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第九十八話 魔術師の女子会

少し遅れましたが、最新話です!

「・・・・・・っていう感じだったかな、昨日は」


 ユイは昨日のミツキの動向を話した。


「普通にエンジョイしているね」


 マキナが呆れた表情で答えた。


「まあ、有意義に使ってくれてなによりね」


 エリは呟くと、紅茶を口にした。



 ガーデンカフェ『あとりえ』。

 植木や季節の花で囲まれたお洒落な外観の店で、テラスがある。

 中に入れば、美術品のレプリカがあちらこちらに置かれているような不思議な場所で、まさに名前通りのコンセプトを体現した店となっている。

 三人はそこに集まっていた。



 目的は、ミツキの休日の過ごし方についての報告。

 本来ならしないことだが、当の本人が過労で倒れたこともあり、一日の動向を上司であるエリに伝えているのである。



「しかし、まさか倒れる程疲れていたなんてね」

「気付けなかったのかい?上司なのに」

「・・・・・・そうね。見た感じ全然疲れている様子もなかったし、ちゃんと体調管理はしていると思っていたけど、とんだ見当違いだったみたいね」


 マキナの言葉に不快感を覚えつつも、それを認めるエリ。


「でも、あいつのことだから悟られないようにするかもね。そんな長い付き合いはないけど、なんとなくそんな気がするというか」

「確かに、彼ならやり兼ねないかもね。素直じゃないところあるだろうし」

「それ、あんたにだけは言われたくないでしょうね」


 そんなやり取りをしている時、不意にユイの方に視線が向く。



 とても落ち込んでいる様子だった。


「わたし、気付いてあげられなかった。近くにいたのに」


 今にも泣きだしそうだった。


「いやいやそんなことないよ。本来は本人がちゃんと言わないといけないことだから、寧ろ自業自得っていうか。とにかく、ユイちゃんは全然悪くないから」


 エリは全力でユイを宥めた。


「そうそう、今まで嫌な仕事ばかりを押し付けてきた彼女の方がよっぽど重罪だよ。もうこれ懲戒解雇だね」

「いやあたし、そこまで無理強いしてないんだけど。寧ろ仕事を強制されそうになっているところを助けたこともあるんだけど」

「へぇやっぱりいるんだね。そうやって責任逃れするクソな奴って」

「だからあんたに言われたくないっつーのっ!」


 今にも掴み合いの喧嘩が始まりそうになるが、クスクスという笑い声によって阻止されることになる。

 見ると、ユイが笑っていたのだ。



「ごめんなさい。なんだか賑やかな様子を見ていると、悩んでいることがバカらしくなって・・・・・・」


 二人は呆気に取られるが、ユイは笑顔で言葉を続けた。


「この三人だけでゆっくり集まることなんてなかったから、今日は楽しも!」


 そう言うと、ユイはショートケーキを口の中に頬張った。

 エリとマキナもお互いの顔を見合わせると、それぞれパンケーキとチーズケーキを一口食べた。



 少し無言が続いたが、仕切り直しという形でユイがエリに話し掛けた。


「エリさんって、協会の主任なんだよね?」

「そうだよ」

「それって結構偉い立場の人ってことだよね?凄い!」


 賞賛されたのが嬉しかったようで、エリは頬を赤くし口を尖らせた。


「別に大したことじゃないわよ。仕事とか責任とか部下の面倒とか、いろいろやることあって全然楽しくない」

「でもお嬢様なんだよね?家が立派なお屋敷だったり、高級料理を毎日食べたり、忙しくても帰ったらそういう豪華なものが待ってるんじゃないの?」

「住み慣れればなんてことないわよ。食事に至っては、作法とか意識しないといけないから食べた気がしないのよね。それに帰ったら帰ったで稽古があったりして休みなんてないって」


 傍から見たら自慢話のように聞こえるが、当の本人はうんざりしている様子だった。


「たまに時間が空いている時に友達と遊ぶことはあるけど、それでもほんの一時間くらいだし。今日だってこの後本部の方に報告書類提出しないといけないし、それでその後も予定が・・・・・・、ああもうこっちが休みたいくらいよ!」


 項垂れるエリ。

 どうやら彼女も彼女で苦労しているようだ。



「ま、マキナは普段はどんなことしているの?」


 今度はマキナに話し掛ける。

 流石に話題を変えた方がいいと思ったからだ。


「ボクは基本的にラボで統制係の仕事をしているかな。例えば、魔物の情報が出回ったりしていないか監視しているんだよ」

「そういえばそんな役職だったね」

「そうだよ。あとは魔道具のメンテナンスとか新装備の開発とかかな。今製作しているのが大砲型の武装で、理論上はフルパワーで半径一キロメートルを焦土と化すことも可能な代物だよ」

「「・・・・・・」」


 この時、ユイとエリの顔面は青ざめていた。


「こ、こ、コハナちゃんとはどう?二人でどこか遊んだりしないの?」


 一刻も早く話題を変えよう。

 そうしよう。



「ん?ああそうだね。放課後とかによく本屋に寄ったりするよ。少し前まで電子書籍しか触れる機会しかなかったから、紙媒体は本当に新鮮だったよ。同じ内容なのに違いがあるんだって気付いて、きっかけを与えてくれた彼女には感謝したいよ」

「そうなんだ。どんな本を買ったりしたの?」

「ライトノベルだよ。異世界ものっていうのかな?あまりにも非現実的で最初は敬遠してたけど、いざ読んでみると物語に引き込まれるものがあったよ。君にも紹介しよう」


 そんな二人の仲睦まじいやり取りは、以前まで蟠りがあった事実すらウソであったと錯覚してしまう程微笑ましい光景だった。


「それとさっきの話だけど・・・・・・」

「え?」

「あくまで理論上だから実際そうなるとは限らないよ。それにボクがそんな破壊兵器を街中で使用すると思うかい?」

「「・・・・・・」」


 この時ユイとエリは同じことを思っていた。

 絶対やりそうだ、と。



「それに『アテナ』もいるから、使い時は慎重に行うよ」


 そう言って、スマホの画面を見せてきた。


『お呼びですか、マスター』


 すると、画面越しに一人の少女が現れた。


『いつもマスターがお世話になっております。ユイ様、エリ様』


 サポートAIのアテナ。

 音声でのやり取りが多いから、全体像が見れたことに新鮮味を感じる。

 ぱっと見、バーチャルアイドルにしか見えない。


『マスターは非常識で人遣いの荒いところはありますが、今後とも仲良く接してください』


 ペコリと頭を下げてきた。


「アテナあまり余計なことは言わないでくれないか」

『余計なことじゃありませんよ。マスターのせいでどれだけ多くの人たちに迷惑を掛けたというんですか?わたしも怒ってるんですからね』

「ああもうはいはい分かりましたよ。どうもすみませんね」


 マキナはうんざりした様子で、スマホの電源を切った。

 途中、まだ説教が続いているのが聞こえた。


「すまない、ボクの助手が粗相をした」

「いや、あんたが一番粗相をしているから」


 エリが指摘すると、マキナはばつが悪そうに視線を逸らした。



「ユイは普段どんなことをしているんだい?」


 話の的をずらすため、ユイに問い掛ける。


「わたし?わたしは家事とかしているかな。あ、でも今はお母さんが帰ってきているからやることが少し減って遊んでいるかも」

「彼とデートかい?」

「そんなんじゃないよ。確かに二人だけってこともあるけど、最近はカオルとかマルコとか四人で遊ぶことも多いかな」

「そういえば君たち四人は一緒にいることが多いよね」

「まあ中学からの付き合いだから、ちょっとした腐れ縁に近いかな」


 ユイはストローに口をつけ、アイスティーを飲もうとする。


「でもミツキに関しては男女の関係だったりとか」


 マキナがからかうと、ユイは軽く噴き出してしまった。



「だからそんなんじゃないって、さっきから言っているでしょ」


 むせながら答えるが、その両頬は仄かに赤くなっていた。


「でもいつかはそうなりたいって思ってるんじゃぁないのかい?」


 すると、ユイは目を泳がせた。


「た、確かにミツキは優しいよ。家事とか率先して手伝ってくれるし、買い物の時も荷物を持ってくれるし、勉強とかたまに教えてくれるし、相談もちゃんと聞いてくれるし、魔術訓練だって。いろいろ助けてもらってること多いよ」

「結構喋るね。でもそれだけいろいろしてくれる人ってそういないんじゃないのかい?それに家事スキルがあるって、今時の高校生にしては結構ポイント高いと思うよ」

「わたし家事ができるとかできないとかで人を判断しないよ」

「でもそれを除いても、結構良識のある男であることには変わりないと思うが。調べた統計データによると、そういう人と結婚して上手くやっていける人の割合は極めて高いという情報があるしね」


 直後、ユイの顔が真っ赤になった。

 序にさっきから黙っているエリも両手で顔を隠して悶絶している。


「な、なに真面目な顔で変なこと言ってんのよ!バカ!」


 テーブルを叩いて大声を上げると、手元にあるスイーツを一気に平らげた。



 最後にアイスティーを真上に向けて飲み干すと、早口で話し出す。


「そもそも、わたしミツキのこと異性としては見てないから、弟としてしか見てないから。女の子みたいな顔してるし。大体いつもいつもそうよ。一緒にいれば付き合ってるだの、夫婦だの言われて、正直うんざりしてるし。ミツキのこと恋愛対象として見るとか、絶対あり得ないから!」

「ゆ、ユイ」

「何よ!」

「横・・・・・・」

「横?」


 言われた通り横に振り向く。

 そして凍り付いた。

 なぜならいないはず人物が立っていたからだ。


「み、ミツキ」


 まさにその人だった。



「・・・・・・な、何でここにいるの?」


 ユイは咄嗟に頭に浮かんだ疑問を問い掛けた。


「たまたまこの店に寄っただけだよ。そしたらお前らがいて、俺の話ししてたって感じだな」


 ご丁寧に問いに答えるが、じっとユイの方を睨んでいた。


「いつから?」


 次の質問を切り出す。


「お前、俺のこと弟みたいって言ってるけどよ、俺の方が早生まれだからな」


 不服そうに答える。


「それと・・・・・・悪かったな、女みたいな顔で」


 どうやらそれが一番気に障ったらしい。

 ミツキはそのまま立ち去ってしまった。



「「「・・・・・・」」」


 気まずい空気が流れる。

 ユイは口を開けたまま呆然としていた。

 しかし、すぐに何が起こったのか理解し、涙目になる。

 震えながらエリとマキナに視線を向けた。

 声にならない声で何かを訴えようとしている。

 その様子を二人は憐れんで見ていたが、負い目を感じたマキナが口を開く。


「その・・・・・・すまないことをした」


 謝罪するが、ユイは何かを訴えながらマキナの肩を何度も叩いた。

如何でしたか?

まだこの章の物語は大きく進んでいませんが、次回からは____。

お楽しみに!

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