切望した再会
時間を止めるってなんだ・・・?
そう疑問に思ったときには視界が暗転していた。
ひどく頭が痛い。腕が、焼ける、ように、痛い。そうか、体に、戻った、のかな。
チル・・・は・・・
意識が途絶えた。
目が覚めると俺の体は緑色の液体に沈んでいた。
不思議と焦りはなく、懐かしい感覚を感じる。
ひどかった頭痛も、腕の痛みも感じなくなっている。
ああ、これって培養器の中なのかな。
だれかが、治療してくれているのか。チルも助かったのかな。
でも、そうだよな。
冷静になった今思い返すと、左腕消えるわ右腕燃えるわの大怪我だったもんなあ。
そんな状態なら、培養器で体の再構築が必要なレベルだよな。
あの酷い頭痛がよくなってくれて本当によかった。
入れてくれたのはコウ達か?培養器って、船にあるようなものじゃないよなあ。
もしかして、もう家に戻ったのかな。
それなら、チルはどうなったんだろう。
無事とは聞いているけど、声が聞きたい。
その思いが届いたのだろうか。望んでいた声が聞こえた。
「トーヤ。」
・・・チル?呼びかけようとするが声が出ない。
もどかしいな。おーい、チル。俺だぞー。
呼びかけに返事はない。
(チルー!おーい!)
そうやって、あれこれ接触を試みているうちに、また意識が途絶えた。
それからどれくらいたったのだろうか。
うっすらと思考がもどって来る。治療は終わったようで、今は柔らかな椅子に座って居た。
懐かしいな、前に培養器から出た時は、コームがいて驚いたっけ。
だが、戻った視界に悪魔はおらず、青空が広がっているだけだった。
柔らかい何かに頭がつつまれている。
「トーヤ、おはよう・・・。」
「ああ、おはよう。チル。」
チルが頭に抱きついていたようだ。無事でいてくれたのか。
・・・本当に、良かった。
ただ、声に元気がないのが気になる。
「チル、大丈夫?何か有った?」
そう言うと、ふよふよと目の前に移動してくる。・・・目に涙を浮かべながら。
「ごめんね。私のせいで、トーヤが、いっぱい、つらい、おもいを・・・」
・・・そうか、責任を感じちゃってたんだなあ。
胸に抱き寄せ、頭を撫でる。
瞳に溜めていた涙は、それを機に流れ落ちた。
抱き返され、胸に顔をうずめられている。
頭を撫でながら、ゆっくりと言葉を返す。
「戦うことを決めたのは俺だよ、それに、守れなくてごめんな。」
抱き返す力が強くなる。嗚咽に混ざり、言葉にならない声が聞こえる。
謝っているようだけれど、気にしなくていいのに。
頭を撫でながら、言葉を続ける。
「こういう言い方であってるかわからないけど、チルが無事でいてくれてよかった。俺はそれで十分だよ。」
言葉を発するのを諦めたようだ。
抱き返す力が弱くなったかと思うと、胸にうずめた顔をグリグリと押し付けてくる。
・・・甘えているのかな?頭をなで続ける。
でも、そうだ、本当に無事でいてくれてよかった。
こうやって、もう一度チルの頭を撫でていると、その実感が強まる。
・・・強くなりたいな。俺のために泣き続けてくれる、この子を守る力が欲しい。
「トーヤ。」
「どうした、チル。」
返事はない。抱き返す力が再び強くなる。
どうしたんだろうか。頭を撫でる。
「とーや。」
「・・・チル。」
なんとなく、わかった。
「とーや。」
「チル。」
相手の名を呼び、自分の名が帰ってくるのが嬉しいんだ。
「とーや。」
「チル。」
今、俺自身がそれを実感している。
そうやって、暫くの間、お互いの無事を噛み締め続けた。
そうしているうちに、ふと、チルは俺にとってなんだろうと、疑問に思う。
人と、人との関係を表す言葉を、俺はたくさん知っているはずなのに。
自分と妖精を示す言葉で、しっくりくるものがない。
どの言葉も、何かが違う。
でも、そうだな。それでいいのかもしれない。
定義はできなくても、胸にある愛おしさに変わりはないのだから。