榊麗也
彼女は突然消えた、僕の前から。ただ消えたと言っても実際にいなくなったのではない。彼女が消えたのだ。
連絡がつかなくなったのは3日前の夜だった。土曜日にどこで会うか決めようとしたが一向に既読がつかなかった。その時は気にも止めなかったが3日経つと流石に気になってしまう。どうしようかと悩んで電話をかけようとした時に美伶の友達の芽衣から連絡がきた。
「美伶が別れたいってさ。」
呆気ないもんだった。なんだかんだ3月から7ヶ月間は付き合っていたが一言で、それも他人からの言葉で終わるなんて。
その瞬間に彼女としての美伶は僕の前から消えた。
思い返せば最近の美伶の態度はどこかおかしかった。あれは多分ほかに男ができたんだろう。そう思ったらつい笑ってしまった。別れた奴のことを考えるなんて、僕も落ちたもんだ。僕は大して眠くなかったがベッドに潜りんだ。
榊麗也、これが僕の名前だ。男子の名前に麗を使うなんて親の勇気には感心してしまう。大抵は名前負けするんだろうけどそうはいかなかった。僕が始めて女子と付き合ったのは小学生の頃だった。理由はただ一つ、僕がかっこいいからだ。僕自身はそれを中学生の時に自覚した。名前は覚えていないが頭の良かった女子から眉目秀麗だよね、と言われ流石に照れた。それからというもの周りの女子の視線が気になって仕方がなかった。まさか男子にも告白されるなんて思いもしなかった。そして今に至る。
僕の通っている高校は名の知れた進学校というわけでもなく部活が盛んというわけでもないどこにも1つはあるような高校だ。
校門をくぐると座っている二宮金次郎があざ笑うように見下ろしてくる。毎日表情が違う気がして気味が悪いのだ。
「よぉー榊、美伶とは連絡がついたか?」
唐突にさわやかな朝にはふさわしくない話をふっかけてきたのは辻拓也だった。
「連絡はついてない。けど別れたいってさ。」
「まじかよ。」
自分で聞いてきたくせにあまり興味がないらしい。まぁ拓也はそんな奴だよな。
「お前はそれでいいならいいけど。」
お前はどの立場で物を言ってるんだ。
「7ヶ月付き合ってたんだけど呆気ないもんだったよ。当分は一人を楽しむよ。」
「うるせぇー一人でしか楽しめない俺のことをバカにしてんのか!」
僕の肩を軽く叩くとさっさと2年1組の教室に入っていっていった。何がしたいのかよくわからない。
遅れて僕が教室に入ると早速周りに言いふらしていた。クラスの数人の視線が痛い。僕は気づいていないふりをして席に座った。
「もったいないことしたね。」
眼鏡を押し上げながら話しかけてきたのは隣の席のすみれだった。
「もったいなくはないよこの経験が次の糧になるからね。」
「前にもそんなことを言ってた気がするけど私の気のせいかな?」
「気のせいだよ。デジャヴなんてよくあることさ。」
「気をつけた方がいいよ。最近麗也くんの噂が女子の中で流れてるから。共通の敵を見つけた女子は怖いよー。」
そんなことはわかってるつもりだ、だから言わないで欲しかった。
僕は机に倒れる。
—もったいないか……その通りだよな、でもやめられないんだよな—
顔を上げるといつのまにかクラスが人で溢れていた。
「みんな座ってー」
1組の担任の滝先生が甘ったるい声で言う。
滝先生は新採用で英語の先生だ。かなりの童顔で可愛いとはこの人のための言葉だとほざく輩もいる。
ホームルームが終わるとクラスみんなはのろのろと立ち上がり次の授業の準備を始めた。
「気をつけ。礼、ありがとうございました。」
6時限目の科学が終わった、
「うわー掃除だ。」
「めんどくせぇ」
「昨日俺拭き掃除やったからお前やれよ。」
僕はくだらない言い争いを横目にそそくさと教室から出た。




