殺害、認証
カンカンカンカン
足音が止まる。ここの入り口に到着したようだ。不意打ちで殺せ、か。
それが最も安全だと叫ぶ感情が俺の中に有ることに少し動揺する。
いや、でも殺しちゃダメだろう・・・
「おい!ぼっちゃん!居るのはわかってんだぜ!すぐに出て来りゃ痛い目に合わなくて済むぞ!」
見られたか?生体反応のレーダーとかに引っかかったか?
逃げるか?だが相手の武装は・・・?
『マスター。幸運にも対象の武装は旧式の熱線銃のみです。私の展開する防御隔壁で数回防御できますので、殺害をお願いします。』
(殺害っていわれてもなあ・・・)
『マスター。このままこの施設に残留した際に生存できるか不明瞭かつ、生存できたとして身体的・心的な外傷を負う可能性が高いと推察しています。どうかご決断を。』
「R-12、ハズレだ。点検の後次に向かう。ああ、理解してございますとも!隅々までしっかりと確認しますでございます!・・・くそっ、めんどくせえ。」
そう言うと男が歩き出す。
(防御隔壁張ってる間に逃げるとかどうかな?それか俺の魔導刃で脅しで武装解除するとか。)
『時間が有りません、マスター。幸い私はサイズが大きい。私が気を引きますのでその間にお逃げ下さい。』
(いや、まてまて!危ないんじゃないのか!)
チルが飛び出し、光を放つ。目くらましだろうか。
「うぉ!なんだてめえ!」
不意を突かれた男は、怯んだような声を上げる。だが、それなりに冷静だったようだ。手に持っている棒が発光したかと思うと、赤い光がチルに向かい伸びる。思考が加速する。
守らないと。どうやって?魔導刃?防げるのか?動画で似たような武器で魔法を弾いていた。
あれは魔法か?判断できない。防御隔壁は?展開する?展開方法不明。賭けよう。
そう決めた刹那、光線とチルとの間に魔導刃を差し込む。
熱線は止められている。刃が光線に押される。押し返さないと。腕に力が入る。
思っていたよりもすんなりと、魔導刃は光線を押し返し、そのまま振り抜かれた。
振り抜いた刃は、力を入れたせいか、先の倍以上の長さになっており。
振り抜かれた先に居た襲撃者の、上半身を消滅させていた。
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『落ち着きを取り戻されたようで安堵しました。マスター。ですが、私を守護する必要は有りません。どうかご自身の安全を第一にお考え下さい。』
「ああ、うん。えっと、ごめん。」
『ですが、お見事な対処でした。結果的に魔力も温存されましたし、良い手であったと判断します。』
慰められている?だが、そうだ。困惑や後悔をしている暇はない。
心の中より湧き出るそれらの感情に蓋をする。
鎮静のおかげか?冷静さを維持できている。今もまだ、血の匂いは漂っているのに。
「うん、そう考えよう。ルートはどう?」
『ご案内します、こちらへ。』
チルのナビゲートは完璧だった。目的地が見えない事を除けばだけど。
敵の遭遇を避け、俺達は洞窟を進む。
結局、出口は発見出来ず奥へ奥へと進んだ先に、金属で出来た扉を見つけた。
チルが壁に手をあてる。
『古代遺跡のようです。解錠すべくアクセスしていますが、反応がありません。装置の故障、規格の不一致、リンク妨害による影響のいずれかの原因が推察されます。魔導刃による扉の破壊を提案します。』
いや、でも、これって。
扉横のセンサを指しチルに尋ねる。
「指紋認証じゃないの・・・?」
『指紋を認証にですか?そんな簡単に複製できるものを?理解出来ません。』
昔は簡単に複製できなかったんだけどね・・・今は押し問答してる場合じゃないか。
「昔は割と使われてたんだ、こう、センサに指を当てると。」
ガシュー
・・・ドアが開いた。
指紋があれば誰でもいいのか・・・?
『古代遺跡の解錠をこれ程手軽に行うとは。お見事です、マスター。中に生体反応は有りません。扉も強固な素材なようですので、立て籠もり救援を待つのは有効な手と思われます。』
俺は何もしていない、が、でもそうだな。
「うん、中に入ろう。」
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