別れと旅立ち【挿し絵:チル/ラフ】
チルちゃんのイラストを「なまえがない」さんにいただきました!
無理言ってラフの段階でアップロードさせてもらってます。
完成が楽しみなんじゃあ・・・
え・・・ロヴィは付いてきてくれるものと思ってた。
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「え゛っ、なんで?」
「お供させて頂きたいのは山々なのですが、いかんせん転移機構の修復に時間が掛かりますからな。・・・それと、現代の規格に合うようにしておきたいのです。ショーキ、私の船内に有るもので改修の費用に足る物を買い上げて頂けませんか。」
「そりゃ構わんけどな、トーヤには理由を説明しておいてやったほうがいいんじゃねえか。」
そう言われ、ロヴィは申し訳なさそうな声色で言葉を続ける。目の光も少し弱い。
「これは、私の落ち度なのですが、維持にばかり気を取られており、改修をしておりませんでしたからなあ。チル様には随分とご迷惑を掛けてしまった。」
チルに・・・?一体何が有ったんだろう。
「別にいいのにー!私の方こそもうちょっと融通が効けばよかったんだけどね!」
「こんなボロ船の規格に合わせる方が非効率ですヨ。しかシ、よくサポートできましたネ?」
確かに、チルって外部との通信を切られて、規格も合わないのにどうやって隠蔽とかしてたんだ・・・?
「画面は見られたからね!ロヴィ爺が処理に必要な情報は優先して出してくれてたし!」
皆が絶句する。思うに、前世の感覚だと、PCディスプレイの表示情報だけで、その内部処理を逆算してる感じだろうか。そりゃあ絶句もする。
その中で、立ち直りが一番早かったのはショーキだった。
「規格外なのは妖精も同じか・・・だがまあ、そんだけでけえ体が維持できる魔力量ってこたぁ、演算に回せるリソースも多いのかねえ。」
「そうなのかな!比べたこと無いからわかんない!」
なんとなくだが、凄い事をしてくれてたのがわかったので、お礼に頭を撫でてあげると、「えへへー」と笑いながら羽根がパタパタ揺れる。
やっぱり性質的には犬が近いんだろうなこの子。
「ハハハ。とまあ、そういうことでしてなあ、本来のチル様の力が発揮できる船であれば、トーヤ様のお手を煩わす事も無かったのですよ。」
周りに負担を掛けたくないという心境はわかる。だから、無理は言いたくない。
でも、ほんの数日の付き合いだったとは言え、別れるのは寂しい。
せめて、素直に気持ちを伝えよう。
「そういうことなら、わかった。・・・ロヴィ、有難う。本当に助かったよ。出来れば、またいつか一緒に旅をしよう。」
「おお・・・勿体ないお言葉。どうか、改修の暁には、トシヤ様の手足として働かせて下さい。」
「わたしもロヴィ爺好きよ!今度は普通の旅をしようね!」
そうだ、まずは日常に戻って普通の、逃げ回るんじゃなく、旅をしたい。
せっかく、未来に生まれ変わったんだ。いろんな未知を体験してみたい。
そんな俺の願望を察したのかはわからないが、コームが思いがけない事を言い出す。
「・・・いいでしょウ。ショーキ!ボロ船の改装費用は私が持ちまス。最上級の改装ヲ!まア、あくまでトーヤ様の為ですがネ。」
「グハハハハ!お前がんなこと言い出すなんてなあ。・・・いいねえ、やれるだけやってやるよ。」
「・・・かたじけない。助かります、二人共。」
転生して、いろいろ有ったけど、本当に、周囲の関係に恵まれて良かったと、そう思えた。
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コームは、父の居ない間の領主を代行するそうで、俺たちが転移する前に通信を終えた。
結局、日が沈んだ後に新しい船へと転移したのは、俺とチル、コウ、レア、ショーキの5人で、大きな窓から星の見える、応接間のソファに腰掛けている。チルは俺の周りをふよふよと浮いているが。
「よし、先ずはトーヤ、わりぃがその通信を妨害してる腕輪だが、杖と完全に同期しててな。専門の設備がねえと外せねえ。コームと連携して、船とチルが直接接続できるようにはしたが、船経由でも通信は妨害されるだろう。まあ、実家迄は護衛船を4隻つける。必要な時はそいつら経由で通信するといい。」
4隻もつけてくれるのか!自分の船だけで帰るもんだと思ってた。
そう考えていたのは俺だけじゃないようで、チルも驚きの声を上げる。
「4隻ってすごいね!余ってたの?」
「船がそうそう余るかよ。こいつらぁ輸送船も兼ねててな。人工妖精制御だが、お前と違って操艦と戦闘に特化させてある廉価版でな、お前んとこの領地と交易してる無人機だから数出せるってわけだ。」
なるほど、輸送船団に紛れて移動する感じになるのか。
「まあ、懐かしい顔にも会えたんでな、その礼も兼ねてる。船内の設備は好きに使え。道中何を好んで食ってたかはロヴィから受け取ってるからな、再現できるぜ。好きなもん食いな。」
四角肉ステーキがまた食べられるのか、地味に嬉しい。
・・・いや、四角じゃ無くても別にいいか。
「それとだ、今後の戦闘はチルに任せろ、いいな?」
「えっと、それってどういう・・・」
「これまではとんでもなく古い船で、チルのリソースもサポートで使い切ってたから、お前の役割が有ったんだ。現代艦の戦闘はド素人に務まらねえよ。そういうのは基本、妖精の仕事だ。」
「うんうん!任せてー!制御系は掌握させてもらったから、戦闘も操艦もバッチリよ!」
そういうことか。わかった、と返事を返すと、ショーキはコウ達の方に顔を向け言葉を続ける。
「それと、コウ、レア、お前らも道中は供給を断って飯を食え。」
「なぜ・・・栄養は供給で取れるから、食事をする意味なんてないんじゃないか。」
レアもいまいちよくわからない、といった表情だ。
ショーキがため息を吐き、続ける。
「お前ら、物心ついたときから俺んとこいるからな・・・人間領と精霊領じゃ文化も風習もちげえんだよ。お前らが将来暮らしてく為に必要なもんだ。先ずは、トーヤと一緒に過ごして常識を学べ。」
・・・俺もこっちの常識には疎いんだけどなあ。
「いいか、こいつは先週生まれてきたばかりだが、お前らと違って基礎教育が完了してる。基礎教育が足りねえ分、妖精がいねえ分、何が自分に足りないのか、見て学べ。トーヤ、チル、そんなわけだ、頼むわ。」
返事を返すと、チルと被る。
「わかった」「そっちも任せてー!」
その様子を見て、ニヤリとうなずくと、ショーキはその姿を消した。
転移で帰ったのだろう、ほんとにせっかちだな。
しかし、基礎教育が完了してないってどういう状態なんだろうな。
複雑な事情が有りそうだけど、聞いて良いものか悩む。
まずは、二人と話してみるか。
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