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第百話 リベンジバトル

記念すべき百話目____と言いたいところですが、厳密にはもう既に純粋な話数でいえば超えています。

まだまだ続くので、これからも愛読していただくと幸いです!

それでは本編をどうぞ!

「クロノス!」


 フードの魔術師が襲い掛かるタイミングで、ユイは魔装した。

 振られたクナイをクロノスステッキで受け止める。

 柄部分から火花が散る。

 相変わらず力が強い。

 ステッキを強引に振り、一旦距離を取る。

 改めてフードの魔術師を観察した。



 ・・・・・・なんだか、やりづらい。


 というのも、全身を覆うフードのせいで、次に相手がどんな行動を起こすのかが全く読めないのだ。

 使う武器や技が分かっていたとしても、それを発動するためのタイミングや予備動作が隠れていては対策しようがないのだ。

 だからといって、下手に『未来観測』を発動する訳にもいかない。

 以前戦った時使用したが、フードの魔術師が使った弓矢の技?を攻略することができなかった。

 因みに今も対策はできていない。

 だから、今は会いたくなかった。



「あなた、何なの?こっちの話聞かないで一方的に攻撃して、何が目的なの?」


 苛立ちを覚えるが、訊きたいことを問い質す。

 しかし、返答するどころか反応する素振りすら見せない。


「何か言ってよ」


 そう言って、こちらには戦闘の意思がないことを示すために武器を下ろす。



 その瞬間、電光石火の如く間合いを詰められ、またも攻撃を仕掛けてきた。

 クナイが振り下ろされる寸で、ユイは『瞬間転移』で別の場所に移動し回避した。

 こうなることも予想して、移動場所のイメージもしていたのだ。

 少し安心・・・・・・しそうになったが、目の前にクナイの先端が見えた。

 反射的にステッキを振り上げる。

 けたたましい金属音が鳴り、クナイが宙を舞った。



「どうして敵意を向けるの?」


 ユイは尚も問うた。

 観念したのか肩を落とすような素振りを見せると、


「お前は私を見た。それが以前の理由です。そして今回はお前に奪取された魔道具の回収が目的です」


 と、答えたのだ。

 男なのか女なのか識別できない声。

 いや、意図的に声を変えているのだろうか?

 性別までは特定できなかったが、それでも目的は分かった。



 なんとなく予想はついていたが、やはり『ナイチンゲールの魔道具』が狙いのようだ。

 そしてその魔道具はというと、今はない。

 先程ぶつかった女性が誤って拾ったかもしれないが、それは口を裂けても言ってはならない。

 今度は女性が狙われるからだ。

 だから____。


「悪いけど、渡せない。あなたに渡してはならないような気がするから」


 持っている前提で話を進めることにした。


「・・・・・・そうですか」


 表情も声色も全然読み取れないから、何を思って言ったのか分からない。

 だが発言の直後に、明らかな殺気を感じた。



「では、死んでもらいましょうか・・・・・・」

「っ」


 身構えると同時に、クナイが空気を貫きながら飛んできた。

 難なく弾き飛ばすが、どうやらその間に隙を作ってしまったらしい。

 弓を出現させ、こちらに矢を向けている。

 それも四人。

 同じ姿形をした人物だ。



 マズイ!


 反応する前に、矢は放たれてしまった。

 黄色のオーラを纏った四本の閃光。

 ユイは回避できないと直感し、ステッキ先端に光弾を出現させ振り下ろした。

 見事に命中____したのだが、すぐに軌道が修正され全身に矢が突き刺さってしまった。


「うぐ・・・・・・っ!?」


 腕や足から鮮血が噴き出す。

 最初は異物が入り込んだような感覚がしたが、次第に生熱さと激痛で動けなくなった。

 引き抜こうとするが、深く突き刺さっているためかびくともしない。

 より一層痛みが増していく。



 顔を上げると、フードの魔術師がゆっくりと近付いてきていた。

 引き抜くことを諦めて、立ち上がろうとする。

 しかし、刺さった箇所が悪かったのか、上手く力が入らない。


 動かないと、動かないと、動かないと動かないと・・・・・・。


 焦りから思考が回らない。

 呼吸が荒くなり、意識が途絶えそうだ。



 そして、フードの魔術師が目前で足を止め、矢をこちらに向けてきた。


「最後の忠告です。魔道具をこちらに渡してください。そうすれば命だけは取らないでおきましょう」


 強者の余裕というやつだろうか。

 こんな状況だから凄く縋りたい気持ちもある。

 でも、ここで全てを話したら次に命を狙われるのはあの女性だ。

 万が一、あの女性が死ぬようなことになってしまったら、どうなるのだろうか?

 ミツキは、どう思うのだろうか?


「・・・・・・絶対、嫌っ!」


 そう言って、ユイはベーと舌を出した。



 フードの魔術師はふぅと呆れたような溜息をつく。


「頭悪そうだと思っていましたが、中身もでしたか・・・・・・」


 かなり辛辣なことを言われた。

 だが、言い返す力もない。


「残念です」


 無常に放たれた言葉。

 直後、矢尻から指を放すところが見えて、思わず目を瞑った。



「____!・・・・・・ん?」


 違和感を覚え、片目だけ開けてみる。

 ほんの数センチの位置に、矢の先端が額を貫こうとしていた。


「うわっ!」


 思わず尻餅をついて仰け反ってしまう。

 そして、傷口から痛みが走る。


「痛・・・・・・、あれ?」


 顔を上げ、呆気に取られてしまった。

 なぜなら、矢が空中で静止していたからだ。



 それだけではない。

 矢に纏っているエフェクトも、フードの魔術師も、鳥も、木も。

 何もかもが不自然な形で止まっている。

 まるで静止画を見ているみたいだ。



 ユイは止まっている矢を恐る恐る触った。

 側面部を強く押してみる。

 しかし、固定されているみたいにビクともしない。

 首を傾げながら、今度は水魔法で氷を作ってみた。

 サッカーボールくらいのサイズの氷塊が生成される。

 どうやら魔術は普通に起動するらしい。



 本当に、意味が分からない現象だ。

 でも、これだけは分かる。

 今がチャンスだということを。



 ユイは水魔法を発動した。

 傷口を無理矢理凍らせ、痛みを一時的に失くす。

 『空中浮遊』で空を舞う。

 光弾を複数出現させ、フードの魔術師の周辺に停滞させる。

 ここまでの作業でユイは完全に力尽き、地に伏してしまった。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」


 身体が動かない。

 誤魔化していた痛みも、また再燃してしまった。


 そういえば、この現象ってどうやって解除するんだっけ?


 そんなことが脳裏に浮かんだが、もう何も考えられない。

 聞こえた爆発音の後、ユイの意識は完全に途絶えてしまった。


   ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※


「ヘルメス!」


 俺はフェンリルが襲い掛かるタイミングで魔装した。

 一瞬にして間合いを詰められ、強靭な腕が振り下ろされる。

 寸でで風魔法を発動し、後方に大きく移動する。


「相変わらず素早いな、こいつ」


 三戦目といっても、結構苦戦しそうだ。

 気を抜けば、殺られる。

 特に腕の『紐』には気を付けなければならない。



 俺はハデスの魔道具を取り出し、ケルベロスを召還した。


「「「ガウッ!」」」


 吠えると、三匹に分離し攻撃を仕掛ける。

 同一の存在である所以か、見事な連携でフェンリルを牽制していく。



「俺も負けてられねぇな」


 そう言って、今度はゼウスの魔道具を取り出した。

 ヘルメスの魔道具を窪みに嵌め込む。


「ゼウス!」


 俺は別の形へと魔装した。

 巨大な戦斧を振り回し、フェンリルの方へ駆け出す。



「フンッ」


 渾身の力を込めて大きく振り下ろした。

 フェンリルは攻撃に反応できたようで、両腕で防御した。

 甲高い金属音に、刃からバチバチと雷が弾ける。

 しかし、それはフェンリルの腕の中へと吸収されていく。


「危ねぇ」


 俺は一旦距離を取った。

 危うく、全ての魔力を吸収されるところだった。

 フルパワーとまではいかないが、それなりの出力で攻撃したにもかかわらず魔力を吸収できている。

 恐るべき耐久力だ。



 だが、弱点がない訳ではない。

 魔力吸収のメカニズムは理解している。

 俺は周辺に電線があることを確認すると、斧の先端を向けた。

 そこから微弱な電気を取り込んでいく。

 増幅させ巨大な雷へと変化させていく。



「せいっ」


 俺は雷を纏った斧を大きく振り下ろした。

 歪な扇の閃光が地を這い、ケルベロスと戦闘しているフェンリルに向かっていく。

 またも気付いたようで、今度も両腕をクロスさせて防御した。

 爆発し、辺り一面が煙に覆われる。

 風魔法を発動させ、それらを一気に吹き飛ばす。



 最初に見た光景は、両腕が焼け爛れたフェンリルだ。

 焼けた腕をよく見ると、巻かれていた紐が散り散りになっていた。

 「何をした?」と言わんばかりの怒りの表情で睨んでいるように見える。

 どうやらビンゴのようだ。



 あのフェンリルの紐は魔術には強いが、それ以外には大した効果を発揮しない。

 以前調べたことがあり、紐は魔術に反応するがそれ以外は何も反応しなかった。

 だから、物理的に発電された電気エネルギーを利用した攻撃なら通用すると考えたのだ。

 エネルギーの増幅は飽くまで補助として、魔力要素のない純粋な形として。

 そして、紐を焼き切ったことでそれが証明された。

 これでもう、厄介な魔力吸収は使えないということだ。



「じゃあ、行くか」


 俺は斧を構えることで、第二ラウンドのゴングを鳴らした。

 フェンリルは激昂し、爪に禍々しいオーラを纏わせて襲い掛かってきた。

 迎え撃ち、こちらも攻撃を仕掛けていく。



 金属が激しくぶつかる音。

 放電で空気を破る。

 互いが猛ラッシュを駆け、攻撃の速さが、強さが増していく。

 絶叫し、雄叫びを上げ、最後の一手を狙う。

 そして____。



「うおらあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 刃が、フェンリルの腹部を捉えた。


「もらっっっっっっ、たああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 強く深く押し込み、魔力の出力を一気に上げた。

 巨大な雷のエフェクトが、空気に亀裂を走らせる。

 音が何度も弾け、空間が激しく揺れる。


「くううううおおおおおおらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 激しく絶叫し渾身の力を込め、焼き切っていく。



「!?」


 振った反動でバランスを崩し掛けるが、なんとか踏ん張る。

 振り返ると、フェンリルの上と下が地面に転がっていた。

 断面が焼け焦げ、そこから腐敗化が進んでいく。

 まだ、ピクッピクッと痙攣していたが、間もなく全てが空気に溶けてしまった。

 どうやら倒せたようだ。



「・・・・・・はぁ」


 俺は脱力し、その場に寝転んだ。

 それと同時に魔装が解除される。


「やべぇ、ちっと無茶した・・・・・・」


 動けない程ではないが、それでももう次戦えるかは怪しいところだ。

 また魔物に遭遇することだけは避けたい。



「・・・・・・」


 それにしても、何かを忘れているような気がする。

 しばらく考えてみると、ふとあることを思い出した。

 そして、瞬く間に全身が凍り付いてしまう。


 さっきの女性のこと、忘れていた。


 周囲を見回すが、誰もいない。

 慌てて起き上がり、その場から駆け出す。


「ヤバい、またやっちまった!」


 この時一瞬だけ疲れを忘れることができた。

如何でしたか?

やっと第五章の物語が始まりました。

今後の展開をお楽しみに!

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