喪失
チルの名を叫ぶ。呼びかけに応えはない。
チルが、チルが死んだ、消えてしまった、俺をまもって。
”「私、あなたの杖として作られてよかったって思ってるの。私は、トーヤに生き延びて欲しい。」”
俺が!油断して敵の策にかかった俺が!悪いのに!
"「つらかったり、なやんだりした時は、何でも言ってね?」"
俺なんかのために!俺なんかをかばって!?どうして!?どうしてそんな!
"とーや、無事でいてね。"
チル・・・俺は・・・俺は・・・お前を・・・
「たかが妖精が消えた程度で大げさであるな。まあ、赤子ならば無理もないのであるか。まったくバカバカしい。」
たかが
たかが?
たかがようせい・・・?
思考がさらに加速する 世界が極端に遅くなる 左手の熱を忘れる
魔力の高まりを感じる。脳が悲鳴をあげている。遮断。
わかる。自分の能力がわかる。媒体の指輪に、込める魔力を調節、しているのが悪かったんだ。
指輪の素材に魔力をねじ込む。素材が変質していくのがわかる。許容範囲の増大。出力の強化。素材の硬化
これで殺せる。それに足る武器となった。確信を持てる。
「・・・いったい何をした!?」
殺害対象が顔に驚愕を貼り付けこちらに叫ぶ。
魔力の流れを察知したようだ。攻撃態勢をとろうとしている。
「そうか!それが管理者の使徒の力であるな!?生かして捉えたかったが・・・!」
思考を加速させる。伴って再度生じた熱や痛みを遮断。集中を増す。
周囲4箇所に魔力源 力押しでかき消す
「馬鹿な!これを防いだだと!?」
同量の魔力をぶつければ消えるに決まっている。次はこちらの番だ。
火球威力重視頭部
慌てて展開したのであろう防壁は、強度の構築が際どかったようで、鈍い音を立てヒビが入る。
防壁確認火球速度重視右足。
足首の先を消し飛ばされたリンドが短く悲鳴を上げる。
「馬鹿な、妖精も使わ・・・」
火球速度重視右腕
肉が焼ける音と悲鳴が聞こえる。
火球の射出が馴染んで来た。
「ま、まて!わたしが・・・」
火球速度重視左腕
肉が焼ける音とうめき声が聞こえる。
撃つ、と思うだけで自然に射出される。
「わ、わるか・・・」
火球速度重視左足
肉が焼ける音とうめき声が聞こえる。
動作が馴染む。考えずとも撃てる。
「ゆる・・・」
火球速度重視広域
肉が焼ける音とわずかなうめきが聞こえる
火球速度重視広域!
肉が焼ける音とわずかなうめきが聞こえる
肉が焼ける音とわずかなうめきが聞こえる
肉が焼ける音とわずかなうめきが聞こえる
肉が焼ける音が聞こえる
繰り返す音は、徐々に変質していく。
骨を焼き尽くし、残った炭を焼く。
何故俺はこれをやっているんだろう。
わからない。でも、これをしなければならない。
永遠に続けるつもりだった作業は、異質な音と共に終わりを告げる。
魔法が弾かれた音と、誰かの嗚咽に気づく。
コウ・・・?ああ、俺は一体何を・・・
指輪が割れる。ロヴィの声が聞こえた気がする。
"どうか、お一人で抱え込まぬよう。皆の助力を受け入れるのも、領主の勤めで御座います。"
そっか、そうだったな、ロヴィ、チルごめん。
二人の教えてくれたこと、まもれなかった。
思考が遅くなる。酷く頭が痛む。視界が歪む。左手も右手も燃えるように熱い。
目の前に炎の塊がある。俺の右手か。割れた指輪から発火して、腕まで引火したようだ。
なるほど、これは熱いわけだな。思考が遅くなる。
あつい、まあ、どうでもいいか。
しこうがおそくなる
あしのちから、ぬけ、
たっているの、めんど、
れあ。が、なきながら、なにかとな、え
ひ、きえ
しこう、おそく・・・