模擬戦開始
大歓声を手で制し、コームが演説を続けている。でも正直、歓声に気圧されて内容はまったくはいってこなかった。視界を埋め尽くす人、亜人、ロボット。何故こんなに参加しているんだろう。
でもまあ、そうか、前世で考えるなら自作のゲームキャラで戦って、勝てたらいい身分が貰えるって話だからな。そりゃあ参加するよなあ。
などと考えている間に、コームの演説が終わる。次は父のようだ。
「では、本件の規定事項を伝える!禁止事項はない!勝利の判定は・・・」
なんで父がルール説明するんだろう。俺のイメージだと家令が説明で当主が演説なんだけど、違うんだなあ。
予め聞いてはいたけれど、ルールとしては
1,攻撃手段は何でも有り
2,致死ダメージを与えるか場外に叩きつけたら勝ち
以上。シンプル。
しかし、どうして俺の修練の為に、こんな大げさな事になってしまったんだ。
てっきり、アルバイト面接会場みたいなところを用意して、「次の方どうゾ。お名前と自己PRの後、トーヤ様とご戦闘下さイ。」みたいな感じで、淡々とやっていくイメージをもっていた。
気圧されっぱなし、想定外の連続。そんな混乱を、流れる時間は待ってくれるはずもなく、あっという間に模擬戦が開始となる。
「でハ、各々抽選で割り当てられた順番に従イ、闘技球に転移されル。力を尽くすようニ。」
ええと、闘技球は中央に100m四方の闘技台があり、それを直径200Mの球体が覆っているんだったな。
球体の外壁が場外扱いと。加速をかけていると100M程度なら1秒かからない、飛び出さないように気をつけないと。
そうこうしている間に、両親は退場するようだ。
転移の直前、父が唐突に条件を追加してきた。
「そうだ、トーヤ。必ず相手に先手を譲りなさい。ただ、20秒待っても手を出してこなければこちらから仕掛けていいよ。」
え、先手撃って奇襲しまくるつもりで、速度をあげてデコイの練習したのに。
唐突な条件付与に驚いて、間の抜けた返事をしてしまう。
「え、はぁ。」
「期待しているよ。」
爽やかに笑って消えるヒゲダンディ。・・・先に言っておいてよ。
「大変ね、トーヤ!」
チルがくすくす笑いながら声をかけてくる。何が面白かったんだろう。
「うーん・・・まあやるしかないか。20秒のカウントは頼んでいい?」
「うん、任せてー!」
「それでハ、一人目。サミ=トゥスン。」
・・・っと、転移させられた。正面にはいかにも魔法使いですといった具合に、黒いゆったりしたローブを羽織っている女性。頭に生えている猫耳は、自前なのかアクセサリーなのか。
先手を譲れ、か。えーと、まずは防御の準備を・・・
「魔法くるよー!」
やばい!チルの戦闘モード移行も強化もしてない!
対応しないと!!
岩石が飛んで来た・・・ゆっくりと。
防御隔壁で打ち消しつつ、駆け出す。
相手は反応できていない?釣りだろうか?
念の為デコイを飛ばしてみる。
目の前に飛ばしたそれに「ヒッ」っと驚き杖で殴りかかった。
反応が遅い、これは単純に戦い慣れてないのか?後方に回って魔導刃で首を切り飛ばす。
血しぶきは上がらない。そういう仕様なんだろう。
何かの反撃が来ることに備えていたけれど、無駄だった。
魔導刃の調整を頑張ってよかった。太いままだと、顔を消し飛ばすところだったなあ。
・・・いや、切り飛ばすのも消し飛ばすのも大差はないな。
想定外に余裕だったからか、余計なことばかり考えてしまう。
「ウオオオオオオオオオオオオオ!」
歓声があがる。VRなのに音の圧がすごい。リアルにつくられてるんだなあ・・・
「次、カーリル=ウォルオン。」
首のない女性が消え、開始線に再度転移させられる。
しかし、チルは余裕だったから戦闘モードに入っていなかったんだろうか。
いや、慢心はよくない。準備はしっかりしよう。
「チル、戦闘モード移行、強化一式頼む。」
「戦闘モードはまだダメみたい!強化はかけるね!」
・・・まだってなんだろうか。しかし、今日のチルは輪をかけてゆるいなあ。
強化の影響で思考が加速する。
次は、刃が赤く光る薙刀を携え、緑色の革鎧を着込んだ男性だ。
じりじりと動いてはいるけれど、距離を詰めるというよりは何かを警戒しているようだ。
仕掛けてこないってことは、様子見からカウンター狙いなのだろうか。
「20秒経ったよ!」
攻めるか。
取り敢えずデコイを左側に飛ばして、逆側から後方に回り込む。
デコイに反応したようで、赤い光が長く伸びた薙刀で切りかかってくれた。
・・・後方から首を切り飛ばす。
「次・・・」
初日はこうして、守るか待つかした後、死角を取って首を斬る。その繰り返しだった。
それなりに警戒はされているようなんだけれど、速度についていける人が居ない感じだ。
攻撃に関しては、余り練習にならないような・・・。
いや、でもデコイの練習をした成果は出たわけだし、良しとしよう。
それに、相手の攻撃はいろいろ体験はできたと思う。
・・・回避も防御も、余裕で間に合う程度ではあったけど。
「楽勝だったね!でも、明日からもうちょっと変わると思うよ!」
肩透かしを食っていた事を見抜かれたんだろうか、チルが補足してくれる。
「参加希望日が選べるんだけれど、初日を選ぶ人はあんまり考えてない人だからね!」
考えてない人・・・?ああ、後の人のほうが俺の能力を見てから対策出来るんだもんなあ。
「そっか、てことは後からのほうが強い人が来る可能性高いんだね。」
「うん!明日もがんばろうねー!」
そういうチルへ、お礼代わりに頭をなでつつ考える。
お祭りノリで参加してたり、人生の転機を狙っていたりと、心構えは人それぞれってことだろう。
今日余裕だったからといって、明日以降も油断はしないようにしないとな。
そう言えば、動画の人・・・カツミさんだったっけ?
今日は名前を聞かなかったけど、いつ来るのかな。