温泉とロヴィ
「・・・やはり理解できない、湯に体を浸したからと言って何になるんだ。これだけで本当にいいのか、トーヤ。」
コウとレアに温泉に入ってもらう事になったけれど、コウはあまりピンとはこなかったようだ。
レアは、チルと一緒に別空間の女湯に行ったので様子はわからない。
取り敢えず、説明しないとな。
「うん、入り方としてはあってるよ。それと、効能はいろいろあるよ、血の巡りが良くなったり、体の緊張がほぐれることで疲労回復につながったり。」
「そんなもの、魔法で代用すればいいだけじゃないか?」
現代っ子め・・・いや、実際今はそうなのかもしれないか。
うーん、他には。
「あとは温泉毎の成分によって変わるけれど、傷や病気の治癒にも・・・いや、何より気持ち良くない?」
「・・・まあ、確かに。多少は心地いいかもしれない。だが、しかし、だからといって・・・」
考え込んじゃったか。
俺もリラックスしながら、取り留めのないことを考え始める。
お爺様との会談で緊張した反動だろうか、温泉が染みるなあ。
うーん、しかし温泉っていつぶりだっけか。そういや、トラッカーの船内って温泉だったな。
あれも何か魔法なら、仕組みを教えてもらっておけばよかった。
そういえば、ロヴィどうなったかなあ。
トラッカーの改造後の姿含めて気になるし、後で聞いてみるか。
「って、おいコウ!大丈夫か!?」
「・・・あつい。」
ああ、のぼせちゃったか。浴槽から引きずり出して、水で濡らしたタオルで頭を冷やしてやる。
うわ言のようにコウが何かつぶやき続けている。
「・・・そういうことか・・・そういうことだったんだ。」
大丈夫だろうか・・・?これはチル呼んでおいたほうがいいかなあ。
取り敢えず体を乾かして服を呼び出す。
『ごめんチル、ちょっとこっち来れる?』
呼んでおいて気づいたけれど、入浴中だったりしないかな。
『はーい!』
止めようと思う間もなくチルが転移してくる。良かった、服は着ていた。
意外と、俺達は長く湯につかっていたようだ。
「どうしたの、トーヤ!・・・あれ、コウ大丈夫?」
「のぼせちゃったみたいでさ、回復とかできない?」
そうチルに頼んだ直後、コウがそれを片手を上げて制してくる。
「・・・いや、このままにしておいてくれ。大丈夫だ。」
いや、きつそうに見えるけど。
「温泉、確かにいいものだな。思考が普段より纏まりやすかった。済まないが、俺は少し横になっているのでトーヤは先に出ていてくれないか。回復は大丈夫だ、少しこの状態で居たい。」
「ああ、うん。そう言うならまあ出るけれど、無理しないようにね。」
「きつかったら呼んでね!」
「いや、その時はリフに対処してもらう。大丈夫だ。」
それもそうか、コウも今は妖精が付いてくれてるんだもんな。
転移を使って外に出る。
レアが待っていたが、湯上がりの様子はなく普段と変わらなかった。
温泉入ったんだよね・・・?
「レア、温泉はどうだった?」
「チル様に指南いただきましたが、良いものですね。こちらのお部屋は維持いただけるのでしょうか。」
よかった、気に入ってもらえたみたいだな。
温泉に入った様子が見えないのは、出てから時間がたっているからだろう。
しかし、そうだった。父が気に入らなかったら、変更されるかもしれないんだな。
「俺も気に入ってるから、父上に残していただくようお願いしてみるよ。それとチル、地獄へ通信って出来たりする?」
「できるよ!でも、誰に通信するの?ショーキ?」
「ロヴィにちょっとね。トラッカーの温泉について聞いておきたくてさ。」
宇宙を巡るたびの最中に、温泉を望むのはかなり贅沢な気がする。
でも、祖父も喜んでくれそうだし無駄ではないよな・・・
「ロヴィは今改装中だから難しいかも!ちょっとまってね!」
チルの羽根が少し開き、薄く輝いている。
遠距離通信してるとこうなるのかな。
「大丈夫みたい!つなぐねー!」
『トシヤ様、ご無沙汰しております。わたくし、現在改装しておりまして、音声だけでの通信となりますがご容赦下さい。』
「全然気にしてないよ、というよりごめんね忙しい所に。」
『いえいえ、トシヤ様のお役に立てるならいつなりと・・・しかし、大きな試練を乗り越えられたようですな。』
大きな試練・・・リンドの事か。
ああ、そうだった。指輪の件、謝らないと。
「そうだ、ごめん。貰った指輪、あれのお陰で命は助かったんだけど、壊れちゃったんだ。」
『何を謝る必要が御座いましょうか。その身が主人の命を救ったと有れば、指輪も本懐でございましょう。』
穏やかな声でそう言われると、何も言えなくなる。
そういう終わり方をしたいと、羨んでいるように聞こえたから。
しかし、そんなしんみりした空気をチルが壊す。
「ロヴィ爺は長生きしてね!」
ともすると、それは3万年を孤独に過ごしたロボットには残酷な物言いだったかもしれない。
だが、ロヴィはこころなしか嬉しそうに、
『ええ、もちろんです。旅をするお約束も有りますしな。』
そう返してきた。
そうか、それでいいのかもしれない。
頼られる事、人の役に立つことで、これまで存在し続けた意味が見いだせるのなら。
「そうだね、俺も楽しみにしてる。それとロヴィ、船の温泉ってどこから出してたの?」
『ああ、あれはですな、初代様の持ち込まれた古代遺物でして、魔力を湯に変換する魔石なのです。まだ暫く改装はかかりますからな、そちらにお送りしますので旅の際にご利用下さい。』
いいのかな、聞く限りだとすごく高価な物に思えるけれど・・・
「ええっと、それって結構高価なものじゃないの。」
『はて、どうでしょうなあ。今の時勢、日常的に湯浴する文化も廃れたようですしな。大した金額にはなりますまい。それよりは、先の道中のように毎日使っていただけたほうが、道具としても望ましい事でしょう。』
「そっか、ありがとう。今度の旅も風呂が楽しみになるよ。」
それから暫くは、お互いの現状を報告しあった。
トラッカーは、物のついでとばかりに最新技術を詰め込まれているらしい。
コームからは「せっかく金を出すのですかラ、実験に付き合いなさイ。」なんて言われたそうだ。
・・・まともな改装であることを祈ろう。