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甘苦  作者: 上坂ふらり
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水沢すみれ2

「麗也、大丈夫?」

 すみれが僕のことを覗き込む。やめて欲しかった。余計に辛くなる。

「大丈夫、ちょっと酔ったぽい。」

「そう、じゃあこれだけ飲んどいて。」

 そう言って酔い止めと水を差し出してきた。

「私も酔いやすくて酔い止めはいつも鞄の中にあるんだ。」

「ありがとう。」

 それを待っていたかのように電車は止まった。

 えへへと笑いながら引っ込める手をつかんで水だけ飲む。どこか酸っぱい水だった。

 駅を出ると朝より寒くなっていた。寒さに耐えかねて途中でコンビニに入った。すみれはミルクティー、僕はココアを買った。ココアの甘さが僕の体を優しく包む。これも悪くないなと息を吐きながら空を仰ぐ。そのあと一緒に走ってショッピングモールまで向かう。映画は一時半から始まるらしく、一緒にフードコートでご飯を食べようとすみれが提案して僕もそれに同意した。

「私こんなに食べれないかも。」

 パスタを机に乗せて俯きながらそう呟いた。

「まぁ、残しても大丈夫じゃない」

「あぁ、そうだよね……」

「……でも、それ美味しそうだからちょっとちょうだい。」

「あっ、うん!」

 それから学校での他愛もない話をした。

 いい時間になって僕たちはフードから出て、二人で一緒に映画館へ向かった。映画館のあの独特な匂いにつられて徐々に大きくなる歩幅が面白くて声をあげて笑った。

「ポップコーンていつも買うの?」

 チケットを買い終わったすみれは物欲しそうな目で僕を見上げる。

「買うけど、いつも余っちゃうんだよね。多分、二人なら一つで十分だよ。」

 レジに行って一緒にポップコーンとコーラ、オレンジジュースを頼んだ。

 すみれが受け取ると落としそうになったので僕がポップコーンを持った。

 そこから六番のシアターに入る。座って、映画の始まりを待たずにポップコーンに手を伸ばす。思わず手が重なってちょっとドキッとした。

「……なんだか恋人みたいだね。」

 返答に困る。確かに二人きりだから恋人っぽいけど……

 ジーと音が鳴って辺りが暗くなる。ようやく映画が始まるらしかった。

 映画はというと、原作とのギャップがありすぎて別の作品を見ているような気分だった。隣のすみれも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。 

「あぁーなんかなぁー……うーん。」

 映画を見終わった僕らはどこえ向かうわけでもなくただ歩いていた。 

「どうした?」

「麗也くんはどうも思わなかったの?あれはだめだよ役者も演技がなってないし、ラストなんて全然違うじゃん。」  

「まぁそうだけどさあのラストのままだと多分、映画作作れないよ。」

「じゃああの完成度でよかったの?あれは流川あすみ先生を馬鹿にしてるよ。」

「すみれの気持ちはわからないでもないけど、俺は面白かったと思うよ。」

「……そうなんだ。」

 ほんの数分前には想像もつかないくらい冷たい氷のかたまりを吐いて、それはそのまま昇華した。いつしか歩幅は小さくなって一人でいる時より孤独を意識する羽目になった。


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