初手:
投稿をするとアクセス数が伸びる。
これ、中毒性がありそう。
死んだ。
視界が暗転する。
せっかくここ迄上り詰めたんだがなあ。でもまあ、初見でこれなら上等だろう。
魔導刃を使った暗殺プレイはなかなかハマったな。
序盤で手に入ったのは運が良かった。
機械種族だと腕力勝負がセオリーだが、そこから外せたのもでかいか?
『Gamut of human experience FD:24』
タイトル画面が表示され、アップロードを選択。
3年分の記録なだけあり、暫く掛かりそうだ。
動画投稿文のテンプレートを呼び出し、今回用に少し修正。
アップロード時間予測は5時間か、メンテ行こ。
予約っと・・・ついてるな、すぐいけそうだ。
『ゴキゲンヨウ カツミ』
視界が暗転する。肉体との再同期がおわり、目を覚ますと、ついに40を迎えた俺の体があった。
今度はどの程度稼げるだろうか、前回は24を買うので精一杯だったからな。
などと考えつつ、VRデバイスから左肩を抜き、外出用の義手を取り付ける。
3年ぶりの生身は、重い。メンテが終わったらすぐにでも戻りたい。
そう思いつつ、居住カプセルから這い出す。
スーツを確認するが、欠損はなさそうだ。
視界に広がる居住カプセル郡を見てため息が出る。
出口までこの重い身体で歩かにゃならん。
俺は4層民の中でも、最低ランクに属する貧乏人だ。
出入り口から距離がある、中央に住んでいるため、センターと言われ、同じカプセル民からも見下される存在だ。
動画投稿でなんとか最低限の収入は上げているが、新作も発売直後には手が出ず、セール待ちでなんとか購入している有様。
実際今プレイした銃振も、発売から2年遅れでプレイ開始している。
果たして次回作につながるだけの再生が稼げるかどうか。
あれこれ考えているうちに、居住区から出て、浮遊している輸送板へ座る。
俺の身体を固定した輸送盤が高度を少し上げ、目的地を訪ねてくる。
『コンニチワ カツミ キョウハ ドチラニ?』
「メンテナンスユニットだ。」
『リョウカイ メンテナンスユニット マデ オヨソ 5 フン』
3年程度で輸送板に変化はないか。
もう少し耳障りの良い声にしてほしいもんだ。
森林地帯の街中を進む。森林は壁に投影されているだけだが。
景色を眺めていると、耳障りの悪い声が聞こえてくる。
『マモナク メンテナンスユニット』
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メンテはあっさり終わった。半日はかかっているが、短いほうだ。
VRプレイヤーは健康体が多いそうだが、当然だな。
肉体の管理なんてAIに任せたほうが間違いが無い。
例え実験動物レベルの扱いだとしても、それを受け入れ、キッチリ遊び切るのが正しい4層民の一生なのだ。
帰りの輸送板から見える景色は暗い。夜の映像に切り替わっている。
地下居住施設の住人にも、朝晩の区別がつくようにと壁から天井にかけて全面に投影された風景。
前に一度地上に出たことが有るが、景色に大差は無かった。
正直俺は地下の景色の方が好きだ。
ただそこに有っただけのものではなく、どこかの誰かが、地下に住む民の過ごしやすさを考えてくれた過程を感じるから。
居住区に戻り、出入り口からかなり距離のある愛しの我が家へと歩く。
健康体なんだろ、もう少しくらい軽く動いてくれ。
なんとか居住カプセルに戻ると、入り口の蓋が「プシュ」と音を立て自動で閉じる。
ああ、愛しのマシーン。
俺はすぐさま義手を外し、左肩をVRデバイスへと接続する。
さて、戻ろう。
『コンバンワ カツミ』
接続が完了し、VRメニュー画面が表示される。
再生数を確認したいが、至急確認のタグがついた新着メールがある。
心当たりがない。まあ、開けてみよう。送り主は・・・銃振の運営?
俺の動画が、貴種の大物に評価された・・・?
俺には運営提供の居住区への移住と、5年間のプレイ契約を結び、3層民に上がって欲しい・・・?
許諾するなら返信を、とつつづいていたようだが、余りに非現実的な展開に思考がついていかない。
ようやく思考を取り戻し、慌てて「許諾」とだけメールを返信したのは10分後の事だった。
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どうぞよろしくお願いいたします。