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甘苦  作者: 上坂ふらり
13/22

榊麗也4

席についてメロンパンの封を開ける。甘い匂いがふわっと広がって食欲をそそる。かぶりつくと口いっぱいに甘さが広がった。外のクッキー生地はサクサクしていて中はもちもち。これ以上ないおいしさだった。

 至福のひと時が終わった後、ビニールを捨てるときに紳士気取りの拓也がニヤニヤしながらこっちに来た。

「おぉー麗也くん。ご機嫌はどうかな?」

「機嫌は別に、どうこうしてるわけじゃないけど……どうかした?」

「どうかしているのは麗也くんの方だろ?」

「なんの心当たりもないけど?」

「うそつけ、すみれと夜まで一緒にいたんだろ?」

 声は明るかったが目は笑っていなかった。

「僕は一緒に遊んだだけだよ。」 

「じゃこれはなんだ?」

 そう言ってスマホの画面を見せつけてきた。そこには一枚の写真が表示されていた。僕とすみれがキスをしている写真が。

「なんでそれがお前のスマホの中にある?」 

 心音がバクバクと音を立てているのを実感しながら出来る限り落ち着いた声で尋ねた。

「……別に遊ぶなと言っているわけじゃないんだ。ただ、すみれは大切な友達なんだ。だから……相手を大切にしないお前と一緒にいて欲しくないんだ。」

 拓弥の言葉は若干矛盾しているが、言わんとしていることはわかる。

 最初のやけに高いテンションは本心を誤魔化すためだっと合点がいった。

 そのあとはまるで口合わせたように反対の方向に歩いて行った。 

 心臓が飛び出しそうになっていた。口の中にはメロンパン甘さが未だに残っていてどこか気持ち悪かった。


「麗也、早くそれ運んで。」

 あぁ、と僕は言って机に手を伸ばした。教室の掃除中にぼーっとしていたらしい。

 言われるがままに机を教室の後ろの方へ運ぶ。冬場は手が冷えて机を持つ手がジンジンと痛む。そのあと雑巾を濡らしに水道場に行った。

 雑巾を水道で濡らすと手がヒリヒリと痛み、ポタポタと水の滴る音が胸に響く。

僕はやっと自分が罪悪感を感じていることに気づいた。

 あぁ、拓也はすみれのことが好きだったんだなぁ。そんなそぶり見えなかったけど。

 雑巾を絞って教室へ向かうと掃除が終わった拓也とすれ違った。一言を交わさずに。振り返って背中を見ると、肩が下がったその姿が雨に濡れた仔犬のように見えた。

 掃除にやる気を出した僕は真面目に掃除を終わらせて帰りの支度をする。そのあと、勇足で階段を降りた。

靴に履き替えて外に出ようとすると麗華が待っていた。

「遅かったね、麗也くん。」 

「掃除当番だったていうのもあるけどすみれがいなかったから。」

「みんなすみれさんに頼りっきりなのね。」

 見透かしたような目で僕を見ながらそう言った。

「じゃ、行こうか。」 

 歩みを進めた僕の一歩後ろあたりを麗華は歩く。

 日に増して刺々しくなる空気は僕の肌を貫いて湖の中心をこれでもかと不気味な赤に染めた。

 恐ろしくなって目を逸らすと二宮金次郎が目に入った。不気味な笑顔を僕に向けていた。

「どうかした?」 

 後ろから声をかけられてビクッとする。

「どうしたの、そんな顔して?」

「いや、なんでもない。」

「そう。」 

 冷めた会話はそれ以上続かず麗華のローファーのアスファルトを踏むカッカッという音だけがこだまのように響いていた。


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