宇宙へ
ロヴィの目の光の点滅が激しくなる。
「トラッカー、転移状態へ移行。エネルギーバイパス接続。成功。供給開始。安定、3割維持。反転炉保護。完了。転移先座標検索。確認。保持開始。座標干渉領域にアクセス開始。」
少し力を吸い上げられる感覚がある。チル経由で供給してるんだろう。
しかし、読み上げている事がさっぱりわからない。ディスプレイにも船の状態を示してるような数字やらグラフやらでているが、こちらもさっぱり。
邪魔したくはないし、黙って聞いていよう。
「転移先隠蔽するね!」
「お願いします。保持完了。障壁展開。座標干渉領域アクセス成功。トラッカー、転移待機状態に移行。トシヤ様。出発の号令を。」
え、俺に振るの。
「トラッカーって名前の船なの?」
「ええ、トラッカーです。」
「よし・・・トラッカー発進!」
振動が止まった。ディプレイが激しく明滅する。
・・・失敗か?
「転移成功。隔壁格納。保持解除。反転炉保護解除。供給停止。エネルギーバイパス切断。」
力を吸い上げられる感覚が消える。よかった、成功だったんだ。
ディスプレイに宇宙の星々と一際大きな青い星が映っている。
「隠蔽は成功したよ!魔力痕跡は残ってないから、早く移動しちゃおう!」
「有難うございます。トラッカー、加速開始。シールド展開後20auまで加速します。
・・・現行の隠蔽や探査は私では判断がつきませんからなあ。改善せねば。」
青い星を背に向け、トラッカーが移動していく。
少し黒ずんだ青だったなあ。地球より汚染が進んでいるんだろうか。
「えっと、宇宙に出たのはいいんだけど、直接家に帰ったりはできないの?」
チルが少し困ったような顔で答える。
「んっと、それがね、ここって領地の中ですみぃーっこに有るの。転移で移動してきたみたいなんだけど・・・」
「この船は転移は短距離しかできませんでな。最大航行速度と転移を駆使して移動したとして、半年はかかりましょう。」
「そんなに掛かっちゃうか。」
「でも!虫食い穴が近くにあるから!・・・えっと、他次元に移動する門みたいなものね!そこから友達の領地に行って転移機能のついた船を借りさせてもらえばいいの!」
なるほど。いや、でもまてよ。
「船なんてそうポンポン貸してくれるものなの?」
「トーヤは前払い出来るから大丈夫よ!」
「前払い・・・?金なんてないよ。電子マネーにチャージされてるとか?」
チルが不思議そうに答える。
「でんしまねー・・・?えっとね、お金って今は3層までがメインで、たまに2層も使うかな?貴種はだいたい魔力で払うのよ。」
便利すぎない?俺大金持ちってことになるじゃないか。
「汎用性の高いエネルギーではありますからなあ。しかし、通貨の位置を奪うとは思っておりませんでした。」
「前は違ったんだ。」
「左様でございます。帝国臣民は、それぞれに識別番号が埋め込まれ、貢献に応じた点数が付与され、それで支払っておりましたよ。・・・私も少々蓄えていたのですが、今となっては使えないでしょうなあ。」
埋め込まれってなんだ。
しみじみし始めたロヴィを放置したまま、チルが続ける。
「つまりね!トーヤは魔力いっぱいあるから、船くらいなら借りれちゃうのよ!」
「取り敢えず、当面問題なさそうなことはわかったよ、説明ありがとね。」
チルがニッコリ笑って答える。
「どういたしまして!」
続いて、ロヴィもお辞儀をして答えた。
「お力添え出来て幸福でございます。」
良いことと悪いこと、両極端にいろいろあるけど、取り敢えず旅の仲間が良い奴らでよかった。
片方は律儀過ぎる気がするけど、それも有りか。
「さて、それではトシヤ様、今のうちに当艦の機能についてご説明させていただきたく存じます。」
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