戦闘モード移行
視界が白く染まる。
美しかった青空は白に飲まれて消えた。
自前の魔力だけでこれか。
手のひらを返すのは得意だ。やはり魔力は高くてよかった。
さて、何が出てくるかわからない。身構える。
そこは真っ暗な空間だった。
「暗視つかうね!」
「そんなのあるのか、便利だね。頼むよ。」
うっすらと茶色い岩肌が見えてくる。辺りを見渡すと、どうにも洞窟の中のようだ。
どうするかな。
「うーん、リンクできないなあ。えっとね、多分だけどここは領主クラスの持ってる緊急転移先だと思うの。」
「きんきゅうてんいさき?」
知らない言葉だ。
「そう、緊急転移先。こういう、しっかりした洞窟にあぶないときに転移出来るようにしてるの。えっとね、それでね、とーや。ごめんね、場所はわからないや。」
「そっか、わかった。謝らなくていいよ、とにかくふたりとも無事だし。でも、これからどうしようか。」
ビーム撃つか?・・・落盤が怖いな。
いや、そうだ!
「ワープとか転移とかって使えないの?」
「転移は生まれたてだとロックされてるの。どこに行ったかわからなくなると危ないから。」
それはそうか。まだ生後数日だもんなあ、俺。
「!?とーや、ごめんね。ばれちゃったみたい。隠蔽が完璧じゃなかったかな。」
まあ、空間あれだけ派手に壊せばバレるよな。
「いいっていいって、壊すのも逃げるのも俺は賛成したんだから、俺の責任でもあるよ。それで、ばれたっていうのは何か近づいてきてるってこと?」
「うん、6人きてる。取り敢えず近場の地形を出すね。」
おお、3DMAPだ。・・・うわあ、蟻の巣かな?
迷路上に入り組んだ先の部屋の一つがここのようだ。
この赤い点が敵かな。俺の位置はばれてないようだ、それぞれが違う部屋に向かっている。
出口までの道のりは・・・あれ、MAP途切れてる。
「ごめんね、走査できた範囲がここまでなの。移動しながらちょっとずつ確認するしかないかなって。」
「十分だよ。ええっと、戦闘になったときに、ビームだと落盤がこわいよね。」
「微妙なとこね。んっとね、私の権限で魔導刃は渡せるよ。護身用の武器なの。」
「まどうじん?」
枯れた中二心に火が付きそうな武器だな。
「うん、魔導刃。えっとね、手の指先をまっすぐにして、そこに魔力を流してみて。慣れないうちは魔導刃って言ってみるのもいいよ。」
「魔導刃!」
おお、出た出た。
「うわあ、トーヤは非常識ねえ。」
・・・?
てっきり、手からカタールみたいな刃が出ると思ってたのに、
天井を焦がす勢いで太く長い刃が出ていた。
・・・いかん、焦げてるのはよくない。きえろーきえろー。
きえない。
「どうやって消すの?」
「え、んっとね、右手をぐーして消えろーってやればいいよ。」
なるほど、セーフティかな?戦闘中意図せず消えたら困るもんな。
ぐっと握りこぶしを作り消えろと念じることで刃は消えた。
よし、うん、これ使いみちないな。せいぜい脅すくらいか。
「他には無い?」
「あるよー。あっ・・・でもだめみたい、一人近づいてきてる。」
隠れてやり過ごせないかと見渡すが、少々大きな岩がある程度だ。
一応入り口からは死角にはなる。チルとそこに隠れる。
「気づかれたらどうすればいいかな。」
「えっとね、学習モードだと限界があるから、戦闘モードに切り替わるね。」
戦闘モードときたか。
今日のチルさんは俺の中二心を、ちょくちょくくすぐってくるなあ。
「えっと、わかったよ、お願い。」
『戦闘モード起動。認証プロセス・・・失敗。通信が遮断されています。緊急状況を確認。戦闘機能の全解除。失敗。年齢制限領域にアクセス。解除申請。失敗。ロックされています。兵装部へ直結。失敗。ロックされています。領主領域にアクセス。失敗。ロックされています。』
脳内に唐突に響く声。時間にして1秒に満たなかったと思うが、何を言ってきたかはしっかり伝わった。
理解はおいつかないけど。
『状況は非常に悪いようです、マスター。戦闘となった際には魔導刃による不意打ちを実施下さい。』
「わかった、足を狙えばいいかな。」
『優先目標は頭です。確実な殺害が見込めます。足については追跡の妨害にはなりますが、死亡確率は低いので推奨しかねます。』
「いや、流石になるだけ殺さずに逃げたいんだ。」
カンカンカン・・・
金属音のような足音が聞こえた。
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