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4手目:

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『GDQP社前です。ご利用有難うございました、カツミ様。』


輸送版の横に座ったARナビゲータが告げる。

4層のそれと比べると、倍程の大きさをしている輸送板には、専属でナビゲーターが座ってくれるのだ。ARだが。

ナビゲーターが耳障りの良い声で到着を告げ、『いってらっしゃいませ。』とにこやかに手をふる。

これだけでも、3層に上がった甲斐が有るってもんだ。


搭乗者の嗜好に合わせたモデルが選択されるらしいが、出る所は出て凹むところは凹んだ大変良い体つきをしており、まさに俺の好みそのもの。その上、メガネを掛けた金髪の妖精種なのも俺的に非常に良い。


「カツミ様、お呼び立てして申し訳ございませんでした。」


そうだ、呼ばれてここに来たんだったな。金髪の妖精種(エルフのネエチャン)に手を振るのを止めて、振り返る。社屋の入り口には、執事風の男が立っており、挨拶もそこそこに、本来必要な手続きを全てすっ飛ばして会議室へと連行されてしまった。・・・魔紋での認証登録、とやらは地味に楽しみだったんだがなあ。


「遅れて申し訳ない、カツミ・・・いや、えー、カツミ=ハラシです。」


現実世界側でフルネームを口にするのなんて、何年ぶりだろうな。


「ようこそ我が社の英雄カツミ殿!それでは、今後の方針について会議いたしましょう!先ずは自己紹介をさせていただきます。私は総会長の・・・」


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結局、急いで呼び出してきた割に、会議では大した話は出なかった。

主要役員の自己紹介、この件が会社にとっていかに大きな商機であるかの解説。途中まではマトモに思えていたが、その後出てきたのは、我々すごい、我々すごいで要約できてしまう、程度の低い話題ばかり。

次期領主候補筆頭様との繋がりを得た事で、舞い上がってしまっているのは理解できるが、自慢話をするためだけに呼んだのかと疑ってしまう程だ。


「それでは、カツミ殿は今後も、スマートな動画を作成するということで。」


結局、決定した今後の方針は、俺の地味な動画をそのまま継続しろ。との事であった。

スマートと言い換えてはくれているが、地味というニュアンスで使っていることはバレバレだ。

悪かったな、地味で。

・・・だが実際、人気無かったからなあ、暗殺で立ち回る動画。ゲーム内での総合評価は上がるんだがなあ。


まあ、俺に対しての好待遇は約束してくれており、部屋もVR設備も会社持ち。ソフトも最新を発売する前に支給してくるそうだ。堪らないね。

そうして、うきうきとした気持ちを抑えること無く、与えられた部屋へと向かっている。


区画ごとに木が植えられているという噂は真実だったようで、一定間隔に木を見ることが出来る。

なんて贅沢な事だろうか。やはり、あの空間だけで4層民100人は押し込めそうだ。


会社と部屋は大した距離は無かったようで、あっという間に到着してしまう。


『ご自宅に到着しました。お疲れさまでした、カツミ様。』


金髪の妖精種がニッコリ笑う。顔がニヤける。

・・・このARモデル、マイルームに買えないかな。後で見てみよう。


共同玄関の、セキュリティ認証に会社で受け取っていたキーコードを義手経由で送付する。

センターだった頃とはえらい違いだな。部屋に入る度に認証が要るとは。

そういやあ、義手もモデルチェンジしてくれるって話だったなあ。

現実側に居る事が余り無いから、正直どうでもいいんだが。


そうして到着した我が家は、想像していたとおり広すぎた。

ふらふらと一周まわったり、壁を触ったりしてみたのだが落ち着かず、結局逃げるようにVRに入ってしまう。


『おかえりなさい!カツミ様!』


・・・殺風景なマイルームに、輸送板でもてなしてくれたエルフがいる?

買った覚えはないが・・・これも福利厚生の一環だろうか?

そう思いAIにたずねてみると、予想通りで、GDQP社より秘書として譲渡されたそうだ。

気が利きすぎている。いたれりつくせりとはこの事だな。だが、その期待の分は結果を出さんといかんか。


プレッシャーに後押しされ、次回作の企画を立てようと決意。

手始めに、前回の動画の反響を見てから方針を練るか。

最近は手続きに追われて、確認していなかった投稿済み動画の情報を見る。

おや、表記がおかしい、妙に再生数が多いような。


・・・7500億再生?


なんだこれは。

これまで、10万再生程のいくつかの動画からの収益で、ほそぼそとやってきていた俺が、7500億・・・?

げ、原因を、原因を探らないと。そう考え、投稿サイトを確認してみたらアッサリと判明した。

貴種様より頂いた投げ銭の影響で、収益ランキングに乗っており、そこから大量のアクセスが有ったようだ。


うわあ、評価・感想も賛否両論じゃねえか。

地味で見どころが少ないって意見が多いが、渋い、ポイント稼ぎの効率は良い、等の意見もある。

まあ、地味なのは事実だし、否定意見があるのはしかたねえな。


・・・だが、それでも、これだけの評価があると少し舞い上がっちまうな。

もう、方針は前回と同じにして、はやいところ次の動画を作るか。


そう考えていると、

『カツミ様、至急確認のタグがついたメールを受信しております。』

そんな、前にも有ったような事を秘書の口が告げる。


GDQP社からかな・・・?まあ、開けてみよう。送り主は・・・中央政庁?


俺の動画が、領主様に評価された・・・?

俺はご子息様の戦闘訓練に参加する優先権を得たので、是非参加して欲しい・・・?



確信する。


俺の人生はバグった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第1話からここまで、一気読みさせていただきました。主人公より、カツミのストーリーが気になってならない一読者です。本筋の勢いを止めない程度で結構ですので、彼の物語も是非是非続けてください。 …
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