雑貨屋売買日誌18
私は商品の素材を集めに「悲鳴の峠」に来た。
前来た時より少し暗いな。
ここでゲルク達と会った。
きっとこれは理屈とか以前に心理的なことなんだろう。
今までは身内もおらず、ずっと1人で生きてきた。それに比べ彼等と旅をしたのは1週間と少し。
しかし、1度味わうと抜け出せないものだ。仲間の暖かさとは。
二兎追う者は一兎も得ずとはよく言ったものだ。
彼らと旅をしていれば売り上げが落ちた。
だが1人で旅をしていれば楽しみが減った。
長い間忘れていた。誰かに頼ることを。
長い間学んだ。少し自己中な方が生きやすいと。
どちらを取るべきか。
学んだこと、後悔したことは次の判断の為の材料なのだと何かの団長が言ってた気がする。
私は近くの切り株に座り頭を抱えていた。
彼等は国の英雄になり得る。
だが私は今、彼等にその可能性を捨てさせ、たった1人の老人に寄り添ってもらおうと考えている。
私は天秤にかけてしまった。
国の運命と自分の欲を。
今まではそうしてきた。しかし………
………?
肩を叩かれた?
ふと顔を上げ隣を見ると頭にターバンを巻き、黒い道着にマントを羽織った勇者らしき人がいた。
ハロルド「ええ……と、どちら様ですか?」
勇者「あら!?覚えてねぇの?前に貴方の店にお世話になった……」
そうだ!!これは確かに私が売った装備だ!ということは、
ハロルド「フリードさん?でしたっけ?」
フリード「そう!いやぁまた会えるなんて世間は広いようで狭いなぁ!!これから魔王城に向かう途中だったんだけど貴方が見えたんでちょっとね。」
ハロルド「そうですか、魔王城に……魔王城に!?」
フリード「ついこの前国王様からお呼びがかかってね!」
こうなったら、せめて魔王の最期を見届けてやろう!運が良ければゲルク達にも会えるはず!
ハロルド「私も連れて行ってください!」
フリード「え!?え!?いや、危ないぞ!?」
ハロルド「大丈夫です!多分…。私、魔王とも3回程会ってるんで!」
フリード「死んでも文句言うなよ!?」
ちょろい!
[魔王城付近 激戦区]
魔王軍兵A「ドランフの軍勢が来たぞ!!」
魔王軍兵B「ケルベロスとライダー部隊を先頭に突撃しろ!アーチャーゴブリンは砲撃班と共に援護射撃!ダイダラボッチ、オルギア様とセルシウス様のゴーレムが来るまで持ち堪えよ!」
ドランフ兵A「皆のもの!!短期決戦だ!魔界からの増援が来る前に補給物資と武器庫を狙え!」
騎士団長「我々ドルネウス騎士団は魔王の討伐を優先しろ!!ドランフ軍の援護は魔王城門前までだ。
どんな犠牲が出ようとも進め!!」
ドランフ兵B「騎士団長殿へ伝令!只今、ゲルク一行が東港砦より進撃!魔王城門前にて合流せよとのこと!」
騎士団長「ゲルク!?あの魔王城大脱獄の中心という…」
[その頃、魔王城付近 森]
見張り「こっちからも来たぞ!!」
魔王軍兵C「何!?今激戦になっている場所は反対側だぞ!?敵は何人だ!?」
見張り「それが……たったの2人!」
魔王軍兵C「2人!?さっさと討ち取らんか!」
見張り「しかし、戦力の殆どを他の戦地へ導入しているため……しかも、奴はドルネウス騎士団の団員との情報も……」
魔王軍兵C「ええい!!ギルラード様に連絡しろ!」
私達は森をかけ抜けていた。
私は馬でかけ、フリードは周りの木に飛び移りながら私を護衛する形で魔王城へと近づいていった。
ハロルド「それにしてもフリードさん凄いですね!
私の馬もかなりスピードを出しているのについてくるなんて!」
フリード「貴方の売ってくれた装備のおかげで身軽さならこの国の誰にも負けねぇよ!」
フリードは現在の装備は王国の正式な装備。私の売った物より遥かに軽いので彼からすればこんなこと朝飯前なのだろう。
フリード「戦力が他の激戦区に集中してくれて助かったな!俺だけでもここらはしこたま片付いたぞ!……ってそう簡単にはいかねぇか!」
私は彼が動きを止めるのを見て馬を止めた。
この空気、セルシウスやオルギアと同じ感じ。
恐らく魔王の側近だろう。
突然、空から何かが降ってきた。
カルビにも引けを取らない型位、頭からは二本の角、肌は赤く、上半身は裸、下はパンツに網タイツ。右手には金棒。
ギルラード「たった2人に苦戦するなんて、アタシ達の軍も随分ひ弱よねぇ。」
まさかのオカマか。
フリード「ハロルドさん!ここは俺が引き受けます!こういうのは覚悟してたんで!貴方は早く魔王城の中へ!」
ハロルド「はい!」
私は馬で魔王城へと一直進。
ギルラード「そう易々行かせると思って?」
こっちに飛び掛かり金棒を振り下ろす。
素手で止めるフリード。
戦闘スタイル前と変えたな。
フリード「行かせんだよ!」
ギルラード「アタシの金棒を素手で?うふぅん…
ならとことん可愛がってあげるわぁ!ヒヒョォ!!」
彼等が戦闘を始めた。
ならば予定通り、全速前進!
[魔王城 城内]
魔王軍騎士A「くそ!見張りは何してやがった!……って力が入らん!」
魔王軍騎士B「腰が抜ける!なんだこのジジイ!」
これが「キラーフェニックスの指輪」。
体力を消耗する代わりに殺気を数十倍に増幅させる。幹部レベルでなければ戦意喪失は必至。
幹部は今、他の戦闘で手一杯。そして、ここを抜ければ……
魔王「!!!まさか誰よりも早くここに着いたのが貴様とはなぁ!どうやったのかは知らんが、ここに来たということは…我と戦うつもりか?」
ハロルド「当然です!雑貨屋だってやる時はやれるんですよ!」
魔王「ふん、剣術もろくに出来ん老いぼれが。今度は誰に助けてもらう?」
ハロルド「助け?私は1人だ!」
くそが!すっかり魔王役に満足してやがる!
魔王「死ね。」
魔王が一瞬で私の目の前に来た。
自分で言うのもなんだがこれは想定内。
幾ら強いといえどそこらの餓鬼がいきなり実戦でそう動ける筈がない。結局は単純な動きを力で誤魔化す。そして奴には左手がないと言うハンデ。
しかし、私は40年近く戦う猛者達を見てきた。
素人の動きなど手に取るようにわかる。
魔王「ちっ!避けたか!」
想像以上に早い。が、避けれなくもない。
今度は左から来る。
ここだ!
攻撃をかわすと同時に魔王の懐へ手を伸ばす。
火花が飛び散る。次の瞬間魔王は後ろの壁に激突。
護身アイテム フレアサテライト
衛星の様に持ち主の周りを公転し任意で相手にぶつかり火炎攻撃を与える。名前通りの代物。
しかし、あくまで護身用。魔王相手にそこまでダメージは期待できない。
魔王「小癪な……!」
あと2発
壁にもたれている一瞬の内にもう2発飛ばす。
まあ、挨拶程度にはなっただろう。
私にとっては苦しいが…
息がもう切れた。
寄る年並だな。
再び魔王が飛び掛かってくる。
本当にオツム弱いな。
火炎で目を眩ませている間に周りには…
トラップアイテム アイスバイン
極端な乾燥地帯にのみ生息するトゲのついた氷のツタ。
乾燥に対応するために水分を多く含む動物を主な栄養とする食獣植物を罠用に品種改良したもの。
普通ならこの組み合わせは火傷に対し氷という最悪の組み合わせだが、状態異常が効かない魔王の場合急激な温度変化による身体能力の低下を期待できる。
魔王「うぐぅ!!足が……!」
そして追い討ち。
生物兵器 爆弾くっつきむし
動物の脂肪などの成分を変え、火薬とし大爆発を引き起こす。安っぽい名前だがそう例えるしかない。
さぁ、どうだ。
魔王「ハァハァ……くそ…!モブキャラ風情が…!」
ダメージこそ少ないものの精神的に削ったな。
魔王という肩書きに溺れ、強さを過信した者には屈辱的だろうな。そうなれば奴はきっと……
魔王「こうなれば…特別に第二形態で殺してやる……」
そうなるよな。
私はその場で仰向けになった。
だが時間稼ぎは十分だろう。
どの道もう動けるほど体力が残っていない。
今までの中性的な姿は消え失せ、身体からは苦痛に表情を歪ませた顔が複数、マントは禍々しい翼へ変わり、体色が濃い紫に。変化は続き、形容し難い姿へと変貌した。
魔王「死ね!(2回目)」
魔王の鉤爪が私の心臓目掛けて飛んでくる。
その時、1人の少年が不思議な形をした剣で攻撃を止めた。その剣は片方しか刃がなく、楕円形のツバ、紐が巻かれた柄、濡らした様に輝いた刀身。
いつしか読んだ本にあった東洋の剣とそっくりだ。
少年「私の体で、随分好き勝手に暴れてくれたな!」
その一言で完全に理解した。魔王だ。中身が本物の魔王だ。
魔王「フンッ!その体は捨てた!今更貴様にできることはない!」
少年「魔王を舐めるなよ!」
少年は魔王の右手をバラバラにし、私を抱えてひとまず、城の外へ出た。
待っていたのはドルネウス騎士団だったのだが、戦力が増えた(?)のは嬉しい。
取り敢えず私にできるのはここまでだ。




