吐露
※2019/09/28 誤字修正
確信があるわけじゃない。
転生してから、自分の思考に違和感を感じることが多いが、今日は特別不気味だ。
昨日、人を殺して、まだ、少し、その感触が手に残っているのに。
転移する過程に興奮した。
宇宙に出て希望に胸をふくらませた。
離れていく青い星を見て、外宇宙にむかうのだと心が踊った。
光線の操作を褒められ、嬉しかった。
おかしい。
人を殺したことがあるわけではない。
でも、前世の自分はここまで冷血だっただろうか。
ちょっとした行き違いや、少しの口論があるたびに、悪いことをしたと落ち込んでいた自分が。
「えっとね・・・ごめんね、トーヤ。鎮静は掛けたけど、他に心当たりはないよ。」
戸惑うように言葉を続ける。
「何か、おかしなことがあったの?些細な事でも教えて、私はトーヤの力になりたい。」
・・・チルが何を考えているのかはわからない。
ただ、心配そうに俺を伺う表情は演技には思えない。
どう伝えればいいだろう。言葉に悩む。
「・・・俺、昨日人を殺したのに。・・・それを仕方なかった、って割り切ってしまってるんだ。・・・・・・いや、割り切ってしまえるような自分になってしまってるんだ。」
チルは何も言わず頷く。
「嫌に冷静な時があるし、昔の自分では考えられないほど飲み込みがいいし、転生してから、違和感を度々感じてきた。俺はどうしちゃったんだろうって。」
少しの静寂。
チルは、俺の目を真っ直ぐに見て、ゆっくりと言葉を掛けてきた。
「トーヤ、それは多分、基礎知識の影響だと思う。身を守るための戦いや、罪人を裁く事を許容しない人が領主になると、悪い影響が出ることが多いの。それで、今はそういう考えにならないように知識や考え方が最初からある程度誘導するように、ルールが決まっているのね。トーヤは、前世の記憶を持ってきちゃってるから、2つの常識が食い違って、それで苦しいのかもしれない。」
「ああ・・・」
理解出来る。自分の心が2つあるような時があった。そういうことだったのか。
俺は、そういう存在に、変わってしまっていたんだ。
(問題は無い、そうあるべきだ。)
前世の自分の感傷なのだろうけど、それでも、変わってしまった事がこわい。
(むしろ変わらねばならなかった、あの場でチルを見捨て自分だけ逃げたとして、捕まるのは時間の問題だったろう。他者と連絡を取る手段を持っている以上、殺害が合理的だ。)
より大きく相反していく心の動きに狼狽していると、チルが俺の頭を抱き寄せ、髪を撫でながら優しく声を掛けてくる。
「気づいてあげられなくて、ごめんね。・・・まだ、少しの付き合いだけど、私、あなたの杖として作られてよかったって思ってるの。私は、トーヤに生き延びて欲しい。今はどうしたらいいかわからないけど、別れちゃった心も、少しずつ近づけるように手伝うから。」
抱き寄せる手に力がこもる。
「・・・まずは、トーヤが安全って言えるようになるまで、どうか、生き延びて欲しい。」
頬を伝う液体に気づく。俺は、泣いているようだ。
感情は大きく揺れ動き、今自分が何を考えているかわからない。
でも、涙がそれらを少しずつ洗い流してくれたのかもしれない。
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少しずつだが、気持ちが強くなっていくのを感じる。
生き延びよう。そうだ、生き延びよう。
俺はまだ、楽しい事をやりきっていない。
(俺はまだ、領主として生まれた責務を果たせていない。)
心は別れそうになっているが、二つの心の共通点はこれだ。
今はそこに縋る。自分のために。
自分を慕ってくれる妖精の為に。