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前世

鬱回です。


次話の前書きで、今話の要所を纏めたあらすじを記載しますので、苦手な方は回避して下さい。

「よーし!じゃあしゅっぱーつ!」


チルがそう宣言すると、窓から見えていた星星が流星になって落ちていった。


いや、これは・・・単純にこの船が速いだけか!

とんでもない加速のはずなのに、慣性を一切感じないから気づくのが遅れた。

突然あたふたした俺を不審に思ったのか、コウが声を掛けてくる。


「何かあったのか・・・?」


レアと二人、不思議げに俺を見ている。くそう、現代っ子め。

ジェネレーションギャップをどう説明したものかと考えていると、チルが助け舟を出してくれた。


「ぷふふ、トーヤはねえ、前世返りしちゃってるから、微妙にこっちに慣れてないのよ。」


「そ、そうなんですね。トーヤ様の前世はどちらの領主様だったのですか。」


なんで領主前提なんだ。


「いや、俺の前世はなんというか、今よりかなり昔らしくてね。魔法が無い時代?だったんだよ。」


「「魔法がない?」」


おお、ハモった。さすが双子。

直後、コウが唐突に早口でボソボソとつぶやく。


「・・・そうなると少なくとも帝国成立前で管理者の時代の人間かいやだがしかしそれならどうやってそれだけの年代魂を保持する?数万年単位で減衰してこんな魔力量してるなんて・・・管理者?いやそれなら陛下が動かないのは矛盾する・・・ならば、、、」


独り言のつもりなんだろうが、全部聞こえている。

いや、この体耳よくなったのかな?若いっていいなあ。


「す、すみません、兄は興味をひかれる事があるとこうなっちゃうんです・・・」


「あ、ああ、それは構わないんだけど・・・そんなに俺って珍しいのかな。」


自分の世界に入ったコウはほっといて、レアに話しかけたつもりだったのだが、コウが叫ぶように答える。


「当たり前だろう!?前世帰りは1億人に1人程度発生するから頻度としては多い!だが!それは直近の記憶しか持ち越さない!当然だ!天国か地獄に行き損ねた魂は肉体に入らなければ摩耗してしまう!凡人の魂など5年と持つわけがない。そう、そうだ、それが数万年規模で?・・・お前は一体なんなんだ?・・・どうして、そんな」


興奮して、冷静になって、怯えている。コウって意外に熱い面もあったんだ、などと冷静に考えてしまう。

これも基礎教育の影響なんだろうな。でも、強制的に冷静にされるって、慣れると便利かも。


「あー、そうだなあ、手がかりになるかはわからないけど、前世で死ぬ前に声掛けられたんだ。お前の呪う相手のいない世界に飛ばしてやろうかって。」


「初めて聞いた!何を呪ってたの?」


元気いっぱいに聞いてくるチルの横で、またコウはブツブツモードだ。

「死後の魂を誘導?数万年単位で?時間移行?そんなもの管理者じゃないと。いやだが管理者がただの人間を?時間差があっても同期だけなら最上位の精霊なら?いやしかし・・・」


・・・ほっといて続けよう。


「えっと、前世の俺はなかなか不幸な人生で、まあ不運な出来事が重なってね、死ぬときもよくわからない感じで死んじゃったんだよ。せめて俺の人生が幕を下ろす前に!少しでもカミサマってやつがいるなら呪ってやれ!って感じ。呪うって言ってもおまえのせいで俺は不幸だったぞー!とか、その程度なんだけどね。」


「そ、それほどに不運な前世だったのですか・・・?」


ここまでなんとか明言を避けたんだけど、まあ聞かれるよなあ。隠すことでもないし、なるだけ明るく伝えてみるか。


「まあ辛い割合は高かったかなあ。ざっと話すと、6才の時、学校に入った帰り道で、事故で両親と姉を亡くしてね。その後、唯一の身寄りだった叔母に育てられたんだけど、ちょっと厳しい人だったんだ。まあ、俺は家庭の異物なんだから仕方ないけど、叔父さんと一緒にちょっと失敗すると殴られててねえ、大体いつも体のどこかに痣があってさ、体の痣ができた数なら世界一かも?ハハハ。」


だめだ、受けなかった。

笑いはとれなかったけど、チルが頭に抱きついて撫でてくる。かわいい奴だなあ。


「なんとか仕事に就ける年齢になって、叔父の紹介で仕事についたんだけど、これがまた忙しい仕事でさあ。休みが月に4日しかなくてね。仕事はじめた後に、叔母の紹介で婚約したんだけど、仕事のせいで構ってあげられなくて、結婚前に浮気されちゃってさ。」


いつの間にかコウが独り言を止めてる。


「そんで、その浮気された事を知った後、街をふらふら歩いてたら、頭にガツーンとなんか落ちてきて死んだ!ってわけ。ごめんね、暗い話しで。」


ニッコリ笑って締めだ!・・・まあ、どうやっても雰囲気は悪くなるか。難しいなあ。


「そ、そん、な事。わた、わたし、きが、るにきいで、ごべ、ごめん、ごめんな。さい。」


泣きながら、なんとか言葉を紡いで謝ってくれている。気にしなくていいのになあ。

美少女が台無しだなあ、くしゃくしゃになって泣いてる。

手を握ってきたので、チルにするように頭を撫でてあげると、余計に泣かせてしまう。

こういうのは苦手だ。


「・・・」


チルは何も言わず、ずっと俺の頭を撫でている。ちょっと抱きついてくる力が入ってきてるかも?

レアは俺の胸に頭をうずめてしまった。頭を撫で続けているけど、逆効果かもしれない。


「なんで、お前は、それで笑ってられるんだ・・・」


ちょいちょい熱い一面が出てくるなあ。これは案外仲良くなれるかも。


「いやあ、なんとか笑い話にしたかったんだよ。俺の不幸話も、せめて人の笑いになってくれればなあって思って。難しいな、こういうのは。」


コウは何かに耐えるように続ける。


「なんで、お前は、そんなに強いんだ・・・」


「強くなんかないないっ!前世の俺は流されるままだったんだから。今ならわかるけど、抵抗してればもっとましだったんじゃないかな。」


言われるがまま従うだけの人間だったもんなあ。冷静になる機能?のお陰で自分を見つめ易くなってる気がする。


「今は、ちょっとトラブルは続いちゃったけど、楽しい事やいい人?いい存在?に恵まれてるから、ようやく運が向いてきてくれたって感謝してるんだ。だから、レアもあまり泣かないで、今の俺は幸せだからさ。」


振り返ってみると、前世の分、今は幸せになれてる気がするなあ。

お願いはレアに届いたようで、泣くのをやめるよう努力してくれてるのがわかる。

まあ、大泣きしちゃうと、泣き止むのは簡単じゃないよなあ。

落ち着くまでは頭を撫でておこう。



暫くそうしていると、コウが決意したように声を出してきた。



「トーヤ。僕たちの話も、聞いて貰えるか。」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


不幸だったトーヤ君を、できるだけ幸せにしてあげたいと考えています。

・・・どうしても、山は出来てしまいますが。


できれば、トーヤ君が幸せを少しずつ増やしていく様子を、ご一緒に見届けて頂けると幸いです。

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