妖精の見せる夢
夢を見ている。
何故すぐに夢を見ていると気づいたか。
今世の俺の父親が、目からビームを放って惑星を次々に消滅させるという、非現実的にもほどが有る映像を見ているからだ。
どうも麻薬のようなものを栽培していた惑星らしい。
栽培している組織が拠点としている惑星もあったようだが、諸共光に飲まれて消えていった。
場面が変わる。
次は宇宙船の艦隊が相手のようだが、視界を埋め尽くす規模の艦艇が並んでいる。
艦隊の後方にはバカでかい円盤が浮かんでおり、母艦なのだろうかと考えていると、それらも父が指先からビームを乱射して消し去ってしまった。
また場面が変わる。
何なのだろうこの夢は。
なんとなく悪役だと理解できる多様な存在を、父がこれまた多様なビームで消滅させている。あ、つま先からも出せるんだ。そこから出す意味あるのかな。
いくつか場面転換しても、他の攻撃をしていないところを見ると、どうやら父の攻撃手段は基本ビームみたいだ。
どれくらい無双する様を見ていただろうか、どうやらエンディングがきたようで、白い歯を出しニッコリ笑った父の笑顔のアップで暗転した。
虐殺の後にこの笑顔である。父がサイコパスにしか見えない。
あっ・・・スタッフロール?夢だよなこれ・・・?
コームが指導役でクレジットされてる。あ、演出もコームだ。
ひどい映画だったなあ、夢だけど。
スタッフロールの終わりとともに、目が覚めたようだ。再びミニ太陽が部屋を照らす。
明かりに照らされた先に妖精がいた。いや、妖精なのだろうか。花飾りをつけたロングの髪に緑色のワンピースと、いかにも妖精といった部分もあるが、翼は金属のように見える。なにより、そのサイズがおかしい。
でかい・・・?妖精って手のひらサイズくらいのものだと思っていたが、目の前の妖精は1メートル50センチくらいありそうだ。
「おはよ!トーヤ!」
「おは・・・よう」
陽気な声で挨拶されるが、この子の事がわからない。
「ええと、君は・・・」
脳内の情報に慣れていないからなのだろうか。目の前の妖精の情報が浮かんでこない。
「さっきはごめんね!私も生まれたてで加減がわからなくって!」
生まれたて?そのせいで情報が呼び出せなかったのだろうか。それに、何を謝られているのかわからない。
「さっきって、なんのこと。」
「あれれ、もしかしてトーヤは私のことわからない?」
幼いながらも整った顔立ちの女の子が、顎に人差し指を当て、首をかしげる様子は絵になる。などと考えがそれてしまい反応が遅れると、妖精が困ったように話を続ける。
「そっかあ、リンク自体は上手く行ってたと思ったんだけどなぁ。えっとね!私はトーヤの杖よ!」
「杖?」
「そう!杖!」
満面の笑みでそう言われても、何がどうなったら杖になるんだ。
「いや、妖精にしか見えないけど。」
「あれれ、おかしいなあ、杖の情報は間違いなく送ったのになあ。えっとね!私はトーヤの左手に埋め込まれた、杖の管理を補佐する人工妖精なの。妖精なのは間違ってないけど本体はトーヤの杖になるのね。」
「あ・・・骨杖って言葉があったけど、もしかしてこれのこと?」
「そうそう!それよ!よかったー、リンクはできてたみたいね。ただ、流しすぎて正常に読み込めなかった感じかなあ。一旦リンクは切ってあるけど、暫く使わないほうがいいかな。」
コロコロ表情が変わる子だ。見てて飽きないな、なんて考えていると、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「トーヤ大丈夫?頭が破裂しそうだったりしない?」
「ああ、大丈夫だよ。」
ついでに気になってたことを聞こうと思ったが、まだこの子の名前を知らない事に気づく。
「えっと・・・君のこと、なんて呼べばいい?」
妖精はハッとした表情を作ったかと思うと、またニッコリ笑った。
「まだ伝えてなかったね、ごめんね!私はチルよ!」
「チル、か。うん、よろしく。」
「よろしくね!トーヤ!」
なんだか、前世で飼っていた犬を思い出す。尻尾があったらブンブン振ってそうだ。いや、羽がパタパタ揺れているからあれが尻尾的なポジションなのかも。
っと、また思考が逸れた。聞きたい事はまだある。
「それで、チル。なんだか変な夢を見てたんだけど、これはリンクやチルの影響だったりする?」
「正解!あ、でもリンクは関係ないよ!私が見せてたの!トーヤパパのお仕事を見てもらおうと思って!」
「仕事・・・?でもビーム撃ってるとこしかなかったけど・・・?」
「だって!執務室で書類捌いてるとこなんて映しても面白くないじゃない!」
ビーム連打してるナイスミドルを延々と見続けるのもどうかと思うけど、当人は満足そうなので言わないでおくか。
「そうかもしれないね、あのビームは魔法?」
「そうよ!トーヤも領主を継承したらバンッバン撃つことになるわ!」
荒れてるな未来。リンクした情報の印象は割と平和だったのに。
「そうなんだ、でも俺に出来るかな。」
「大丈夫よ!その為に私がいるし、この部屋があるんだもの!」
そういえば、不思議事象だらけでこの部屋の特異さをすっかりわすれていた。
青空にベッドとミニ太陽が浮かんでるだけの世界なんて、寝室には大げさすぎる。
「ここってなんなの、立体映像とか?」
「ここはトーヤパパが作った隔離空間よ!領主魔法は継承してからでないと使えないけど、ここなら練習用を同じ威力で使えるの!」
そう言って、チルが指を鳴らすと。いや、鳴らそうとして「パスン」と情けない音を出すと。青空が暗転し周囲に艦隊が出現した。
「うおっ」
なんて心臓に悪い。告知してほしかった。
「こいつらはさっき夢で見てた宙族の艦隊よ!試しに撃ってみましょ!」
「撃つって?どうやって?」
「どうって、ビームを撃とうと思いながら魔力を込めるだけよ?」
魔力がよくわからないけど、簡単にできそうな言い方だ。やってみるか。
「てりゃぁ!」
・・・
何も出ない。
「リンクはできるのに、魔力がまだ馴染んでない・・・?トーヤは順序がメチャクチャね!」
「そんな事言われても、その順序すら俺にはわからないんだけど。」
「大丈夫!慣れてないうちは『領主ビーム』とでも叫んで撃てばいいわ!」
雑すぎないか・・・?でもビームを撃てるなら撃ってみたい。男の子だもの。
「領主ビーム!」
視界が白く染まる。艦隊は刹那に消滅し、なにもない空間に放たれた極太の白光は、そのなにもない空間を引き裂く。
暫くホワイトアウトした後、戻った視界が見たのは白がメインの石造りの部屋だった。
2019/10/14:領主ビームについて修正