初の話だ。
そして、ここからが本題といっていい程深刻な内容である。
一応事前にその内容のことを話すと伝えている。
因みにマキナもその事実を把握していることを知ったものその時だ。
正直抵抗があった。
相手も同じことを考えていたのだろう、話が終わってからずっと口籠っていた。
あまり気分のいい話ではない。
でも、黙ったままだと埒が明かないと思い、エリの方から話を切り出すことにした。
「・・・・・・もう一つの件、話そうと思うんだけど」
すると、マキナは固唾を呑んだ。
息を吐きだし、覚悟を決めた顔になる。
「構わない。知った以上もう後戻りできないからね」
「・・・・・・分かったわ」
その言葉を聞き、エリも覚悟を決めることにした。
「ユイちゃんは、一度■■■、■■したんじゃないのかなって思うの」
自分で言って恐ろしさのあまり、一瞬吐き気を覚えそうになる。
「やっぱり君も目撃したんだね。君の話を聞く限りだと、一回きりってことはないだろうね」
一見冷静に答えているように見えるが、険しい表情を浮かべていた。
「それで彼女のことを調べてみたんだ。そしたらこんなものを見つけたんだ」
マキナはタブレットでとある古い記事を開き、それをエリに見せた。
「これって・・・・・・」
忽ちエリの顔が青ざめた。
そして、知ってはならない事実を知ってしまったことに、後悔と恐怖に吞み込まれてしまう。
「・・・・・・ミツキはこのことを知っていると思うかい?」
マキナが問う。
「多分知らないでしょうね。知っていたら間違いなく戦わせたりしない」
「そう、だね」
「だから、今は言わない方が良さそうね。特に本人とか、ミツキとかには」
「いいのかい?いずれにしても、いつ気付かれるか分からないのだろう?」
「それでも今じゃない。今それを知れば、多分だけど・・・・・・」
「分かった、黙秘しておくよ」
そして、議題が終わったタイミングでエリのスマホから着信音が鳴った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
しばらくして、人気のない道に入っていた。
静かすぎて気味が悪いくらい。
だから、余計に不安が煽られるのを感じた。
エリは息絶え絶えになりながら走った。
そして、突き当りを左に曲がったところで足を止めた。
なぜなら、見つけたからだ。
荷物を荒らされ、塀に座り込んで蹲っているユイの姿があった。
「ユイちゃん!」
エリは駆け寄り、横に膝をつく。
服がボロボロになっているが、傷に関しては目立った個所はない。
ただ、虚ろな目をしていた。
「大丈夫、何があったの?」
問うと、ユイは小さな口で言葉を発していた。
聞こえなかったので、耳を近付けてみる。
「わたし、失敗してばかり・・・・・・何もできなかった」
今にも泣きだしそうな震えた声。
何かあったことは明白だった。
これは、あいつを呼んだ方がいいかもしれない。
「待ってて。今ミツキを呼ぶから」
エリはスマホを取り出し、ミツキに連絡を取ろうとした。
「ダメ!」
が、ユイによって制止させられてしまう。
「ダメ・・・・・・、これ以上迷惑を掛けたくない。これ以上、ミツキに無理をさせたく、ない」
力なく言葉を発する。
そして、フラフラになりながら立ち上がろうとした。
「ユイちゃん」
エリは今にも倒れそうな身体を支えようとする。
だが、「大丈夫」と答えて手を退かしてしまう。
魔道具を取り出し、それをステッキ状に変化させると、魔術を発動させた。
地面に魔法陣が出現し、ボロボロになっていた服がみるみるうちに元通りになっていく。
「ね、魔術が使えているから大丈夫でしょ?」
振り返ってそう言うが、顔は辛そうだった。
そして、止める間もなく、ユイは魔装してそのまま飛んで行ってしまった。
「・・・・・・一番無理してんの、あんたじゃない」
そんな小言を呟く。
自分もちゃんと一緒にいるべきだった。
そんな歯痒い気持ちを抱き、ユイが消えた空を呆然と見上げた。
如何でしたか?
加えるかどうか悩みましたが、今後の展開を考えて入れてみました!
次回もお楽しみに!