空の中の目覚め
どれくらい寝ていたのだろう。
体にけだるさは無く、のどの渇きや空腹も感じない。
あまり長くは寝ていなかったのだろうと考えながら、ゆっくりと瞼を開くと、
それに呼応するように淡い光が灯った。
センサーのついたライトだろうかと、光の元に目をやると、ミニチュアの太陽がそこに浮いていて、
部屋を照らしていた。
「浮いてるのか、無駄に凝ってるなあ」
そうつぶやき、辺りを見渡すと、見渡す限りの青空にベッドと太陽だけが浮かぶ空間であることに気づく。
「ベッドも浮いてたのか…」
前世では高所恐怖症だった俺だが、今は不思議と恐怖感を感じない。
頭に植え付けられた情報が少しはなじんできたのか、命に危険のある状況でないことがなんとなくわかる。
死ぬ間際に聞こえていたあの声を信じるのであれば、ここは未来の世界なのだろう。
子供の寝室一つでここまで大掛かりな設備を用意できる時代が、自分の時代からどれくらい離れているのか、想像するだけで頭が痛くなってくるが。
そういえば、あの悪魔はどうしたのだろう。
服装や俺に対する態度を見るに執事か何かなんだろうが、この家は悪魔をも従えているんだろうか。
そんな事を考えたせいなのかもしれない。
突如、黒い霧が現れ、濃くなっていったかと思うと悪魔の形を取っていった。
「おはようございますス!トーヤ様!」
「あ、ああ、おはようございます。」
変わらず語尾が高音の、浮遊する悪魔に気おされてしまう。
なんだか無駄にテンション高い人…いや悪魔か、そんな印象だけど、生まれつきって話だしこれが普通なのかな。
「お加減は如何で御座いますカ?」
首を傾げつつそう聞いてくる。
顔だけ見れば人間なんだけど、やはり角と大きな三対の黒い翼のせいで少し怖いな。
でも、頭の情報は大丈夫だと判断しているようで少し混乱しつつも、質問に答えようと口を動かす。
「ああ、大丈夫です。ただ、今の状況がわからないので、出来れば教えて欲しいんですが。」
「畏まりましタ!」
にっこり笑って言われると、やはりテンション高い奴に思えてしまう。
「貴方様は栄えある大領地、ブルーク大銀河団の統治をなさル、ハーキル・アイビーネ・ブルーク辺境伯様の第一子で有らせられまス、トーヤ・アイビーネ・ブルーク様でございまス。そモ!ブルーク家は初代皇帝と共に管り・・・」
父の名を聞くと、端正な黒髪のイケメンが脳裏に浮かんだ。
これはもしかして・・・
「遮って申し訳ないんですが、俺は脳に何か情報を…えーと、インストール?書き込み?されているんですかね。」
そう聞いてみると、悪魔は目を見開きながら答えをくれる。
「えエ!えエ!左様で御座いまス!学習された情報はそのままでは脳内に”有る”だけで御座います故ニ、こうして紐づく情報をお伝えすることで呼び出し易くするのですガ、ご自身でお気づきに為られるとハ!!やはリ、トーヤ様は将来が楽しみなお方でございますネ!」
拳を握り熱弁している悪魔を眺めながら、唐突に高まったテンションについていけず、ポカーンとしていると、悪魔は我に返ったようで話を続けて来た。
「コほん、失礼致しましタ。お察しの通リ、貴族家のお世継ぎはお生まれになるまでニ、様々な調整を行うことが一般的で御座いまス。ですガ、それだけではお力やお知恵を存分に発揮することが出来ません故、私のような守護精霊がお力添えすることデ、より良い領主となっていただくべく日々…」
「せいれい…?」
え、あれ、いや、こんな真っ黒な翼と恐ろしげな角で・・・?
「おヤ、何かご不明な点が御座いましたでしょうカ」
いやまあ、聞きたいことは沢山あるんだ。
この世界の事、この空間の事、父親や領地の事とか。
俺はこれからどうなるか、何をすればいいのか。
でも、まず聞いておかないといけない事は一つ。
「結局、貴方はなんなんですか?」
※2019/10/13 誤字修正、改行を変更。
※2019/08/15 06:42 誤字修正