雑貨屋売買日誌8
魔王及び北キイームの軍勢は籠城を決め込み、各地で起きている交戦、占拠を放棄した。またこの期を逃すまいとドランフ王国は全兵力を招集し魔王城攻略の準備を進めていた。
[ドランフ城下町]
市民A「おい、まただぞ。」
市民B「遠征に行ってた兵士達か?」
市民A「あぁ、それにあそこ見ろ。」
市民B「おい、ありゃドルネウス騎士団か!?」
市民A「ついさっき初めての遠征から帰ってきたらしい。魔王の軍に対抗するために国王陛下自ら抜擢なさった勇者の集まりでよお、魔物殺しのプロらしいぞ。」
市民B「本気で魔王城を落とす気か…」
その頃
[雑貨屋ハロルド]
ハロルド「はい!エンチャントの本3冊で2500ゴールドです!次の方!」
私の店は大繁盛。招集された兵士やら補給班やらで店はいっぱい。しかし、人数が増えればそれだけ治安が悪くなるのもまた事実。
そこで私は警備員を雇った。
ゴロツキ「痛っ!何しやがんだ!!」
メル「なんかしたのはアンタの方でしょ。私達の前で万引きなんて100年早いわよ!」
ゴロツキ「俺は何も盗ってねぇ!!」
カルビ「ニガタ村小麦粉を使ったパン…」
ゴロツキ「ば、バレてたのか!!」
メル「早く出しなさい。お金!」
ゴロツキ「す、すみませんでしたぁーー!」
早速、現行犯で捕まえたらしい。
休憩時間
ハロルド「本当に良かったんですか?国王様からの騎士団抜擢を蹴って。」
ゲルク「いいんです。団体行動は苦手ですし。」
ハロルド「それならいいんですが。
誰か1人足りなくないですか。」
ゲルク「ハールなら奥にいますよ。」
ハール「人間怖い人間怖い人間怖い人間怖い人間怖い人間怖い怖い人間怖い人間怖い人間怖い」
ゲルク「アラジンの伝説を聞いたことあるでしょう。彼はランプの魔神の子孫なんです。伝説に出てくる程の力は有りませんが、それでもそこらの魔術師とは比べ物にならない魔力を秘めています。
しかし、そのせいで多くの人間から狙われていたらしいのです。」
ハロルド「………」
ゲルク「あ、すみません。なんか湿っぽくなっちゃって。」
ハロルド「いや、ありがとうございます。話すのが苦手なのにそこまで喋って頂いて。」
ゲルク「そうですか。その…それなら、俺達の身の上話っていうか、昔話っていうか、聞いていただけませんか?」
ハロルド「え?」
ゲルク「俺達、今までずっと4人でやってきたんで悩みを言える人がいなくて。」
そしてゲルクは色々なことを話してくれた。
ゲルクは元々、ある宗教の家系に生まれたらしく、その生まれた日が厄日とされており、呪われた子として幼い頃に山に捨てられたのだとか。
その後は山賊としてその山を通りかかったモンスター達から奪ったもので生活していたらしい。
メルは幼少期から天女の生まれ変わりと言われる程の絶賛の美女で、周りの友人、大人、親から不純な感情を抱かれていたらしく、そのプレッシャーに耐えられなくなり家を出て行ったのだが、純粋な愛を受けず育った彼女は歪んだ愛を求めるようになってしまったらしい。
カルビは貧困層の生まれだったのだが体格とそれに見合った食欲から誰も彼に食事を与えようとはしなかったらしく、遂には自分を抑えきれなくなり村の食料と住民を食い尽くしてしまったと。それ以来自分を抑制する為に食べ物の名を口にし誤魔化しているらしい。
また、彼らの出会いのきっかけは魔王軍によるものだった。
魔王は次々と自分に対して危険な存在と見なすものを捕らえ投獄していたのだが、丁度同じ時期に収容された4人は意気投合。脱獄を試み、当時投獄されていた者達を全て解放したらしい。
国王に抜擢されるわけだ。
私は自分に腹が立った。彼らのことを何も知らないまま変人だと決めつけ、避けようとしていたことに。
彼らはここまで立派なのに、私は小手先だけで危険を回避し、のこのこと生き残ってきた。
結局私は雑貨屋として利用されるだけのモブキャラなのだと改めて思った。