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5手目:歩成

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「本当によろしいのですか、カツミ殿。ありったけの武装を詰んで行ったほうが・・・」


「あー、身軽さが信条なんで。武装庫はむしろ空けときたいんですわ。すんませんね、せっかくのご厚意を。」


初日の坊っちゃんの戦いを見た。


正直、シビれた。


あの圧倒的な速さ。あれで領主権限未使用ってんだからイカれてる。

なるほど、あんな化け物に勝てるんなら、政庁に即採用されるわ。

仮想空間で高い戦闘技術を持った奴に、現実側の身体を改造して同等の肉体を用意すりゃあ、強靭な兵士の出来上がりってわけだな。


俺はまあ・・・馬鹿みたいに伸びた動画のお陰で、食うには困らねえんだが・・・

正直、報酬なんかもはやどうでもいい、俺が淡々と磨いてきた戦闘の技術が、圧倒的な怪物相手に、どの程度通じるものか試してみたい。

皆似たようなもんなんだろうな、負けた連中も大半は笑ってやがった。それくらい圧倒的だった。

だが、だからこそ、そんな化け物に一矢報いてみたい。


「いい年してこんなアツくなってるなんて、わらっちまうでしょ?」


わざわざ武装構築に立ち会ってくれているGDQP社総会長サマに、胸の内を吐露してみる。

我ながら舞い上がってんなあ。


「そんな事はありませんぞ!カツミ殿!私、年甲斐も無く興奮しております!そうです、せっかくならば一太刀浴びせようではありませんか!・・・しかし、であればもう少し装甲を足したほうがよろしいのでは?」


正直、大振りで対抗できる気がしねえ。ならばこそ武器は同じく魔導刃。

銃振における機械種の特性は、構成部品の換装による防御強化と、武装庫に格納した武器による、豊富な攻撃手段だ。


だが、それらをすべて捨てる。


防御は捨てるが鍔迫り合いに耐えうる最低限の強度を維持して主要部分を構成し、武装は魔導刃1本のみ。

重武装や硬い金属を捨てることで速度を得る。

頭部には閃光装置を装着しておく。武器としては使えないが、軽量でちょっとした目眩ましになる。

機械種の魔力は低いが、武装を魔導刃1本に絞れば、斬るには困らん。


「あの魔導刃を、完璧に防ぐ装甲なんざありゃしませんよ。なら斬りあったほうがマシだ。」


「なるほど・・・それでしたら、計器類も必要ですな。」


お言葉に甘え、計器類と中央処理装置は最高のものを用意して反応を限界まで上げる。

これで、俺の操作しうる限界まで高速化した組み合わせになったはずだ。



恐らく、坊っちゃんの防壁は並の攻撃は通さない。

魔導刃の出力も異常だ。

刃渡りを絞り、極限まで強度を上げた俺の魔導刃で、ギリギリ切り結べる程度だろう。

あの速さや出力を見るに、相当の魔力量をもっているだろう。魔力切れは狙え無いと思ったほうがいい。

だが、恐らく坊っちゃんは戦い慣れてない。


魔力が低いからこその切り札。コレが刺さればあるいは・・・




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「次、カツミ=ハラシ。」


淡々とした声で、俺の名を呼ばれる。意外と緊張しないもんだ。

まあ、ここで負けてもキャラロストもないしな、

大した問題にはならん。気楽にいこう。


さて、坊っちゃんは20秒ほど何もしなけりゃ、斬りかかってきてくれる。

先ずは先手を取ってもらうかね。


その間、少しでも様子を探っとくか・・・魔導刃を起動し、俺を興味深げに見てるな。

これまで当たった機械種は、重装甲しかいなかったからかねえ。

しっかし、体の端々までしっかり観察してんなあ、真面目だねえ。

こりゃ油断はしてくれんだろうな。


これまでの坊っちゃん(カイブツ)の初手は大抵首狙いだ。一撃で大多数の頭が切り飛ばされた。

重装甲相手だと別だったが、細身で軽装な俺相手なら、変わらず首狙いになるんじゃねえかな。


さて、人の形をした怪物を退治するクエスト受注だ。

まずは初手を防げるか。



怪物の姿が右に()()る。



強化した光センサが僅かに、俺の首筋を狙う魔導刃、その軌道を捉え、


鈍い音が響く。


視覚からワンテンポ遅れて、打ち合いで生じた音が聴覚に届き、防げた事を確信。

あぶねえあぶねえ・・・ギリギリだったな。



怪物が後ろに飛び退く。律儀だねえ、反撃を警戒したんだろな。


敢えてゆっくりと体を向ける。さあて、無駄に深読みして思考のリソースを削ってくれ。

俺には余裕なんざ無いが、機械種の今、それは表情に出ねえ。



怪物の姿が右に()()る。



同じ手・・・いや!デコイでフェイントかよ!

左に回った怪物の刃を俺の刃が弾く。関節の衝撃吸収素材が軋む。

重い・・・だが、踏みとどまり、余裕を装う。


また距離を取られる。だが、さっきより近いな。

俺に遠距離攻撃手段は無さそうだと、判断したのかね。


さて、単発じゃ仕留められなそうだろ?なら次に取る手は・・・



怪物の姿が右に()()る。


動き出しから最高速までの加速にかかる時間が異様に短えが、最高速が常に一定で予測しやすいんだよ。

処理が慣れてきたぜ。


1撃目を防ぐ。

軽く一歩下がった怪物が、再度右にブレる。


連撃できたな、振り返り、足狙いの2撃目を防ぐ。


腕狙い、首狙い、首狙い。


防ぐ、防ぐ、防ぐ。


どうだい、小回りしつつの連撃じゃ防がれそうだろ?

切り替える必要があるよな?

さあ、次の手を考えろ。攻撃に思考を偏らせろ。



デコイのフェイントを織り交ぜつつの首と足とを狙う連撃。防ぐ。

違うな。


足狙い、防ぐ。後退を挟んでの左右にデコイを飛ばすフェイントから、足狙い。防ぐ。

コレも違う。


俺の後方へ大回りしてくる。

そう、それだ。首狙い、僅かに振り返るテンポを遅らせて、防ぐ。


平静を装うかのように、ゆっくりと正対する。

どうだ?狙いたくなる隙じゃないか?


狙いは成功した。



連撃のシメに後方への大回りを織り交ぜてくる。

同じく僅かに遅らせて防ぎ、軽く姿勢を崩す。

そうだ、怪物。お前の狙いは成功しているぞ、もう一度来い。


2連撃、後方に飛び退き、左右に軽く回り込みつつ揺さぶってくる。

ここだな。


後ろに回った怪物の視界を閃光装置で奪う。


「クッ!」っと怪物が年相応の声をあげつつも、振るった刃は止まらない。



振るわれた刃で、俺の腕が宙に舞った。

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