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甘苦  作者: 上坂ふらり
11/22

水沢すみれ4

「これやろう!」

 すみれはエアホッケーを指差していた。いいよと言って僕は百円を入れた。

 白熱した戦いを制したのは僕だった。

 そのあと,僕たちは,側から見ればカップル見えるぐらい遊んだ。ただ,すみれの顔が少し寂しそうだったのが僕の気がかりだった。

「ねぇープリクラ撮らない?」

 ちょうどマリオカートで最終ラップに入る時にすみれは確かにそう言った。

 僕は驚いてコーナーで真正面からぶつかってしまった。そこからは追い越せずすみれに大差をつけられて負けた。

「いぇーい,勝った!」

 あまりの声の大きさに近くの大人が訝しげに僕たちを見た。

 なんか変なんだよな,今日のすみれは。

 そんなことを思いつつ,すみれを引っ張った。

「なぁに,麗也くん」

「さっきのは,どういうこと?」

「そりゃあ,言葉通りだよ。」

 今度はすみれが僕を引っ張ってプリクラにまで連れて行かれた。

「ほらぁ笑って!」

 まさか,付き合っていないすみれとプリクラを撮るなんて思っていなかった。

 パシャッ,フラッシュの光が眩しくてうまく目を開けられない。

「何やってるの。」

 すみれが笑いながら言う。

「次が最後,最高の笑顔で!」

 プリクラのアナウスが鳴るとすみれが僕の腕に腕を絡ませてそして,パシャッ。電気が流れたような気がした。僕はその場から動けなかった。何が起こっているのかわからない。視界が真っ暗だったからだ。徐々に五感が戻ってくる。甘い匂いが鼻腔を突き、細い糸が頬をくすぐる。さっきまでプリクラの画面に写っていたはずのすみれが僕の視界を文字通り埋め尽くす。息ができなかった。それもそのはずだった。僕はすみれにキスされていたのだ。

 ふわっとすみれの唇が離れた。えへへと頬を赤くしながら笑っていた。

「……そろそろ帰ろっか」

「うん。」

 そう言って僕達は帰路についた。電車の中もそれと言った会話はしなかった。ただ,二人で笑っていた。 

「じゃあね。」

 電車を降りた後,すみれはそう言って暗闇に消えていった。いつものぼくなら送っていくはずなのにそれができなかった。 

 家にむかって自転車を漕ぐ,帰りの道は冷たくて、でもあったかいアンビバレンツな感情が僕を支配してくすぐったかった。

 家に着くと栞はいなかった。

スマホを見ると,一通のメッセージが届いていた。

「ごめんね,麗也くん。課題がどうしても終わらなくて,泊まることになっちゃった。」

 目を疑った。今日,確実に見たんだ。知らない男と歩いてる栞の姿を。

 栞が男と泊まる。辛かった。信じたくない,信じたくない,嘘だ嘘だ……

僕の頭の中からすみれはもういなくなっていた。

 奈落の底に落ちたように僕は地面に蹲り,泣いた。この感情を吐露する場所もなくて,そのまま夜を明かした。

 次の日僕は一日中ベッドにいた。特に何をするわけでもなく。ただ感傷に浸っていた。

 栞は一度は帰ってきたがしばらくした後、また出かけてしまった。


その次の日、僕は学校には行った。

 僕は朝の四時くらいに起きて,風呂に入って支度してそのまま家を出た。空腹も感じず、操り人形みたいに道を歩いている。側を拓也が通り過ぎた気がしたが,気のせいだったかもしれない。

 どうして、嘘をついたんだよ。

 頭の中にはそんなことしかなかった。ただ栞のことを考えていた。

 急に体勢が崩れる。階段の端っこが僕の額に当たる。

 変な体勢で倒れて気がついた。僕は階段で躓いたんだ。と。


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