表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/74

匕首 散華

「ふむ・・・それで、顔合わせの話であるな。基本的に訪問経路や道中の役割は、お前が主導で決めると良い。」


いくら基礎知識持ちとはいえ、生まれたばかりの子供に雑すぎない?

いや、貴種間の交流と集団生活を経験させる事が目的かな。

てことは、日程に余裕が持たせてあるんだろうし、あまりシビアには考えなくていいんじゃないかな。


「となると、主導とは言っても、基本的には議長のような役に回るのが望ましいでしょうか。役割は己の適正を、参加者それぞれに主張させてから選定を・・・」


あ、これって能力の低い子のあぶり出しも兼ねてるのか。

能力が有るように振る舞う子をここで確認して、それでその子たちは冷遇でもするのかな?

・・・いや、宇宙規模の領地だぞ。無能のまま居ていいものではないだろう。

廃嫡?再教育?いずれにせよ余り良い扱いされなそうな気がする。


「ふむ、続けてよいのであるぞ。」いかん、考えすぎた。


「失礼しました。ええと、選定してそれらの役割を果たしているかは私が見極め、過不足があればそれぞれ配置の再転換などを実施します。概ね、領地運営の真似事を行う認識でよろしいしょうか。」


だんだんと、祖父の顔が楽しげになってきている。

おかしなことを言っていないといいんだけれど。


「うむうむ。それで、経路はどう決めるのであるか。」


「地理、航路、転送網、艦隊行動等に適性、または興味のあるものを募り、彼らに意見を出させた後、私が決定します。」


「クク・・・ほう、多数決ではないのであるか。」


多分だけれど、これで有ってると思うんだよなあ。

もう、祖父は笑いを隠そうともしていない。これが嘲笑からくるものではありませんように!


「はい、代表は私ですから。意見を参考にはしますが、責任は私が取るべきかと。」


「ハァーハッハッハッハッハッハ!!うむ、うむうむ。おもしろい子であるなあ。コームが本当にハーキルの子かと、疑うのも頷けるわ。」


これは、いい反応なんだろうか。まだこの人のことよくわかってないから判断できない。


「おじいちゃん!何がそんなにおもしろいの!」


いかん、チルが爆笑に釣られた。目をランランとさせながら失礼な口調で祖父に話しかけている。


「いやなに、貴種たる者の義務をこれほど自然体に果たそうという子は、ワシは初めてみたのである。面白いではないか、トーヤ。」


ニヤリと笑いこちらを見る。渋いおじいちゃんがやると絵になるなあ。

さて、でもどう返したものか。貴種たる者の義務とか知らないぞ、俺。


「ええと、恐縮です?」


チルと祖父がポカンとした後、二人で笑い出す。

未来人の常識も笑いのツボも、よくわからん・・・。

なんか、変な発言だったかなあ。素直に謙遜したつもりなんだけれど、変な伝わり方してそうだ。


「あー、すまぬな!これ程笑ったのは久しぶりであるわ!クク、そうであるなあ、これは小遣いをやらねばならぬだろうなあ。」


そう言うと祖父の手が輝き、「ほれ」と磨き上げられた木の棒を投げてよこされる。

なんだこれ?


「おじいちゃんなにこれ!なんの棒?」


「ハハハハハハ!確かに、棒しかみえぬな。だが、切れ目が見えるであろう?そこから抜ける。」


抜ける・・・?確かに切れ目が見えるので、そこから引っ張ってみると、赤い刀身が現れる。

短刀?いや、匕首っていうんだっけこういうのは。


「匕首、散華である。散る華と書いて、サンガと読む。魔を断つ業物であるぞ、己で使うなり、下賜して部下の戦力を底上げするなり、好きにつかうと良い。」


なんだその俺の心をくすぐる設定は。真紅の刀身もいいね。

魔を断つってどういうことなんだろうか、魔法防御無視とかかな。

っと、いかんいかん、お礼を言わないと。


「有難う御座います!大事にします!」


「うむうむ、孫の喜びはワシの喜びであるわ。だが、まあ、助言しておくとすればそれは下賜するのがよかろう。お前の目で、それを下賜するに足る者を見極めるのである。」


ええー、もったいない。あまり物欲のない俺だけれど、この美術品のような美しい刀身には正直惹かれる。

・・・いや、でもそうか。武装って面でみると自前の魔導刃で事は足りそうだもんな。

しかし、下賜ねえ。どうすればいいかな。


「すぐに答えは出ぬものである、焦らず考えるとよい。この道中、お前の信に足る者がもし現れれば、それで良い。だが、現れなかったとしても、次の機会を待てば良いだけである。」


「はい、見極めるよう努めます。」


そう返すと、祖父は穏やかな笑みを浮かべて、満足げに頷いてくれた。


「うむうむ。それでは、ワシは退出するが、会談の時間は2時間取るよう言ってある。後一時間はあるのでな、その間温泉を好きに使うと良い。」


そう言うと、また何も無い所にふすまが生えてくる。


「お爺様、有難うございました!」


去ろうとする祖父に、改めてお礼を言うと、片手を上げ軽く振ってくる。

気にするな、ということだろう。

結局、終始祖父のペースだったけれど、なんだかんだで楽しいひとときだった。


さて、コウとレアにも温泉の良さを伝えないとなあ。



・・・まさかとは思うが、混浴じゃないよなここ。

2019/11/02:誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ