2手目: 【挿し絵:チル/フルカラー】
久しぶりの番外編です。
前話のあらすじは、今話との関わりはあまりないので、後書きに記載致します。
そして、ついにチルちゃんフルカラー版をいただきました!
戦闘モードのクールチルちゃんもうしろに居ます!!
なまえがないさん!ありがとうございます!!
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カツミ=ハラシ様
突然のご連絡失礼致します。
KTFマネージメントにて、HQトータルマネージャーを取り仕切らせていただいている、ハタキヤスマと申します。
今回、ご連絡差し上げたのは、大変耳寄りなお話をカツミ様に・・・
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メール削除っと。
3層民への引き上げがあって以来、こんな、詐欺なんだか、勧誘なんだか、わからん知らせばかりでうんざりしている。
どうにも、俺を評価下さった貴種ってのはぶっとんだお方らしく、60000Yもの魔力を投げ銭なさったと聞いた。
4層民でも最底辺な俺は魔力取引なんぞ関わったこともないが、1Yもあれば大体1月の住居費、供給費、通信費、月額課金が賄える。その6万倍ともなれば、途方もなさ過ぎて想像が出来ない。
勿論、銃振の運営をしているGDQP社も、経常利益数年分の収益に沸き立ち、それをもたらした俺を必死に囲い込んでくるのも無理はない。
ただ、派手に金が動いたことをどこからか知った連中が、全力で擦り寄ってくるせいで、引き上げ手続きと転居手続きの合間に、さっきみたいにメールを削除する日々が続いているわけだ。
だが、そんな生活も今日で終わる。
VR空間内で訪れていた地区庁舎の、転移局担当の女性に最後の入力データを渡す。
「大変お疲れ様でした、カツミ様。これにて、引き上げ手続きが全て完了しました。転居先のB3星系の居住区に付きましては、表層の第2転移門より転移いただけます。チケットナンバF9839D9265888Aをカツミ様に紐づけておりますのでこちらをご利用下さい。これからのカツミ様に、陛下と閣下の祝福と導きが有りますよう。」
転移局の使うAIは4層民向けでも成熟していて、他の適当なデザインと一線を画す可愛らしい外観をしている。大変俺の好みだ。いつかマイルームに専属を購入しよう。
とにかく、ここ数日の手続きが苦にならなかったのは、こいつらのおかげだな。
そうして、作業を全て終えた俺はVR空間からログアウトする。
『ゴキゲンヨウ カツミ』
視界が暗転する。
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VRデバイスから離れ、義手を付け、部屋から這い出した俺は、成人してからこれまで過ごした部屋を見つめ、少し感慨に浸ってみようとするが、失敗に終わった。
人生の9割9分がVRの中で過ごしたんだ、現実側の部屋なんて、定期的に寄る宿くらいの感覚しかない。
まあ、いいさ。人並みに感傷に浸る必要なんてない。これから俺は3層民なんだ。選ばれた人間になった。
俺の人生に絶対に関わりがないと思って、諦めていた地位がこの手に有る。
そんな高揚感のせいか、今日の体は余り重さを感じなかった。
『コンニチワ カツミ キョウハ ドチラニ?』
「第2転移門に頼む。」
『リョウカイ ダイ ニ テンイモン マデ オヨソ 15 フン』
輸送板の耳障りな声も。これで最後だと思うと、案外悪くない声に思えるから不思議だ。
流れ行く森林の映像も、もう見ることは無いんだろう。
B3星系の居住区と言ったら、ヨジァーフンと呼ばれる規格の部屋で、俺が5人は寝転がれる広さあるってだけでなく、立って歩くことが出来るレベルの空間が確保されているそうだ。無駄に広すぎるせいで、何に使えばいいのか、全く想像が出来ない。
その上、区画に一つの公園が有り、なんと本物の木が植えてあるというのだ。
木を生やすスペースなんてあれば、4層民が100人は養えるというのに。
・・・100は言い過ぎかな?まあ、誰に聞かれてるでもないしいいか。
『マモナク ダイ ニ テンイモン』
おっと、もうそんなに経ったのか。楽しい時間ってのはあっという間に過ぎる。
『ダイ ニ テンイモン マエ トウチャク』
到着と同時に輸送板から飛び降りると、いつもの定型文におまけがあったようで、音声が続く。
『イッテラッシャイ カツミ ヨイタビヲ』
「・・・ああ、ありがとう。これからも頑張ってくれ。」
こちらの返事は聞いてはおらず、言葉の途中で待機所に移動していった。
しかし、あいつらに、こんな機能があったなんてなあ。
別れ際になって、少しだけ愛着を感じてしまったのが、少し面白い。
おっと、はやいとこ転移門で手続きしないと。早いとこ部屋を見てみたい。
しかし、貴種様はなんで俺なんかを拾い上げて下さったんだろうな。
案外、ただの操作ミスだったりするかもな。
そんなわけ無いか。
「前話のあらすじ」
1,出発進行
2,船が早すぎることに驚くトーヤ
3,何故驚いたかわからない双子
4,転生したんだけどかなり昔だと説明
5,コウがなんでそんな昔から転生できたのか疑問に
6,死ぬ間際にカミサマ呪ってたら声がして飛んだと説明
7,なんで呪ったの?不幸だったから
8,家族を失い、親類に虐げられた人生を説明
9,レア泣く・コウ怒る・チル撫でる
10,コウが何かを話そうと決意
次回に続く!