匕首 散華
「ふむ・・・それで、顔合わせの話であるな。基本的に訪問経路や道中の役割は、お前が主導で決めると良い。」
いくら基礎知識持ちとはいえ、生まれたばかりの子供に雑すぎない?
いや、貴種間の交流と集団生活を経験させる事が目的かな。
てことは、日程に余裕が持たせてあるんだろうし、あまりシビアには考えなくていいんじゃないかな。
「となると、主導とは言っても、基本的には議長のような役に回るのが望ましいでしょうか。役割は己の適正を、参加者それぞれに主張させてから選定を・・・」
あ、これって能力の低い子のあぶり出しも兼ねてるのか。
能力が有るように振る舞う子をここで確認して、それでその子たちは冷遇でもするのかな?
・・・いや、宇宙規模の領地だぞ。無能のまま居ていいものではないだろう。
廃嫡?再教育?いずれにせよ余り良い扱いされなそうな気がする。
「ふむ、続けてよいのであるぞ。」いかん、考えすぎた。
「失礼しました。ええと、選定してそれらの役割を果たしているかは私が見極め、過不足があればそれぞれ配置の再転換などを実施します。概ね、領地運営の真似事を行う認識でよろしいしょうか。」
だんだんと、祖父の顔が楽しげになってきている。
おかしなことを言っていないといいんだけれど。
「うむうむ。それで、経路はどう決めるのであるか。」
「地理、航路、転送網、艦隊行動等に適性、または興味のあるものを募り、彼らに意見を出させた後、私が決定します。」
「クク・・・ほう、多数決ではないのであるか。」
多分だけれど、これで有ってると思うんだよなあ。
もう、祖父は笑いを隠そうともしていない。これが嘲笑からくるものではありませんように!
「はい、代表は私ですから。意見を参考にはしますが、責任は私が取るべきかと。」
「ハァーハッハッハッハッハッハ!!うむ、うむうむ。おもしろい子であるなあ。コームが本当にハーキルの子かと、疑うのも頷けるわ。」
これは、いい反応なんだろうか。まだこの人のことよくわかってないから判断できない。
「おじいちゃん!何がそんなにおもしろいの!」
いかん、チルが爆笑に釣られた。目をランランとさせながら失礼な口調で祖父に話しかけている。
「いやなに、貴種たる者の義務をこれほど自然体に果たそうという子は、ワシは初めてみたのである。面白いではないか、トーヤ。」
ニヤリと笑いこちらを見る。渋いおじいちゃんがやると絵になるなあ。
さて、でもどう返したものか。貴種たる者の義務とか知らないぞ、俺。
「ええと、恐縮です?」
チルと祖父がポカンとした後、二人で笑い出す。
未来人の常識も笑いのツボも、よくわからん・・・。
なんか、変な発言だったかなあ。素直に謙遜したつもりなんだけれど、変な伝わり方してそうだ。
「あー、すまぬな!これ程笑ったのは久しぶりであるわ!クク、そうであるなあ、これは小遣いをやらねばならぬだろうなあ。」
そう言うと祖父の手が輝き、「ほれ」と磨き上げられた木の棒を投げてよこされる。
なんだこれ?
「おじいちゃんなにこれ!なんの棒?」
「ハハハハハハ!確かに、棒しかみえぬな。だが、切れ目が見えるであろう?そこから抜ける。」
抜ける・・・?確かに切れ目が見えるので、そこから引っ張ってみると、赤い刀身が現れる。
短刀?いや、匕首っていうんだっけこういうのは。
「匕首、散華である。散る華と書いて、サンガと読む。魔を断つ業物であるぞ、己で使うなり、下賜して部下の戦力を底上げするなり、好きにつかうと良い。」
なんだその俺の心をくすぐる設定は。真紅の刀身もいいね。
魔を断つってどういうことなんだろうか、魔法防御無視とかかな。
っと、いかんいかん、お礼を言わないと。
「有難う御座います!大事にします!」
「うむうむ、孫の喜びはワシの喜びであるわ。だが、まあ、助言しておくとすればそれは下賜するのがよかろう。お前の目で、それを下賜するに足る者を見極めるのである。」
ええー、もったいない。あまり物欲のない俺だけれど、この美術品のような美しい刀身には正直惹かれる。
・・・いや、でもそうか。武装って面でみると自前の魔導刃で事は足りそうだもんな。
しかし、下賜ねえ。どうすればいいかな。
「すぐに答えは出ぬものである、焦らず考えるとよい。この道中、お前の信に足る者がもし現れれば、それで良い。だが、現れなかったとしても、次の機会を待てば良いだけである。」
「はい、見極めるよう努めます。」
そう返すと、祖父は穏やかな笑みを浮かべて、満足げに頷いてくれた。
「うむうむ。それでは、ワシは退出するが、会談の時間は2時間取るよう言ってある。後一時間はあるのでな、その間温泉を好きに使うと良い。」
そう言うと、また何も無い所にふすまが生えてくる。
「お爺様、有難うございました!」
去ろうとする祖父に、改めてお礼を言うと、片手を上げ軽く振ってくる。
気にするな、ということだろう。
結局、終始祖父のペースだったけれど、なんだかんだで楽しいひとときだった。
さて、コウとレアにも温泉の良さを伝えないとなあ。
・・・まさかとは思うが、混浴じゃないよなここ。
2019/11/02:誤字修正